姫
調教の館
§§ 調教の館 §§
車はいつしか高速を降り、曲がりくねった山道を走っていた。
二人の体に挟まれて、多少きつめのコーナーを曲がっても、私の体は大きくは揺れない。
改めて、素裸に首輪と手枷足枷だけしか身に着けていない頼りなさが心に食い込む。
車は曲がりくねった幹線道路から、別荘地へと続くさらに細い道へ入った。
リムジンのやわらかめのサスペンションに、二人のお姉さんの間でうねるように揺れる私。
「えへへへー」
「ひゃっ! やめてください」
車の揺れをものともせず、私の左側から私のおっぱいをたぷたぷと弄(もてあそ)ぶユックさん。
「あーーん、こんな薄ピンクの小ぶりな乳首欲しい〜!」
「バカねぇ、姫様だからこんな美しい乳首なのよ? あたしたちとは違うのよ」
「そうだよねー、よねー、よねー」
なんだか暗そうに自己リフレインしたあと、エナメルのブラをぺろんとめくって自分の乳首を出した。
たしかに乳輪までの大きさで比べれば私より大きめだけど、気にするほどの大きさじゃない。
むしろしっかりたっぷりお乳が出そうで、母性本能的にうらやましいと思った。
「ゆ、ユックさんのだってかっこいいじゃないですか。お乳がいっぱい出そうでうらやましいです」
「ほんと?! わーい! 姫様にうらやましがられたー!」
「ちょっと、ゆーちゃん、バカやってないで。そろそろ着くわよ?」
「あー! ほんとだー! ごめんなさい姫様、余計なことばっか言って」
「あ、い、いえ……」
車は自動で開く門を通り、まだしばらく林の中を走る。
すると急に景色が開けて、平屋の洋館が現れた。
造りは古風だけれど、壁の石材などから建てられたのはここ数年のような感じだ。
洋館の玄関正面には赤い絨毯が敷いてあり、車はそれに接するように停まった。
ユックさんがドアを開け、私の手を取って私を絨毯の上へ立たせた。
私の背後にニルさんが降り立ち、車内でまとめた荷物一式を絨毯の上へ下ろした。
ニルさんがバタンとドアを閉めると、車は静かに走り出し、来た道を戻って行ってしまった。
高原というほど周囲が開けてはいないけど、山間の別荘地の広い空間。
深い木々に覆われ、周囲から隔絶された土地にぽつんと建つ平屋の洋館。
周囲の森からは変わった鳥の鳴き声が聞こえてくる。
車が去ったあとの玄関に立つ私達3人は、この深い森の自然に満ちた環境からは完全に浮いていた。
拘束具で僅かに肌を隠している以外は素っ裸の私。
エナメルで出来た、まさに女王様スタイルのお姉さん2人。
森の中を一陣の風が吹き抜けると、真っ昼間だというのにスーッと体温を奪われた。
「寒ッ……」
自分の体を抱く。
「そうですね、すぐ入りましょう。姫様手を後ろに回して下さい」
素直に手を後ろに回すと、ニルさんに手首を合わせられ、カチリと何かで手首の拘束具同士を繋がれてしまった。
「あっ!」
「猫背は格好悪いですよ、姫様。そのまま胸を張って下さい」
「は、はい……」
でも寒い。
「姫様うーんして? うーん、って!」
ユックさんが顎を上げる動作をするのにつられてうーんと顎を上に向けると、カチリと首輪に鎖を繋がれた。
「わっ!」
そっちに気を取られていたら、ニルさんに足首の足枷同士を30cmほどの鎖で繋がれてしまった。
「ひゃっ!」
「姫様、素敵ですぅ! 似合ってますよー!」
『こんな格好いやっ!』
今すぐに叫んで逃げ出したかった。
好き勝手に自由を奪われる立場なんて……
こんな屈辱なんて無い。
でも使命を果たすための通過点だと自分に言い聞かせて、とにかく耐えなければと思った。
後ろ手にされてしまったので、胸もお股も隠せない。
私はあんまりボーボー生えてる方ではないけど、やっぱりお手入れもしていない毛が晒されているのは耐えられない。
「入りますよー!」
ユックさんが首輪の鎖を引く。
ジャラジャラ鎖を鳴らしながら、絨毯の上を素足で歩き、入り口前の石段を数段上り、中へ入った。
エントランスは大理石で、そこもまだ絨毯が敷いてあったので、あまり足の冷たさも気にならなかった.
