テトラポッド

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  永遠  



 永遠


 密閉された空間の中で、勝手に興奮しながら時間を過ごす。
 自分が興奮してハァハァ言う声が、内部に響いて、自分の耳に戻る。

 目の前の小窓から様子を見ていると、ひろみはずいぶん回復したようで、立ち上がってまなぶさんとどこかへ行った。
 食事かな?

 またしばらく過ごしていると、こんどはけんじさんとよしおさんでりょうこを掘り出した。
 りょうこもしばらくぐったりしていたが、さすが体力あるだけにひろみより早く回復して、よしおさんとどこかへ行った。

 目の前にはさんざん堀り荒らされた砂と、2つのバケツ、2脚の折りたたみ椅子が残った。
 荒らされて湿った面が出ていた砂地も、あたしが見ている目の前で、だんだんと乾いて他の砂地と同化していった。

 随分時間が経ったけど、あたしは放置されたまま。
 目の前から関係者が全員居なくなったのは真剣に寂しい。

 しばらくボーッとしていたら、背中の方で音がして、ついに蓋が開いた。
「まなみちゃーん、元気ー? お、機械は正常に動いてるね。そろそろ完全に硬化するころだと思うから、仕上げをしに来たよ」
「ああ…… あたし……」
「ずっと興奮してるの? アクリルで固められて」
 悔しいけど、正面の小窓の方を向いたまま、首を縦に振った。
「ふふ、さすがだね。さて、一度ひっくり返すよ」
「え?」
 後ろから何かに支えられて、真後ろに引き抜かれ、そのままぐわーんと天地逆になった。
「わーーーッ! 何? 何?」
 髪の毛が全部逆立って垂れた。

 上下逆の世界で見えたものは、テトラポッドの後ろに設置された簡易テントと、キャタピラ付きの台車にごついアームのついたもの。
 そのアームに支えられて、あたしは逆さまにされている。
 しばらくすると、最初に通されたアクリルの支柱に沿って、体がじわーっと上がってきた。
 つまり固まりかけのアクリルの中で、あたしは地面方向に落ちはじめた。
 わずが数センチだけど、この流体内で移動した。

「起こすよ」
 今度は元に戻された。
「わあああ」
 頭にのぼっていた血が下がって、クラクラする。
 元に戻されたことで、また流体内でゆっくりと体が移動しはじめた。

 逆さまの時はわかりにくかったけど、起こされると自分がふわーっと液の中に浮いている感じがする。
 これがまた数センチで元の状態になるはず。
 いったい何の意味があるのかと思っていたら、突然青白いライトを背後から浴びせられた。
「……? ……あっ…… あ!」
「どう? 完全に固まってきたろ? 少し深呼吸して、胸のスペースを確保するといいよ」
 急に全身を包む感じが、容赦の無い固さになってきて、焦って深呼吸した。
 ふわっと液体の中に浮いたままの状態のまま、本当に固められた。
「もうこれはいらないね」
 けんじさんはかなり手間取りながら鋼鉄のクランプを全部はずした。

 自分の目で自分を見ると、まるでオブジェのように、透明で単調なアクリルの塊のなかに、本当に容赦ない固さで自分の体が固められていた。

「さて、お待ちかねのマスクを被せようか」
「は? はふっ……!!」

 少しまったりとした準備段階から、いきなり本責めへ移行することを宣言されて、あたしは一気に緊張と興奮の中に落ちた。

 鋼鉄のクランプを外されたアクリル筒は、中華料理の回転台のようなものが下に敷いてあるらしく、けんじさんが手で回すと、チューブを引きずりながらではあるけど、簡単に斜め後ろを向いた。
 けんじさんがあたしの正面に来る。
「あ…… あ…… あ……」
「呼吸を奪われるのが怖い?」
 コクリと頷く。
「でも、きもちいいだろ?」
「わ…… わかりません」
 すでに呼吸が荒くなっているあたし。
「まなみちゃんは入院して大きな手術を受けたことあるかい?」
「ありません」
「要は手術の時のガス麻酔と同じなんだけど、病気でもないのにこれをされると、結構クルよ」
 手術用と聞いて真剣に怖くなった。
 そうだった……
 けんじさんたちは本物の医療機器も手に入れることができるんだ……

