【首輪編】
ナナとカオル二次創作【首輪編】
「首輪ァ? 今更ァ? 前にやったじゃない」
「バーカ、首輪ほど奥が深い道具もないんだぜ」
正直、もう経験しちゃった道具は刺激が少ないんじゃないかと思ってる私。
「以前言ったろ、穴が1コしか無い首輪。特定の奴隷の首にさえ合えばいい、その奴隷専用の首輪」
ゴクリ、と生唾を飲む私。
「あ、そ、そんな話、してたわね」
「それともう一つ、これは『息抜き』というより実験なんだけどな、首輪はユルい方がいいのか、ぴっちりがいいのか」
「それは緩い方じゃない? だって楽な方が長く着けてられるはずでしょ? ネットの画像見たって、ギューって締め込まれてるのって息苦しくてかわいそうに見えるわよ?」
「もちろん、それはあるけどな。でも更に調べると幾つか気付いたんだ。だから今回はその確認実験も兼ねて、な?」
「ま、まぁ、いいわよ……」
「じゃ、まずこれだ」
カオルが取り出したのは、息抜きはじめた頃から使ってる、真っ赤な犬の首輪。
裏地はカオルが加工してフェルト仕上げになってるやつ。
「ちょ、いきなりィ? こんな下校途中で、明るい中どこで着けろってのよッ。今の季節マフラーなんて無理ッ!」
「ナナ真面目にリボンタイしてるもんなぁ。オレみたくネクタイ外してシャツの襟、ナナならブラウスの襟か……を開けちまって、その中にすれば、少なくとも後ろからは見えねーよ」
「わ、わかったわ。じゃそこの公園のトイレで」
「ああ、いいぜ。今回はリード無しだからD字の金具が前になるようにカッコ良く着けろよ」
「えー、なによそれ」
最初に首輪着けたりした公園のトイレの、さらに個室に入ってタイを外し、襟を開けて、渡された首輪を嵌める。
最初はよくわからなかったので、顎を引くと首輪の輪の中に頤(オトガイ=顎の先端)が入ってしまう程に緩く着けた。
以前は最初からリードもついていたので、もし引く方向を変えられたら、首輪が自由に回転しないと大変だ、とも考えていたから。
「あちゃー」
でも実際、緩く着けると、それこそ首輪が赤くはみ出て目立っちゃう。
仕方ないので可能な限り、みっちり嵌めてみた。
フェルトが逆にザラつく気がするけど、そんなに不快ではない。
トイレに他に誰もいないのを確認して、個室からそっと出て、洗面台の鏡で見てみる。
あれぇ、自分で嵌めたら、リードを着けるD字の金具が斜めになって、襟を押し開いている。
金具に指を掛け、キュッと引っ張って正面にする。
すると一番厚みのある部分が全部正面に来て、襟周りはスッキリとなった。
「う”〜〜」
それでもやっぱり目立つ〜〜
襟をキュッと引っ張って、なるべく開口部を狭くする。
やっぱり正面からだとモロバレだよォ
ちょっと待って。
もう1コマ締めると輪がより狭くなって、襟がもう少し閉じられるかも。
個室に戻って、Dリングを正面にしたまま、ギューッと絞って留め金を1コマ狭い穴に通した。
ぐえーーーーーっ!!
一瞬苦しい!
でも留め金が通ってしまえば、少しあともどりがあるので、その分だけ緩くなる。
首と首輪の間に指を入れてみる。
うわ、ミチミチでとても入らない。
これでリードが繋がってて、急にガクンて引っ張られたら皮膚が剥けちゃうだろうなぁ。
試しにDリングに指を入れ、ぎゅっと引っ張ってみた。
「う!」
カアアッと興奮に襲われた。
や、何ッ?
