姫
極小の檻
§§ 極小の檻 §§
調教部屋へ戻って来ると、ニルさんがいつもの檻と違う方へ引いて行く。
いつもの檻より少し離れて、小さな檻が置いてあった。
その檻の前に引き出された私はギョッとした。
「こ、こんな小さい檻って……?」
それは今まで慣された大きな檻の1/4ほどの大きさで、手足を折り畳まれた人がひとり入るのが精一杯の大きさだった。
檻の格子の彫金模様から、これが今までの檻と同じ種類だということがすぐわかる。
しかし今までの檻が、幾度かの使用に耐えて、歴史のなかでややくすんだ輝きを放つのに対し、この檻はほとんど新品でピカピカだった。
「これは今まであまり出番の無かった物なんです。いくら狂った王女でも、この檻に一週間も入れたままにされると、命令すら聞けないほどに壊れたらしいです」
背筋を冷たい汗が流れる。
「でも姫様なら大丈夫だろう、ってコメドゥ様が……」
「そ、そんなっ! そんな話聞いてません! あの檻なら…… もう慣れたのでなんとか…… でも、こんな小さな檻に体を固定されたまま何日もなんて…… あたしだって狂っちゃうっ! 無理に決まってますッ!!」
無理だ。
絶対に無理だ。
―― ドック! ――
―― ドック! ――
―― ドック! ――
―― ドック! ――
目茶苦茶なこと言われてるのに、どうしてこんなにドキドキするのよ!
「これだけコンパクトだと、姫様はもうこの中に入りっぱなしでOKなんです。私達もお世話しやすいんですよ。給餌も排泄も楽ですし、移動もキャスターが付いているので簡単です。何より一番大事なのは、このサイズだと拘束したまま転送できるということです」
「い…… いや…… いやあああああああッッ!!」
「だめですよ。嫌でも入っていただきます」
「ひィっ……!」
膣の中であの凶悪な筒がニュルンと動いた。
ウソよウソ!
こんなひどいこと、嬉しいわけない!
それなのに、膣がパクパク蠕動しちゃって止まらない。
「あ〜あ〜あ〜あ〜あ〜あ〜あ〜あ〜」
蠕動止まってよ!
止まってよォ!
「ニルさんひどいよ、いままで優しくしてくれたのに、嫌でも入れだなんて…… グスッ……」
半分オカシクなった頭で、必死の泣き落としを狙う私。
ここまで見境なく悪あがきするとは、自分でも思わなかった。
「え? 私はいつもと変わりませんよ? 今回、初めて姫様が完全に拒否されたんです。私も驚きました」
―― ガーン!! ――
そうだ…… 今まではエッチな気分に流されて、イヤイヤ言いながら全部なしくずしに受け入れて来たんだった。
貞操帯の試着と、そのあと犬にされた時はちょっと無理矢理だったけど、鍵も一度渡してくれたし、犬も慣れてたから……
ピアスでさえ、自分から『きもちいいことしたい!!』っておねだりしたんだった。
私は完全に観念し、全てをあきらめた。
「……もぉ…… 勝手にしてよぉ…… グスッ……」
「それではしばらく出られませんから、お体を清めておきましょうか」
そのままシャワーの前まで引っ張って行かれた。
おま○んこの奥が、ぐにゅーんて引き付ける。
膣が嬉しさに蠕動してる。
あの筒が中をトロトロ擦り上げながら移動してる。
奥に当たっては手前へ。
手前に戻っては奥へ。
「ンッ…… あふっ……」
思わず出てしまう甘い吐息を、あわてて手で覆い隠す。
「最初は歯磨きをどうぞ」
「はい」
私がシャコシャコ磨いてるあいだに、足枷が外され、ブーツを脱がされた。