「い、いやっ……」
 けんじさんはビニール包みをバリッと破り、中からゴムチューブを取り出した。
「はい、あーんして」
「いやあ……」
「その、なにもかも諦めた表情がそそるねぇ…… あ、そのまま…… よっと」
 チューブを口に押し込まれた。
「オエエエエエエ!!」
 のどの奥を突かれて吐きそうになった。
 その後、のどに焼きいもが詰まった時のような苦しさがあり、それこそドンドンと胸を叩きたいが、できない。
 やがて苦しい部分が下に移動し、ストンと抜けた。
 ゴクッ、ゴクッと飲み込む反射をしても、口からのどを貫くゴムチューブを飲み切ることなどできない。
 本来なら塊として食道に落ちるはずのものが、永遠にその場を占領しているのだから。

 けんじさんがまたバリッと包みを破り、中から別なチューブを出した。
 先にドロリとしたものがついている。
 それを事もなげにあたしの口に突っ込もうとするので真剣に怖くなって叫んだ。
「んーーーーっ!!」
「あ、これ? これはね、声帯を麻痺させて開きっぱなしにする麻酔と局所用の筋弛緩薬。これがないと声帯痛めちゃうからね。ちょっと苦しいけど我慢してよ」
「ん”ーーーーーッッ!!」
 のどをそのままそのドロリとした粘液で塞がれそうな気がして、真剣に暴れた ……アクリルの中で ……数ミリほど。
「ゴフーッ!」
「ああ、吸っちゃだめだ、ゆっくり吐いて」
 涙を散らしながら顔を振るけど、もっと間違った所へ管が入るのが怖くて、振りほどくほどは動かせない。
「心配しなくても、喉には穴は2コしかないから。食道に先にチューブ入れてるから、あとは気道の方にしか入らないんだよ。先に気道にだけチューブ入れるんなら、特別な道具とコツがいるんだけどね」
 
「ヒューーッ! ケフ、ケフ、ケフ」
「そうそう、とりあえず呼吸はできるでしょ。ここで1分くらい待つよ。声帯に当たってるからね」
「ヒューーッ?」
 あたしボロボロ泣いてるんだけど、けんじさんは気にも留めない様子。

「もういいかなー?」
 グッとチューブを押されると、首の奥がチリッとして、チューブが進んだ。
「シューーーッ」
「お、通った、通った。このくらいで気管支かな? むせない? 平気?」
「ゴポッ。シューーッ」
「これでバルーン膨らませて留めちゃうからね」
 けんじさんは2つのチューブそれぞれについている、枝分かれした細いチューブに、注射器のようなものを刺すと、何かを注入した。
「シュ? シューーーーッ!! シューーーーッ?! シューーーーッ!!」
 あたし、悲鳴あげてるのにシューにしかなんない!!
「シューーーーッ!!シューーーーッ!!シューーーーッ!!シューーーーッ!!シューーーーッ!!」

 信じられない絶望の仕打ちに、絶叫してあばれてるのあたし!
 頭しか動かないよ!
 いやっ!
 しんじゃう!
 ころされる!

 10分くらい頭振って暴れてた。

 涙も枯れてきて、頭がぐったりしたところで、けんじさんがU字型のゴムのくさびみたいなものを持ってきて、そのU字の溝にボンドみたいなものを流した。
 それを諦めて脱力しているあたしの歯に合わせ、口の形に明いている穴にチューブを2本通し、あたしの口の中に押し込んだ。
 ボンド臭い匂いはあまりしないが、上下の歯ごと、歯茎まで粘土のような物の中に埋まり、すぐに固まってきた。
「シューーッ!!」
 絶叫し疲れているのに、まだ恐怖に声が出た。
 普段当たり前に使っている体の一部を、次々に封じられるとこんなに怖いんだ。
 拘束大好きだってすでに自分で認識してるけど、それでも恐怖のどん底に堕とされて、だた力なく、されるに任せるしかできなかった。

 けんじさんがゴムのマスクをだしてきても、もうあまり驚かなかった。
 タイプはひろみやりょうこがされたのと同じタイプ。
 でもあたしは口を開けっ放しにされているので、口の開いているタイプだった。
「あーあ、せっかくの美人が台無しだぜ」
 ゴムで包んでしまうくせに、と思ったけど、反論する言葉も奪われ、そんな元気もない。
 顔を濡れタオルで丁寧に拭われ、マスクを被らされた。
 呼吸と食事の自由を奪われ、とうとう表情の自由も奪われるんだ。

 虚ろな目でけんじさんを見つめ、アクリルの奥の奥でドロリとはしたない粘液を漏らした。

 被らされたマスクはまだ緩く、後ろのジッパーを閉めないとぴっちりとは合わない。
 けんじさんの手が後頭部で丁寧に髪の毛の始末をしてくれてるのがきもちいいけど、その髪の毛もゴムの中にしまわれ、あたしの存在がどんどん消えてゆく。
 頭頂部からジジジと目の荒いジッパーが閉まる響きがあって、やがてそれがうなじまで降りた。