呼吸を操られているような感覚……
首が締まる一歩手前で許してもらっているような、不思議な拘束感がある。
―― ドクン ――
急いで1コマ緩めようとして、一旦猛烈に締め込まないと緩められないコトに気付いた。
体表で、一番命にかかわる部分、首。
その首にギリギリの位置で首輪を締め込む、崖っぷちに立つような拘束感。
あ、や、や……
下半身が熱くなる……
急に緩めるのをやめて、そのままフラフラと個室を出た。
「やれば出来るじゃねぇか」
「……ウン……」
夢見心地の返事をする私。
「……どうした? ナナ」
「へいき。 ……行こ?」
「あ、ああ。 おい、ちょっと!」
さっきまで臆してた私が急にスタスタ歩き始めたんで、カオルの方が慌ててる。
カオルはチラチラと横目で私の襟元から覗く首輪を見る。
「違和感ないな」
「……ウン……」
公園の小路を抜けて、人通りの多い路地へ出た。
「大丈夫か?」
「あ!あんたが着けさせたんでしょ?!」
「あ、バカ、シーッ!」
「ひい!」
せっかく人目につかずにここまで来たのに、自分でぶっ壊すところだった。
その後、普通にカオルと帰ったら、特に目立たなかったのか気付く人は居なかった。
「アハ、リードも無いのにずっと一緒に下校しちゃったね。いつもは『離れて歩けよ』とか言うくせに」
「バッ、バカ、そそそそそれは」
「ああ、もううちのマンション着いちゃった。エヘヘ」
エレベーターの中で首輪を外し、カオルに返した。
「おっ、お前、その首、締めすぎじゃね?」
「……ちょっと気持ちよかったの。実は」
「赤いぞ、大丈夫か?」
「家で見てみるけど、このくらいなら大丈夫だよ」
「なんで緩くしなかったんだ?」
「えー? だって緩いと目立つよ」
「それもあるけどな。実は……」
「あのね、あたし思うんだけど、犬みたく全方向に自由に回るのって、本当に人間に嵌める首輪に必要な機能なのかなぁ? むしろそうやって引っ張るチャンスの方が少ないと思うけど。もし人間に対する『奴隷の証』みたいな使い方なら、本来ギッチリ締めるものじゃないかなぁ」
「気付いたのか?ナナ」
そこまで言ったところでエレベーターが着いた。
「今日はちょっと息抜きできた。ありがとうカオル」
「ま、まあ、そんならいいけど、バ、バカ、面と向かって言うなよ、恥ずかしい」
「ウフフ。じゃね」
お互い自分ちに入る。
制服のまま洗面台で見たら、薄らと赤くなってるけど、これならすぐ消える。
それよりあの呼吸制限されそうなさっきのドキドキが蘇ってきて、そっと首に手を当てた。
翌日。
「今日も帰りに首輪すんの?」
「バカ、声がでかい」
「ごめーん」
「今日はな、首周りを測るんだ」
―― ドクン ――
「は、は、は、測ってどうするの?」
「橘さんが今度ドイツの首輪メーカーの輸入代行始めるって言うんで、ただ無駄なサイズ注文しても仕方ないから、試しに注文してみてくれだとさ。マトモにはとても手が出ない値段だから、話に乗っちまった」
「ドイツって…… 一体どんな首輪よ」
「それが、首輪に見えない首輪。そのくせ精密なロック機構を持ってて、素材も選べて、チタンなんて軽くて死ぬほど頑丈だから、ホントに鍵を失くすと外せないそうだぜ」
「ひいっ!」
「ネットで見て型番書いてこいって言うから、ちょっとウチへ寄ってくれよ」
「い、いいわよ」
「おじゃましまーす」
誰もいないカオルんちへ二人で入る。
ベッドに腰掛けてPCの起動まち。
「おっ、あった。ここだ」
「なにこれ?」
「バカ、くっつくな」
「これでも首輪?」
画面に並んでるのは、のっぺりしたデザインのただの銀の輪。
リングは精密な蝶番で半分に開き、ロック部は精密な段差の勘合で閉じるようになっている。
「鍵なんて無いじゃん」
「えーと、『ロック機構は3種類あります』…… あー! 英語読めねぇ!!」
「何何? えーと、『1つは通常のロックで、首輪を閉じ、六角穴を持つネジを右に回せばロック、反対に回せば解錠となります』……と」