ザラついたコンクリートとはいえ、久々の素足で踏む床が気持ちいい。
「クンクン」
ニルさんがブーツの中を嗅いでいる。
「ブッ! か、嗅がないでください!」
口から歯磨きペーストの泡を飛ばしながら訴える。
「いえいえ、平気ですよ? ちゃんと除菌した状態で履いていただいてたので、革の匂いしかしません。これならかなり長期間履きっぱなしでも大丈夫ですね」
臭くなくてホッとする反面、長期間履きっぱなしという言葉に恐ろしさを感じた。
歯磨きを続けている最中、ニルさんは改めてブーツの中をきれいに拭き上げ、何種類かの薬で消毒していた。
歯磨きを終えて口を濯ぐと、ワンピースを脱がされ、髪も下ろされた。
シャワーを取り出し、壁の金具に掛けて、頭からドーッと浴びた。
石鹸とボディーブラシを渡してもらい、それそこそ隅々まで洗い上げた。
貞操帯の下や枷の下も可能な限り丹念に洗った。
体を拭いてから、小さい檻の脇まで戻ってきた。
「髪はどうしましょう」
「姫様の美しい髪をみんなにも見せたいんですが、この口枷の邪魔になりますので、またアップにさせていただきます」
ニルさんが檻の上に無造作に置いた口枷は、檻と同じ彫金の施された金製で、形はまるでマンガの強盗がしている覆面にそっくりだ。
口の部分にはやはり筒があり、筒の開口部はコルク栓ではなくネジ式の蓋になっている。
頬の脇の前寄りの左右に蝶番があり、あそこで開いて装着するんだ。
ニルさんが小さい折り畳み椅子を出してくれたので、それに座ると、どこからか長い電線でドライヤーを持ってきた。
調教の最中は無造作にまとめられたりしていたのに、今度は丁寧にブロウしてくれる。
何本かヘアピンを使って後ろをスッキリとまとめてくれた。
小さな王冠を持ってきた。
「たぶん、姫様の冠の本物は王様がお持ちだと思います。これはイミテーションです」
まとめた髪にそっと取り付けてくれた。
「さ、しばらくはお喋り禁止ですよ? コメドゥ様の気まぐれで、解放される日が来るかもしれない事をお祈り致しております」
「そんな! 『解放される日が来るかもしれない』って! もう永久にこのままなんですか? あたし!」
ドッと冷や汗が出る。
「永久ではないと思いますが、メンテナンスの必要が生じるまでは、当分このままでしょうね」
「ひいいいいい!!!」
「姫様ご自身の使命を果たす時が来たのですから、そんなに悲しまないで下さい。はい、お口あーん」
「えふっ…… えふっ…… あ、一言だけ。 ニルさんも…… ユックさんも……、ありがとうございました……」
「いえそんな、畏れ多いです。私達は、ただ言い付けられた通りにしているだけですから。これからもお側でお世話すると思いますので宜しくお願いします」
ああ……
処刑の始まりだ……
緩やかに、そして厳しく自由を奪われてゆく……
全身の力が抜け、全身の産毛がピリピリとトリハダ立つ。
甘美な無力感が頭の中を支配し、後戻りできない拘束空間への一方通行をただ進んで行く。
涙を押し出すように目を閉じ、口を大きく開けると、まずゴムのブロックが押し込まれた。
そして口枷の筒が押し込まれ、頬から顎の下まで覆う枷が左右から閉じられ、うなじで合わされた。
ニルさんがうなじの後れ毛を始末し、位置を確認してからグッと閉じるとカチリと音がして口枷が外れなくなった。
黄金製の口枷なんて、首が重いよ!