「シューシュー」
 荒い息が、目の前のチューブの切れ端から聞こえる。
 けんじさんがニヤッと笑ってその端を指でつまむ。
 超マジでギョッとするあたし。

 たった指のひとつまみで、呼気も吸気も完全停止。
 肺の中身の空気のぶんだけ、わずかに胸が動かせるけど、横隔膜の動きがほとんど止まるほどの呼吸拘束の凄まじさ。
 ひどい仕打ちを受け入れる心構えがあっても、本能的な反応として体が暴れるのを抑えることができない。

 浜辺の暑さも手伝って、ラバーマスクの下のあたしの顔にはみるみる血が昇り、拍動で頭がズキズキするほど圧力が高まった。
 体がガクガクしてるのに、それはアクリルに封じられていて外からはわからない。
 首から上の小刻みな震えと、もがき逃げたい気分を抑え込みながらけんじさんを見つめると、ほんとにもう死ぬかもって瞬間がやってきた。

 痙攣が脱力に変わる。

 ラバーマスクに明いた目の穴から、辛うじて主張できるあたしの目の表情と眉の表情。
 それを見た瞬間、けんじさんが驚愕の表情になり、チューブから手を離した。

「ヒュ、ピイイーーーーーッ! ピューーーーーーッ!」
 細いチューブから、死物狂いで呼吸する。

「まなみちゃん、最高の表情だよ。たまらないよ」

 けんじさんは、あたしの臨死絶望の脱力した顔に興奮してしまったようだった。
 水着を下すと赤黒いモノを出してしごきはじめた。

 ストックホルム症候群といわれるかもしれないけど、あたしはけんじさんのことがなんとなく好きになっていた。
 すでにけんじさんなしでは生きられない体にされてしまっているのに、今更だけど。
 けんじさんのチソポ見て、口で咥えることもアソコで受け入れることもできない自分が悔しくて、涙が出た
 けんじさんは注射器の筒のようなものにびゅるびゅると射精すると、内筒を入れて、それをあたしの口から出ているチューブに繋ぎ、ゆっくりと押した。

 あ……

 すごく不思議な感じ……
 男性経験なんて無いあたしが、セックスしてる気分になった……
 味も匂いも感覚も無いけど、確かにそれがあたしの胃に流れ込んで来た時、あたしは幸せな気分になって軽くイッた。

 不思議な感覚に酔っていると、ベースとなる全頭マスクに、顔を覆うオプションの部厚いゴムマスクが被せられ、ジッパーが閉じられた。
 左右の目の部分にはガラス窓がはめ込まれていて、ちゃんと外が見えるけど、もう表情を読み取ってもらえるチャンスも無くなった。
 ガスマスクの口部分は、りょうこたちのような長い蛇腹のチューブではなく、単にあたしの胃や肺へのチューブを通す穴があるだけだった。
 もう、けんじさんが何をしようとしているのか見えない。
 シュコシュコと音がして、ガスマスクの内面が膨らんで来た。

 ひいいーーー!
 顔が潰されるー!
 耳周りも圧迫されて音が聞こえにくくなった。
 顔が圧迫されると、まるで深海に沈められたように、現実離れした気分になる。

 もう、本当に、このままみたいだ、あたし。

 目の前でけんじさんが手を振っている。
 あたしの膨らんだ頭をイイコイイコしてる。
 やがて胃と肺のチューブの先がどこだかに繋がれた。
「シューーーーッ」
「シューーーーッ」
 抵抗はあるけど、そんなに苦しくない。
 でも、これでエッチな刺激を与えられたら…… 絶対酸素が足りなくなるよ。

「やっと準備が全部整ったね。 まなみちゃんは、これからずっと、拘束と被虐と絶望の快感の中で暮らすんだ。
 さあ、ローターを全部回すよ。ピクリとも動けない無抵抗の中で、激しい性刺激の海に沈んでね」
 籠もった音響の中で、激しいモーター音が聞こえてきて、すぐに性器周りが熱くなった。
「シューーーッ!!」
「シューーーッ!!」
 つま先から頭のてっぺんまで全く身動き出来ない中での凄まじいローターの性快感。
 ビチビチに跳ね回ってもおかしくない状態を、ガッチリと固められた中で過ごす超圧力。
「シューーーッ!!」
「シューーーッ!!」
 酸素が全然足りない!
 マスクの中の顔が熱い。
 意識が快感で支配され、本当に朦朧としてきた。
「じゃあね。永久に楽しんでね。メンテナンスに来られるかどうかもわからないから。ごめん」
 アクリル筒ごと、ぐるりと正面向けられ、また正面の小窓が見えるだけとなった。
 背後で蓋が閉まる音がする。
 顔まで完璧に拘束され、排泄から呼吸まですべての自由を奪われ、本当に放置されるあたし。
 さっきからのローター快感が積み上がってきて、最高の絶頂に達しようとしている。