「これは? 同じもんか?」
「2つ目は…… 『これはクリック式です。特殊なピンを差し込み、回しながら押さないと解錠できないので、嵌められるとこの特殊ピンが無ければ外せません』」
「すげぇ精密だな。ただのピンホールにしか見えねぇのにな」
「3つ目は……『永久ロックです』 ……ハァ?何これ? えーと……『冗談ではありません。カチリ、という音は一生に一度きり、解除ピンの穴は最初から存在しません。破壊しない限り永久に外せません』…… ぎえええええ!! ととととんでもないわよ、これ」
「ま、マジか」
さすがのカオルも真っ青だ。
「オプションもすげえな。ただの素の首輪をベースに、これを通せばリングが付くわけか。お、これ何だ?」
「このUが横向きに埋まってるやつ? えーと、『折り畳み式のリング』って書いてあるけど……」
「フオォォォ!! これっ! これっ! 普段はただののっぺりしたチョーカーにしか見えない首輪で! これを出すとリードが付けられる!」
「すごい……」
「ねぇ……こないだの質問なんだけどさ、これも緩く嵌めるもんなの?」
「……いや、写真にある通り、ココのサイトのいくつかはファッションを意識してゆったり鎖骨に載せるデザインのもあるけど、ほとんどの物はぴったりサイズで作るんだ」
「だよね、そう思った。 首周りを首輪が回転しなくてもいいの?」
「ナナも気付いたと思うけど、実際そういう力の掛かる行為はしないもんな。あれはやっぱり自在に動き回る犬に対する嵌め方で、昨日みたいな時にリードを付けるならやっぱ前限定、もしナナを前に立たせて後ろから追いたてるなら最初からリングが後ろに来るように着けるもんな」
「カオルの言ってた革製の専用首輪もぴったり式でしょ?」
「そうだよな、やっぱ奴隷の首輪はぴったりが基本でいいんだ」
「はー、なんとなく納得いった。実験したかったことって、これ?」
「ああ。ネット上で緩い首輪表現よく見るんで、実際どうなのか確認したかったのさ」
「一時的プレイと日常とで使い分ける、でもいいんじゃない?」
「じゃ、サイズ測るぞ」
「ひっ! ……い、いいわよ、お願い」
カオルが私の首に、布製のメジャーをぐるりと巻く。
「よし……っと。簡単だな」
「オプションどうすんの?」
「今回はナナが普段使ってもチョーカーにしか見えないのにするから、この一番幅が狭いやつな」
「ロックは?」
「これは六角ネジのしか無い。この幅だとクリック式は組み込めないんだろうな」
「U字のリングは?」
「これもこの幅じゃ無理って書いてある」
ちょっとカオルゥ、さっき『無理!』とか言っといて、好きなことになると英語のスキル勝手に上がってない?
いつのまに読んだのよ。
「そのかわり、この後(あと)から通すタイプのリングを注文するぜ。調教の時にはこれを通せばOKだ」
うわあぁ、なんだかゾクゾクする。
「よし、型番とサイズをメモったぞ。明日さっそく橘さんとこ行ってくる」
一週間後。
人のまばらな10分休みの学校の屋上。
「へっへっへ。もう来たぜ」
「海外注文にしてはかなり早かったわね」
「既成のサイズがいくつかあって、ちょうどナナのサイズがあったんだとさ。でもステンレスじゃなくてチタンになった」
「お金は? チタン高いでしょ」
「差額はショップ持ちでいいってさ」
「すごいじゃない。……って私のコトか!」
「お前、自分に嵌められる首輪って意識無かったろ」
「えへへへ」
「さっそく、ハイ」
「ひ! ががが!ガッコに持って来んなぁあ!!」
「ところがこれは、ナナみたいなお堅い副会長サマでも、そのブラウスの襟の下に隠れるんだぜ」
「え?」
―― ドクン ――
こんな日常のど真ん中で、金属の首輪を嵌める、ということがいきなり現実化した。
「ちょ、……えぇーー?」
呆然としながら紙袋に入った首輪とキーを受け取り、トイレに向かった。
個室で襟を開き、ガサゴソ袋を漁り、橘さん手書きの説明を読む。
小さいピンのようなドライバーを、首輪の僅か2mm程の縁に隠れるように明けられた穴に指し、左にくりくりと回してちょっと戻す。