私の股からは大量の粘液がドロドロと溢れてる。
もう後戻りできない状態にどんどん拘束されていってるのに、興奮が止まらない。
ニルさんが口の筒の蓋を回して外し、舌が正しく収まっているか確認し、再び蓋を戻した。
蓋には紛失防止のためか短いチェーンがついていて、それがまるで私の口を燃料の入れ口のような印象にしている。
椅子に座った状態で、足を再度拭き清められ、さらに何種類かの薬で拭き上げられた。
スースーして冷たい。
ブーツに足を入れる。
裏地が薬液の湿気でベタついて入りにくかったけど、なんとか足が収まった。
左右ともジッパーが閉じられ、足枷が戻された。
ふくらはぎの密着感のような些細な拘束感が、自分が何か目的を持ったモノに仕立て上げられて行く過程の精密さを印象づける。
こんなどうでもよさそうな部分にすら、逃げ道を奪う厳しさが感じられる。
ニルさんが檻の蓋を上に跳ね上げる。
よく見ると檻は仰向けに横倒しになっているようだった。
今までの大きな檻とは違い、荒々しい無骨な造作の中にも、何カ所かに幅広の座が設けられたりしていて、精密で工夫に満ちた作りになっているのがわかる。
「まず、こちら側に立っていただいて、それからお尻をここへ」
言われた通りにすると、金の小さな鞍のような部分があり、そこへお尻が収まった。
「そのまま仰向けです。頭を檻の縁にぶつけないように気をつけて下さい」
檻本体の中に仰向けに寝る。
これは支えは無い。
背中に檻の格子が食い込んで痛い。
両肩は檻の左右の面すれすれだ。
「足を曲げて下さい」
檻の外に出ていた足を、体育座りするように仰向けのまま身体の前へ引き込む。
「すみません姫様、股は開くんです」
カーッと真っ赤になって、足を曲げたままパカッと股を開いた。
Mの字に股を開く、女の子にとっては一番屈辱的な格好。
ニルさんが開いた足を左右の格子の内側に押し付け、足首の枷を格子の金具に固定した。
「ホヤァァ!!」
あまりに惨めな格好なので悲鳴を上げた。
私の悲鳴を無視して、ニルさんは反対の足も檻に留めた。
「一度閉めますよ」
手が自由なまま檻の正面が閉じられた。
今更なんだけどM字に拡げられた足が恥ずかしくて、股を手で隠した。
ニルさんは私の頭の方へ回ると、檻を掴んだ。
「よいしょォ!!」
小さいとはいえ金製の檻は相当な重さだろう。
中に入れられたまま、檻ごとぐわっと起こされた。
ガシャーンと立てられる瞬間にお尻にすごい衝撃が来た。
「まあ、あまり頻繁に移動するものじゃないのですが、移動の時はお尻に何か敷かないと痛そうですね」
半分涙目でコクコク頷く。
起こされると、下に金属のキャスターがついているのがわかった。
檻の格子は均等な間隔ではなく、所々少し大きめの穴になっていた。
ここから排泄したりするのだろうか。
「姫様、手を後ろにお願いします」
股を隠していた手を渋々どけると、手にはベットリ粘液がついていた。
膣内に挿入された筒を貫く棒の付け根から貞操帯の外に染み出した分だろう。
排尿孔やお尻の脇からダラダラ垂れる分はもっとすごい量だ。
檻の内側が肩幅いっぱいなので、簡単には後ろ手にできない。
片手ずつ肩を斜めにずらして後ろ手にする。
一旦後ろ手にしてしまえば、肩幅ぴったりでも大丈夫だ。
「姫様、背筋を伸ばして下さい」
猫背になっていた背を伸ばすと、お尻の位置が少し変わって座りづらくなった。
ニルさんが下を何かキコキコやったら座面の位置が変わって楽になった。
ニルさんが檻の後ろに回り、左右の手枷をそれぞれ檻の格子に取り付けた。
ニルさんが檻に手を突っ込んで私の腰を掴み、グッと後ろへ引き寄せた。
「背中がきつくないですか? 大丈夫ですか?」
コクリと頷く。
「しばらくお待ち下さい」
ニルさんは奥へ行ってゴソゴソやって、金の棒を何本かもって来た。
短い棒を私の顔の左右あたりから突っ込み、口枷の脇の窪みに差し込みねじって留めた。
左右とも留められたら顔が動かせなくなった。
同じような棒を首の左右から突っ込み、首輪にもあったらしい窪みに差し込んで留めるともう首も動かせなくなった。
「ああん、姫様、また猫背!」
言われてグッと腰を入れる。
「あとで苦しいのは姫様ですよ?」
えーと、もう充分苦しいんですけど。
背筋が伸びたところへ檻を貫通するように棒が差し込まれた。
それが固定されると背中のもたれどころができた。
同じように腰や太ももの下にも棒が通された。
そして今度は前から後ろへ左右の脇に通されて留められた。
体の前後左右に、微妙に体重を預けられる場所が出来た。
「えーと、完成です。姫様すごい素敵です。あたしオナニーしたくなっちゃいました」
「ウーーー!!」
私は完全に小さな檻に固定されてしまった。
もう寸分の自由もない。
「またまた姫様オカズにさせていただくなんて畏れ多いんですが、今日は許してくださいね。では、おやすみなさい」
部屋の明かりを落として、ニルさんが出て行った。
自分の状況を把握する余裕ができたら、すかさず膣内の筒がニュルンと動き始めた。
私の心に僅かな自由も与えない、恐ろしい仕掛け。
今の私は檻の中で、体育座りのまま少し後ろへ反り気味にして後ろ手に固定され、そのまま恥ずかしく股を開いた格好で固定されている。
このまま…… 一生、この状態で過ごすの……?
