気付いてしまった、正体不明の想い

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 翌日。

「陽子ぉ、こないだのフォルダ漁りどうなった? やった? アタシの気持ち、わかってくれた?」
 私はグッと答えに詰まったけど、良一の名誉もあるので、かなり高度な判断をした。
「えー? まだやってないわよ、そんなの」
 私が良一をイジメるのはいいけど、良一がクラスの子にバカにされるのは嫌だ。
「なーんだぁ、はやくやんなよぉ。京山くん、どんな画像でオナニーしてんのかしらね」
「お、オナニーって?!」
「やだ、いまさらカマトトぶんないでよ。ほら、ティッシュ片手に男子がナニをゴシゴシって」
「うげ、良一が? キモっ! 想像したくないわ」
「あれぇ? あたしだったら京山くんならアリだわ」
「ちょっ、ちょっ、何よそれ」
「京山くん女子の人気高いんだよ? あんた本当に疎いわねぇ」
「だってアイツ、こないだもフラれてたよ?」
「カレシいる子に声かけんだもん、当たり前っしょ? 茉理はカレシのことナイショ派だから知らなくて当然なんだけど」
「なあんだ。うはは、バカだなアイツ」
「何言ってんのよ。茉理は京山くんとなら一回くらいイイかなーって言いながら、陽子に遠慮して手ぇ出してないんだから」
「は?ァ?あ?!」
 私は手のひらをベシっと額に押し当て、肘をゴンと机に突いて俯いた。

 あー、もう、年齢が上がるたびにススンでる子との差をいちいち思い知らされるけど、私がお菓子のレシピを漁るのと同じ勢いで、男の子を漁りまくってる子たちも居るんだなぁ。
 茉理ちゃん楚々として見えるから、良一なんて学校でのイメージのまんまの茉理ちゃんにコクって玉砕したんだろうなぁ。
 ほんと、哀れなヤツ。

「だからさぁ、良一とはそんなんじゃないってば。何度言わすのよ」
「ともかく画像漁ってみなよ。陽子が今ぜんぜんそんな気じゃなくとも、何かのハズミってコトはあるから、相手の嗜好を知っといても損は無いっしょ」
「ハズミって…… バーカバカしい」
 淳子も悪気があって言ってるわけではなく、彼女たちの発想では至極当然なのだろう。

 嗜好ねぇ……
 ボンデージと、私の水着写真。
 変態ちっくだけど、別にアリじゃないの?
 私の水着写真を大事にしてるってコト自体は、なんだか悪い気がしないって思える。
 ボンデージと私の水着写真で、良一も男の子の一人として、ティッシュ片手にナニをゴシゴシ……
 ゴシゴシって…… ?!!
「ぎゃーーっ!」
「うわああ! どうしたのよ陽子!」
「ぐはっ、ごっ、ごめん、えーと、べべべべつにエッチな画像を集める『だけ』が趣味ってヤツもいるよねぇ?」
「バッカじゃね? 飲まないジュースをわざわざ自販機で買うわけないじゃん。買うからには飲む。画像集めるからには……」
「うーー! もういい!」
 私は、私の水着写真で良一が自慰行為をしているかもしれないという事実に気分が悪くなり、そのまま机に突っ伏した。

 放課後、良一と一緒にやりたい宿題もあったけど、どうにも顔を合わせ辛くて自分ちに直帰した。


 携帯が鳴る。
『どうした? 体調でも悪いの? 英語あんだろ?』
「いい。自分でやる」
『おい、陽子、おかしいぞ? 俺、何か悪いことした? なぁ! ちょっと!』
 ブチィ!とスマホの液晶画面突き破る勢いで通話を切った。

『何か悪いことした?』
 ってことは、あんな秘密のフォルダに画像溜め込んだことは、悪いと思ってないわけね?
 ……でも淳ちゃんが言うように、私の方が異常なのかなぁ。

 だいいち、おかしいよ、ヘンタイだよ。
 だって直接私の水着を拝むコトの出来る最高に贅沢な環境にいるのにさ、その時は興奮しないで、写真で興奮するなんて。
 じゃあ、あの大量のボンデージ写真の外人なんてあんまり綺麗じゃないヒトも結構居るのに、そっちの方が興奮するってことでしょ?
 そんなモンで興奮する位なら、私のボンデージ姿でも想像しながら恥ずかしいオナニーしろってんだ!

 ……!!

 そこまで思い付いた瞬間、心臓がキュウウと締め上げられ、背中に冷や汗がドッと浮いた。

 ……それを……やってるんだ……

 私の水着は問題じゃなくて、必要なのは私の顔。
 ボンデージ写真の顔を私に置き換えて、私がボンデージ着てるところを想像しながら……オナ……!

 また、耳の後ろがカアアアッと熱くなった。
 ドッドッドッドッドッドッと、耳の真横に心臓が来たみたい。
 恥辱ではない。
 怒りでもない。
 本当はその二つの筈なのに。
 恥かかされて、バカにされて、怒ってる筈なのに。

 今感じているのは、もっと奇妙な気持ちよさのある興奮。

 興奮ていうか、快感……

 今まで経験したことのない指先まで痺れるような熱い興奮に襲われて、パンツの奥が何だかドロリと重くなった。


 また携帯が鳴る。
「なによ」
『あー、ごめん。』
「なにが」
『あー、あの、水着写真のことだろ?』
 ……
 私の熱でボーッとした頭は、私の口を勝手に動かした。
「そうよ」
『ごめんな。もう完全に削除したから。……ごめん』
「別にもういいわよ。私の水着なんていつでも見れるのに、隠れてコソコソ見てるのが頭きただけ」
『いつでも見れるわけないだろ』
「堂々と『見たい』って言えば、そんなものくらい、いつでも見せてやるわよバーカ」

「『見たい。』」

「えっ?! ちょ! あの、今あぁ?! そんな、け、剃……、準備……、えと、あの……」

『冗談だよ』
「もーーっ!!」
『ごめん』
「プッ! あー、でもアホらしくなった。もうふっ切れたわ。そっちに英語やりに行く」
『あのアイスまだあるぜー』
「そりゃどーも!」

 もう制服から部屋着になっちゃってるので、そのまま英語の教科書と宿題プリントと携帯だけ掴んで良一んちへ向かった。

 さっき重く感じたパンツは今は何とも無かった。

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