「ほらまた猫背になってますよ」
「あ、すみません……」
胸を張ると、自分の乳首がツンと突き出ているのが恥ずかしい。
きつめの首輪から伸びる鎖をユックさんに引かれながら、エントランスから廊下に向かって進む。
もう絨毯は終わってしまい、裸足に木の床が冷たい。
それでもまだ、剥き出しの石の廊下よりはマシなのだろう。
「この部屋ですよー?」
先を行くユックさんが重々しい木のドアの前で止まる。
そのドアを手前に開くと扉が二重になっていて、内側に鋼鉄の扉があった。
黒く塗られたペンキは古さを醸し出してはいたが、ペンキそのものはかなり新しいように見えた。
鋼鉄の扉を奥に開くと、中は寒々しい暗さだった。
ユックさんが私の首輪の鎖を持ったまま先に入り、手探りでどこかを操作すると明かりがついた。
天井から2つほどの裸電球が下がっていて、それが古い牢屋のような雰囲気を出していた。
中は20畳ほどのかなり広い部屋だった。
天井は普通の家の室内よりちょっと低めで、鋼鉄の梁が何本か通り、そこから滑車やフックが下がっていた。
それらもどことなく古めかしいが、くたびれてはおらず、ほとんど未使用のようだった。
部屋の壁は全面石造りで、今入って来た入り口の向かいにももう一つ鋼鉄の扉があった。
床は石ではなく、コンクリート打ちっぱなしのような感じで、何カ所かに大きな排水口があった。
また一部には鉄製の蓋のようになっている部分もあった。
そして、一番私の目を引いたのは、部屋の隅に置かれたガラスのショーケースと金色に輝く檻だった。
あのガラスケース、見たことがある……
ああ、でもどこで見たのか思い出せない。
古い、古い、どこか。
埃にまみれたどこか。
突然ガキンと強く鎖が引かれた。
「あぐっ!」
「きゃあ! 姫様ごめんなさい! 強すぎた?」
「へ、へいきです」
「では、もうちょっとこっちへ、真ん中へきてくださーい」
「はい……」
素直に言われた場所に立つ。
§§ おじさまとの再会 §§
しばらくすると、開いたままの入り口の扉から、デザインシャツにスラックスというラフな格好をした紳士が入って来た。
ゴクリ、と生唾を呑む。
おじさまだ。
なんとなくお父さんに似た面影がある。
私の方を見ながら、優しそうにほほ笑んでコツコツと歩みよって来た。
すごく優しそうな人。
お父さんだってあまりこんな顔しないのに。
「ジュリア」
「はいっ!」
「あはは、そんなに緊張しなくても良いよ」
「あの、ご無沙汰してます。……と言っても、あたし全然覚えて無いんですけど…… ごめんなさい、おじさま」
「良いよ、良いよ、いやぁ大きくなったねぇ、美人にもなった」
「そんな……」
おじさまの前で実は素っ裸だということも忘れて、ちょとテレ笑いをした。
「おともだちの様子はどうだったかね?」
急に大変なことを思い出した。
「そ、そうだ! おじさま、典子ちゃんに何をしたんですかっ!」
「何って、学校の帰りにつかまえてきて、犬にして、メッセージをたのんだだけだけどね」
「伝言するだけなら何もあんな……」
「義姉さんに会うわけにいかないからねぇ。 それにメッセージの真剣さが違ったでしょ? 容赦無さもわかってもらえたでしょ?」
「それは…… そうですけど……」
「ところでね、僕は時間の無駄が嫌いでね、ジュリアが素直に言うこときいてくれるなら、このまま終わりにしようと思うんだが」
「素直にって、どうすればいいんですか?」
「私とアナムネへ帰って民を支配するのさ。あと、この星も気に入ったから、ここも欲しいなぁ」