首輪が開いた。
片側が削り込みで作られた精密な蝶番、開いた方は同じく段差同士が勘合する精密なロック。
一応鍵穴が下向きになるようにして、自らの首に当てた。
信じられない。
学校で、こんな、金属の、首輪……
普通の首輪は正面でロックするイメージがあるけど、これにもしあのリングを通すとすれば、蝶番とロック部はそれぞれ前後ではなく、左右に来ることになるはずだから、それで慣れておこう。
右手でキーを操作するのは、ロック部が左にある方がやり易そうだったので、右に蝶番が来るようにして左ロック部を閉じた。
「う……」
苦しいくらいにぴったりだ。
クリック式ではないので、このまま手で押さえて、ロックを回さなければならない。
左手で押さえ、右手で小さなドライバー型のキーを持ってくるくるとねじ込むと、簡単に締め終わった。
もう、外れない。
この小さいキーが無ければ、例え同サイズの極小六角レンチを持って来ても、トルクの関係でうまく回せない。
襟を閉じ、タイを締め直す。
う……
首の捻り方によっては息苦しくなり、また頸動脈が圧迫されてドクドクと拍動を感じる程にキツイのに……
ぜんぜんそれとわからない。
金属を締め込んだ上に、やんわりブラウスの襟とタイが載ってる様子が……
金属の上をさらさら布が滑る奇異な感じが……
あの、手錠を……
イギリスの刑務所で実際使われてるって言ってた、あの堅牢な本物の手錠の、金属のくせに優しい感じを思い出してしまう。
ごくり。
首輪、というより、首錠、なんだ。
はあっ……
女子トイレの個室に熱い息が籠る。
ヤバイよ、これ……
やだ、下腹部が湿っぽい……
気持ちを切り替えるために、思い切って個室を出て、カオルの居る屋上に戻った。
―― キンコーン ――
「どうだ? あ、ヤベ、10分休みだから、もう休み時間終わりだ」
「…………」
私は無言のまま、袋とキーをカオルに突っ返した。
「お、おい!ナナ!」
プイッと踵を返して自分の教室に走って戻った。
授業中。
首が軽く締まってるので、ちょっとでも動悸が早くなると、どんどん締まる感じがしてドキドキが強くなる。
ああ……
布の下の、他人に分からない金属の枷なんて……まるで貞操帯じゃない! ……嵌めたことないけどさ。
それに…… ボディピアスなんかもそんな感じかも……
うう…… ヤバそうな道具の世界の入口に立たされてる気がするよう……
チラッと周りを見る。
私と目が合うと、みんな「?」って顔をする。
それだけ私は他人からは自然に見えてるんだ。
こんなチタンの枷嵌められてるのに。
あの赤い犬の首輪の非日常感と露出の快感もいいけど、全くの日常の中でみんなを騙し切ってる背徳感がたまらない……
―― ドクン ――
そう……
みんなが知ってる優等生の私は、こんなに悪いコ……ヘンタイなのよッ!!
立ちあがって襟を捲って叫びたい。
休み時間。
私はボーッとしたままだった。
「暑ッツーーッ!! 今年はもうこの季節から暑いよねぇ! 本番になったらどうなっちゃうんだろう」
「……うん……」
「なにボーッとしてんのよ、ナナ。 まったくキッチリタイ締めてぇ、ナナは真面目なんだからぁ。ホラ、会長だってネクタイ緩めて下敷きで扇いでるよー」
「……うん……」
「ほら、緩めたげる」
「ひゃっ!!」
私は驚いて身を引いた。
触られたら一発でバレちゃう。
「あ、ユ、ユカリごめん!」
「なんだぁ? キスマークでも隠してるのかぁ?」
とたんにボッと真っ赤になる私。
「ちょ! バカ!」
「アハハハハ! ナナに限ってまさかね」
一瞬間を置いてから、ユカリの言う通り、カオルが真顔で私の首筋にキスするところを想像して、急にゾクリとした。
カオルの面白いカエル顔に悪寒が走ったわけじゃない。
首輪に『首を預ける』ことの意味が急に頭の中で繋がったのだ。
ひょっとして私のコトに真剣なカオルが、真摯な気持ちで私の首にキスすることと、首輪を嵌めることって等価なの?