 その時、視界に割り込んで来たもの。
 それは透明なドロリとした液体だった。
 猛烈な快感と呼吸制限で朦朧とした頭で、僅かな手がかりを元に何が起きてるのか考えた。
 液体はあたしの閉じこめられてる空間にドロドロと溜まり、とうとう空間全部に満たされた。
 まだ残されていた嗅覚に、その臭いが感じられたとき、あたしは真剣に心臓が止まるとこだった。

 追加のアクリルだ!

 あたし、本当にテトラポッドと一体にされちゃった!!

 い、いやっ!

 だけど、きぃいいいもちぃいいいいいい!!!!!

 ――ガクガクガク!――

 ひょっとしたら何らかの形で解放されるかもしれない、という一縷の望みは絶たれ、透明な固体の水底で、いままで経験したことのない超絶頂を迎えた。




===




 一日、一日と快感の中で過ぎて行く。

 正面の窓から、いろんな物を見た。

 ……

 正面に簡易テントが立てられ、こちら向きに入り口が設置された。
『ごはん』
 と書かれた紙きれを見せられ、中でけんじさんたちがオナニーして出した精液を注射筒に入れるところを見せられた。
 しばらくすると胃が膨らむ。
 本当に精液を胃に注がれてるらしかった。
 他の時にも胃が膨らむので、ちゃんと栄養もくれてるらしかったけど。

 ……

 ひろみとりょうこが、普通の洋服を着て目の前に現れた。
『ごめんね』
『がんばってね』
 と書いた紙を見せた。
 2人は家に帰ったらしかった。
 それを羨んだり、アクリル漬けの自分を嘆くヒマなんて、あたしには無かった。

 ……

 けんじさんは毎日来る。
 毎日飲まされるけんじさんの精液で、全身のタンパク質が精液に置き換わったような気分になった。

 ……



 一日、一日と快感の中で過ぎて行く。

 ちゃんと全身のメンテナンスは働いていて、ラバースーツ内の洗浄も定期的に行われている。
 生理になったような時もあったが、強引に洗浄されてしまったようだ。
 全身が一度、血糊漬けになったなんて、想像したくないけど。

 ……

 しばらく経ったある日、けんじさんたちがまた正面にテントを建てた。
 テントの中には……
 朦朧としている気分すら醒めるモノが……

 ひろみ!! アクリル漬けになったひろみが!!

 ひろみはあたしと同じように体をアクリルで固められ、顔だけがそのままだった。
 やがて目の前の砂が掘られ、アクリルで固められた体の部分だけが埋められた。
 そしてまたバケツ。ガスマスクはされていなかった。

 その光景を見ただけで気持ちよくイケた。

 ……

 りょうこが水着姿で現れた。
 あたしが着けられた首輪と同じ物を首に嵌められ、おまけに左右の手足にも嵌められていた。



 一日、一日と快感の中で過ぎて行く。

 ひろみが水着で現れた。
 あれ? アクリルは?
 あれは外見そっくりのアクリルケースだったのかも。

 ……
 
 やがて夏休みも終わり、5人はたまにしか来なくなった。
 ひろみやりょうこは、それぞれまなぶさんやよしおさんとうまくやっているようだ。
 けんじさんは、あたしに全く飽きていないようだった。
 本当にこんな全身拘束されてる子が好きなんだな、と思った。見えもしないくせに。
 途中、他の子の姿が見えたこともあって、死ぬほどショックだったけど、いつのまにか居なくなった。
 結局けんじさんの要求する拘束についてこられなかったのだろう。当分安心。

 ……

 たまにだけど、未だに、ちゃんとみんなあたしのところに来てくれる。
 もうほんと、ずっとこのままでいいよ。



 ……


 ……


「シューーッ! シューーーッ!」

 あたしはテトラポッドの中で生きてます。

 この世の誰よりも、気持ちよく。

 どこかの海の国道沿い、先端に切り欠きのある妙なテトラポッドを見つけたら、その前で何か面白いことしてください。

 海だけ見てるのも少し飽きて来たから。


 あ、でもイッてる最中なら、見てないかもしれないので、ごめんなさい。



【おわり】









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