「今、アナムネはどうなってるんですか?」
「んーー、強いて言えば前のままかな。でもだんだん作物の出来は悪くなってるね。気流の大渦に襲われたりもしてる。こっちで言う台風? ま、自然のなすがままだ」
「そんな……」
「安心しなさい。国としては昔のままだ。旧王家の残されたものが政治を代行し、みんな国王の帰りをまってるよ。国王というより、王妃か王女だな。お前がその装具をすべて身につけ、その檻に入って私とアナムネへ帰れば国民に感謝されるよ」
「……単に私が帰れば済む話じゃないんですか?」
「そりゃぁダメだ。私の居場所が無いじゃぁないか。ジュリアがなんでも私の言うことをきく、私の命令じゃないときかない、という状態で帰らなければ」
「国民のためだったら私、おじさまの言うことを聞きます!」
「じゃぁそこで股を開いて私に見せてごらん?」
「そッ! そんなこと! 国民と関係ないじゃぁないですか!」
「良くお聞き。絶対服従っていうのは生易しいもんじゃないよ。お前の父親を殺せと言われたら、ハイといってすぐ殺すくらいでないと」
「そ、そんな……」
「大丈夫だよ。その2人に調教を受ければ、すぐに絶対服従奴隷にしてくれるから。お前の誕生日まで時間もあまりないので、急がないとね。ここは気に入ったかね? この世界へ来てから苦労して作ったんだ。王家の地下調教室に似せたんだが、ありあわせの物しか無いくてね。じゃぁね、しっかり調教受けるんだよ」
ガチャンと鋼鉄の扉から出て行った。
§§ 犬 §§
「にゃははーー! だめですよ姫様、そんなに深刻に考えちゃ! どーせ奴隷ちゃんになっちゃうのは一緒ですから、そんなら楽しいほうが……」
「いやです! あたし、調教は受けますけど、奴隷になんかなりません!」
「ゾクゾク! 姫様カッコイイ! ……はぁーー。でも姫様認識不足ーぅ。まあいいや。さっそくはじめましょうよ。ニルちゃん、犬のやつ持って来てー」
「あ、うん……」
ニルさんは部屋の隅へ行くと、典子ちゃんが着せられたのとそっくりの革の拘束具を持って来た。
あの幅広の革、無数のベルトに見覚えがある。
後ろ手の手枷同士の接続や、足枷同士を繋ぐ鎖が外された。
「はい、姫様〜、両手を前へ突き出して、足を肩幅くらいに開いてくださーい」
言われた通りにする。
前に突き出した両腕の、前腕と二の腕にそれぞれ幅広い革ベルトが巻かれた。
それぞれのベルトは腕の大半を覆い、4つか5つの細いベルトで留めるようになっていた。
手首の手枷はそのままだ。
全部留めてもまだベルトがたくさん余っていた。
太ももとふくらはぎも同じようなベルトが巻かれた。
こちらは長さが長いぶん、留めるための細いベルトも多い。
「はい、姫様、四つん這い!」
「え?」
「はやくぅ!」
「あ、はい」
仕方なくコンクリートの床に手と膝をついて四つん這いになる。
惨めすぎる。
典子ちゃんもこんなふうにされたんだ。
私は宿命があるから仕方ないけど、典子ちゃんは私のために……
私の友達っていうだけで……
ひどい……
「姫様はお友達がやられちゃったの怒ってるんですよねー!」
「そうです!」
四つん這いのまま答える。
「『ひどいこと』って言ってましたよねー!」
「そうです」
「だから、真っ先にその『ひどいこと』されちゃったら、後は楽かもしれませんねー?」
「しっ…… しりません……」
「まあいいや、ニルちゃん、留めちゃおー?」
「うん」
ニルさんとユックさんはそれぞれ私の左右の足を持ち、足首をお尻まで押し付けるように曲げた。
そうしておいて、ベルトのうち1つを留め、手を離した。