金属を通して繋がる……愛情? うわ、くすぐったーい。
でも、そう想うと、じわりと温かいものが首周りから身体に浸みこむ感じがするのも事実だ。
「なに固まってんの? まさか……マジで……」
「バカ! 昨日蚊に刺されたのよッ! 今年はもうすでにデッカイのが飛んでるわよ?」
「げぇ! あたし刺され易いんだ、気をつけよっと」
「こーんな真っ赤な痕見て楽しい?」
襟の上に指で丸を作って見せる。
「ごめんねーナナ。でもあたしが会長にキスマークつけられたらナナに一番に見せっからね」
「はーいはい、ごちそうさま」
放課後。
家の近くでカオルが追いついて来た。
「ちょっ! 足速すぎ!」
「カオルが遅いのよ」
「なぁッ、どうなんだよ、それッ。橘さんに報告しないといけないんだからなッ。それが条件なんだから」
「……え…… ……うん…… いいよ」
「『いいよ』ってお前、どういいんだよ」
「ぴったり」
「それだけじゃわかんねぇよ」
「かるい」
「ダーッ! なんかボーッとしてねぇか?」
「うん」
「もう! ぴったりで、軽くて、イイんだな?」
「そう。 ところで、このままお風呂も入れんの?」
「ああ、なんせチタンだからな。ロック部当然防錆だし。まあ、ホームページには長期着用時は定期的に清掃しろとは書いてあったけどな」
「ずっと着けててもいいの?」
「ちょ! 『ずっと』って、そんなことする気なのか? ナナ」
「できれば」
あまり会話しないうちにエレベーターに乗って部屋に着いちゃった。
「あとで俺んち来いよ。これにリード付けるリング通した状態も見てみたいから」
―― ドクン ――
「うん……」
ボーっと自分ちに入って鞄を片して、襟の広いTシャツに木綿のミニを穿いた。
―― ピンポーン ――
「きたよ」
「早ッ!」
ドアを開けながらカオルがニヤニヤ笑う。
そのまま視線を上げて私の首輪を見てギョッとした顔をした。
「すげぇな。ほんとに金属のチョーカーなんだな」
「そォだよ」
カオルの部屋のベッドに腰掛ける。
「早速いいか? なんせレポート書かないといけないからな」
「いいよ」
「ナナほんとヘンだぞ? 心ここにあらずって感じで」
首輪が気持ち良くてボーッとしてるなんて言えない。
「一旦外すぞ」
「うん。穴は、そっちから見て右下」
カオルが私の首輪の左下面の穴を見つけ、キーを差し込んで回す。
精密な嵌合がするりと開いた。
「横で留めるってことによく気付いたな」
うなじ側はそのままに、前の部分にリングの台座を滑り込ませ、リングが正面になるようにして嵌合を閉じた。
「すげぇ」
「すごい」
完全に奴隷の首輪だ。
リングも、首輪に通す台座も全部チタン製で、驚くほど軽く、そして硬い。
「チタンだからな、何かあってもとても俺らの身の回りの道具じゃ切断できないぜ」
「はぁっ……」
ヘンな吐息漏れちゃった!
でも、きもちいい……
「カオル…… 私の首輪、ベロで舐めてみて」
「ハァ?! 何言ってんだ?」
「ねぇ、チタンが汗と反応してなんかヘンになってないか、しらべてみて」
「ババババカ、そんなことあるわけないだろ。第一、なんで舐めるとそんなことわかるんだよ!」
「じゃあ、あとで首が真っ赤に腫れたらカオルのせいだかんね!」
「しっ、仕方ねぇなぁ! 舐めればいいんだろ!」
カオルが真っ赤になって固まってる。
いくら息抜きの間柄だからって、私を女の子と意識した状態で首に舌を這わせるなんて、相当気合いがいるのかも。
しばらく考えたあと、スッゴイ真面目な顔になって、目を閉じて舌をチロリと出して顔を近づけて来た。
ベロは言い訳。
ほんとは唇が欲しいんだもん。
―― ドクン ――
―― ドクン ――
―― ドクン ――
―― ドクン ――
―― ドクン ――
ご主人様の、首輪へのイニシエーション。
カオルの、真剣な、顔。
舌が…… 首輪に…… そして……はみ出て……首に……触れる……
「あーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
不意に叫んで脳に白い光が弾け、カオルの頭を抱いて首に押しつけた。
「ぬわーーーっ!!!」
チロリと触れただけだった舌と唇がべっちゃりと首に触れ、濡れた感じがキモチワルイ。
「なにすんだ! イテーーーッ! 唇が歯と首輪の間で挟まったろ! おーいて」
「ご、ごめんね」
「おう、舐めたけど、なんともないぞ。確かに炎症起こす金属だと舌がピリッとするって言うもんな。だけどチタンであるわけないだろ、そんなこと」
「ごめーん。でもありがとう」
あの、カオルの真顔が見れたから。
この首輪、一生でも着けていたい。
「よし、リング外すぞ。でもいいのか?首輪そのままで」
「うん」
カオルにはまだ私の気持ち、わからないだろうなぁ。
「やっぱり首輪はぴったり派だね。もう、緩くなんて嵌めれないよ」
「ん?なんだって?」
「なんでもない……」
自分に言い聞かせるように呟いて、そっとそのリングに触れた。
(おわり)
参考ページ、画像等:「axsmar」検索