そして、他のベルトを締め、さっきのベルトを締め、また別のベルトを締めて、ふくらはぎが太ももに密着するようにして留めた。
「姫様ー、今度は肘をついて手首を肩までもってきてくださーい!」
泣きそうな目でユックさんをちらっと見て、言われた通りにした。
手をついた四つん這いより、肘で四つん這いになるほうが、よりいっそう頭が床に近くなる。
余計みじめだった。
手首が肩に触れるほど腕を曲げられ、足と同じように密着して留められた。
手も足も折り畳まれたまま自由を奪われ、四つん這いの生き物に変えられてしまった。
「姫様、あーんして?」
えっ?と思う間もなく口を開かされ、穴のたくさん明いたプラスチックの玉を押し込まれ、うなじで留められた。
「オフッ!」
「うふふ、姫様ぁ、ちょっとひっくりかえしますよー?」
ユックさんがニヤニヤ笑いながら手足の自由を奪われた私をコロンと横倒しにし、さらに仰向けにした。
コンクリートに直接ついていた膝と肘のホコリを払い、そこに膝サポーターのような部品を載せ、最後まで余っていた金具で留めた。
「典子ちゃんはこれなしだったんですよねー。でもあの子は学校に繋がれただけだったから」
「アファフィア?」
あたしは?ときこうとしたが、言葉にならなかった。
サポーターを着け終わったら、また四つん這いに戻された。
ユックさんは私の首輪の鎖をニルさんに渡した。
「おさんぽ、おねがいねー!」
「うん、上だけでいい?」
「最初だから上だけでいーんじゃない? 慣れたら下も行こーよ!」
「うん」
ぐいっと鎖が引かれる。
「アウッ!」
「姫様、最初はゆっくりでいいですよ、無理しないで……」
ニルさん、言ってることは優しいけど……
グイグイと鎖を引かれ、向かっているのはさっき入ったのとは反対側のドア。
ユックさんが先回りしてガチャガチャとカギを開け、ドアを開いた。
まぶしい光が差し込む。
外だ。
「イアーーーッ!!」
肘を突っ張って後込みする。
「だめですよ、言うこときいてください」
「ウウ……」
よだれをポタポタコンクリートの床に垂らしながら、ドアに向かって這うように歩く。
体を支えるクッションになる関節がない状態で、四つん這いで歩くのがこんなにつらいなんて……
ドアから外へ出た。
出てすぐは眩しく見えたが、実際にはどんよりした曇りだった。
ドアのすぐ外は20畳くらいの木製のテラスになっていた。
ニルさんに引かれてテラスを回る。
目の前でチャリチャリと揺れる鎖。
今のところ『ただ強制的に言うことをきかされてる』っていう思いばかりで、それが奴隷のイメージとはまるで繋がらない。
でも肘が痛くなってきて一休みしたくても、鎖を引かれると無理にでも従わざるを得ない状況が、自由を剥奪された存在だということを私に刷り込んでゆく。
ガクンガクンと肘を交互に動かし、それにあわせて太ももも動かし、なんとかニルさんの後をついてゆく。
2周半まわり、テラスの端に来た。
芝生へ降りる階段がある。
そこでニルさんは私の首輪の鎖を手摺りに巻き付け、南京錠でガチャリと留めた。
「ヒッ!」
「姫様、しばらくここで我慢しててください。これ、置いておきますね? では」
テラスの隅にあった赤錆びた四角い石油缶のようなものを私のすぐそばに置いて、ニルさんは部屋へ入った。
ばたんと扉が閉まり、私は犬の姿のまま独りぼっちでテラスに取り残された。
「エフッ…… ヘフッ…… エッ…… エッ…… エッ…… グスッ……」
涙がボロボロ出て来た。
私はなんのためにこんな目に遭ってるの?
大義名分は、星のため国民のため国のため。
私の知らない国民。
国民も私のことを知らない。
おじさまさえいなければ、こんなことは無かったの?
「ウーーー!」
手足を伸ばそう、革を引き千切ろうと力を込めても、びくともしない。
森を抜けてくる風は少し寒く、辺りはだんだん暗くなってきた。
手足はうっ血し始め、ものすごいしびれが出始めた。
――じんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじん――
折り曲げられた肘や膝から先の感覚がだんだんなくなってきた。
――じんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじん――
本当に四つ足の動物のようだ。
――じんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじん――
ビリビリしびれてきつい。
逃げることもできず、解放されることのない状況で、四つん這いのまま待つ。
―― ぐーー ――
お腹が鳴った。
何か食べたい。
ブルッ!
そ、それより先に解決しなければならないことがあった。
おしっこしたい。
§§ 屈辱の放尿 §§
蚊などの虫がいないことが幸いだった。
あまり刺されやすいほうではないけれど、こんなところで裸でいれば、蚊の多いところではただでは済まないだろう。
おしっこ、どうしよう……
さっきの石油缶!
あああああ、きっとあれにしろってことだ。
きっとどこかで私の様子を伺っていて、おしっこするのを待ってるんだ……
だれも見ていない山の中の別荘地だからって、犬の姿で四つん這いのままおしっこするなんてできない!
疲れた……
横になりたい。
でももし横になったまま自力で起き上がれなかったら、それこそ横向きにおしっこ漏らすことになる。
それだけは避けたい。
かなり暗くなってきた。
――じんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじん――
――じんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじん――
――じんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじんじん――
しびれを我慢してるだけでも心がくじけそう。
典子ちゃんはこんなひどい目にあったんだ。
そして学校の友達に晒されちゃったんだ。
ああもうだめだ。
あたしもだんだんおかしくなってきてる。
四つ足でドスドスと方向転換し、剥き出しのアソコを錆びた缶の角に近づける。
ゴミ入れに使われていたもののようで、石油の注ぎ出し口のついた上面は切り取られ、単なる大きなバケツのようになっている。
触れたらバイキン入りそうなので、慎重にアソコを近づける。
足の間に石油缶の2辺が均等に当たってるのを確認したら、すぐに我慢の限界が来た。
―― ジョーーーーーーーーッ!! ――
ほとばしりはじめたらもう制御不能。
しぶきが散ってないことを祈るだけ。
―― ジョーーーーーーーーッ!! ――
―― ジョーーーーーーーーッ!! ――
―― ジョーーーーーーーーッ!! ――
―― ジョッ! ジョッ! ジョッ! ――
終わった……
けど、拭けない。
仕方ないのでずっとそのまま。
しずくがアソコの毛に絡むのがきもちわるい。
もう、完全に日が暮れた。
開けっ放しの缶からは、風向きで時折おしっこの臭いがこちらへ流れてくる。
寒い。
おなかすいた。
§§ 涙の食事 §§
ガチャッと扉が開いた。
「ひー! めー! さー! まー! おまったっせー!!」
ギシギシとテラスの床を鳴らしてユックさんが来た。
「あーー、おしっこできましたねー! すごーい、姫様! さすがぁー! 優秀ーゥ!」
頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。
「エフッ……! エフッ……! ワアーーーーン!!」
私の中で何かが切れて、その場でわんわん泣き出してしまった。
「泣かないでくださいよぉ! こんなことで泣いてちゃダメですよー! さー、お部屋に入りましょう。寒かったでしょ?」
「アアーーーン! アアーーーーン!!」
泣きながら四つん這いで這って行く。
「大丈夫ですかぁ? あーーあ、顔がぐちゃぐちゃ!」
「ヘアヒアヒヒレヘイファイレフ…… ズズッ……」
「あっはっは、しびれなんて気にしてたら、この先耐えられませんよ〜! 姫様ならきっと大丈夫ですよ〜! あたしたちもついてますから〜」
やっと部屋に入った。
ガチャンと扉が閉められ、カギが掛けられる。
「姫様、アレルギーとか無いですよね? 卵もそば粉も平気?」
コクコクと頷く。
「でしょうねー。 はい、スープ。 じゅあ、おやすみなさい〜」
え?
ちょっと!
この口枷嵌めたまま?
ガチャン。
扉が閉まり、また独りぼっち。
目の前には犬の餌皿に入れられたポタージュスープ。
見た目にはおいしそうだけど……
夕食時には犬の格好から解放されるかもしれないという甘い期待は裏切られた。
しかも口枷嵌めたまま食事なんて……
奴隷なんて本当にいいように扱われるものなんだ。
やってることはひどいけど、ユックさんやニルさんが優しい言葉で接してくれるのが、せめてもの救いだ。
でもこれはあんまりだ。
う……
肘で四つん這いだと、高さの調節がきかなくて、口がお皿に届かない。
腕を左右に開くようにして、肩の高さを落とし、首を伸ばしてスープに口枷ごと口を突っ込む。
親切でぬるめにしてくれたのか、出来立てから時間が経ちすぎているのか、熱くてやけどすることはなかった。
口枷の玉ごとゴボッとすする。
―― ズズッ ――
―― ズズッ ――
―― ズズッ ――
吸うのをやめると、玉の中に溜まったものがドロリと戻る。
肩が痛い。
こんな惨めな食事なんて……
―― ズズッ ――
―― ズズッ ――
―― ズズッ ――
ぱっと上向きに口を上げ、玉の中のスープを口の中に落とす。
それをゴクッと飲む。
ある程度まで飲むと、もう玉ごとすすれるほどの量がなくなった。
今のところ顎の開閉は自由なので、大きく口を開けると玉の下からベロを出すことが出来る。
玉が邪魔だけど、舌を突き出して皿の中のスープをベロベロと舐め取る。
玉を口の中で転がして中に染みてるスープをすすり取る。
口の脇からだらだら垂れる唾液。
スープとよだれで口の周りはドロドロ。
すき好んでこんな不自由な体にされて喜ぶ人なんて、本当に変態なんだ。
口が拭きたい。
口を濯ぎたい。
手で口を拭うことさえ出来ない。
「エフッ…… エフッ…… エフッ……」
「グズッ…… グズッ……」
「グスッ…… グスッ…… エフッ……」
また泣けてきた。
もう、何もすることがない。
何もできない。
§§ 睡眠 §§
口が拭いたい。
涙を拭きたい。
よだれを拭きたい。
お水飲みたい。
お風呂入りたい。
お股洗いたい。
どれも出来ない。
……寝よう……
これならできる。
腕を1本内側に倒し、顔が床に激突しないように注意しながら、肩を床に着ける。
同じ側の脚を内側に入れ、ゴロンと横倒しになる。
とりあえずホッと一息。
片腕が浮いたままなのはすごく苦しいけれど、脚は曲げたままでも重ねられるので少し楽だ。
鬱血のしびれはとっくに終わっているけど、それはどこかの筋肉が死にそうだってことだと思う。
でも革の拘束具から出ている手や足を見ると、血色は悪いが腐りそうなほどではないようだ。
動かせば動くし、指同士擦り合わせると一応感覚もある。
かなり鈍い感じだけど。
私はまだまだ正気だ。
犬にされたって負けやしない。
自我を保ったまま力を手に入れれば私の勝ちだ。
……
なんだかアソコがムズムズする。
……
気のせいかな?
気づかぬうちに眠ってしまった。
どのくらい寝たかわからないけど、目が覚めた。
腕が痛い。
肩が痛い。
股の関節がボキボキだ。
また睡魔に押されてうつらうつらする。
浅い眠り。
あれだけ寒いと思っていたのに、額には脂汗が浮いている。
寝返りが打てないのがこんなにつらいなんて……
また眠る。
また目が覚める。
穴明きボールを咥えさせられているから、口がガビガビだ。
乾いたスープがニチャニチャして気持ち悪い。
また眠る。