お腹が充分満たされていることと、精神的な疲労が溜まっていたので、そのままの姿勢でグッスリ寝込んでしまった。
§§ 帰郷 §§
拘束のまま目覚める辛さ。
あくびや伸びすらできない惨めさ。
ガタンガタンと周囲がうるさくて目が覚めたのだ。
「あーー! 姫様起きたーー! おはよーございまーーす!」
「オオオオーオオーオーオ!」
「アハハ、無理にご挨拶なさらないでけっこーでーす! きょうはいよいよアナムネに戻る日ですよぉ!」
ええっ!
もうそんなことするの!?
お父さんは?
お母さんは?
絽以は?!
私の気持ちを無視してどんどん進行する段取りに真っ青になったが、驚きのあまりグスグス涙を流すくらいしかできない。
「ちょっとお待ちくださいねー!」
ユックさんが出て行った。
ユックさんは調教部屋を片付けていたようだ。
中身のほとんど無くなったガラスケースは分解されて梱包されていた。
大きな檻もいくつかのパーツに分解されてまとめられていた。
その他、私の入っている檻くらいのサイズの木箱が2つ。
しばらくしたら、おじさまと絽以とニルさんとユックさんが入って来た。
「おお、おお、すばらしいね。完璧だよ、これは」
「珠里!!」
「ウーーー!!」
「ロイ君は今日帰るよ。手紙をもっていってもらうことにした。あ、そうそう、ジュリアの携帯も持って帰ってくれたまえ。写真がまだだったね。この檻の写真を見れば、兄も一度で諦めるだろう」
「ウーーーッ!!?」
話が違う! ピアスの写真って言ったのに!
「ロイ君、ジュリアの携帯で写真撮ってあげてよ」
「いやだ!」
「ニル、ジュリアに浣腸を。排泄しているところをお前が撮りなさい」
「ウーーーーッ!!」
今の目!
おじさまの目!
残忍で冷酷な目!!
「はい」
ためらいもなく命令に従うニルさん。
おじさまとニルさんとユックさん3人の本来の行動を、初めて目の当たりにした気がした。
「わかった! 撮るよ! 撮ればいいんだろ?!」
絽以がわめいて私の携帯をニルさんから取った。
「うん、素直に従うなら、やっぱりロイ君が撮りたまえ」
絽以は私の正面に来て、携帯を構えた。
「珠里ごめん!」
―― シャリーン ――
携帯のシャッター音がやけに大きく調教部屋に響き、私は檻に閉じ込められている惨めな姿を撮られてしまった。
「オフッ…… オフッ……」
泣けて来た。
「これでいいんだろ?!」
撮った画面をおじさまに見せる絽以。
「もう少しアップがよかったが、ま、いいだろう。ではロイ君をお送りして」
「はい」
「しばらくしたら車が来るから、ロイ君はそれで帰りたまえ。ロイ君はジュリアとは永久にさようならかな?」
絽以も泣いていた。
「珠里、今は何もしてやれなくてごめんな。絶対助けに行くから。お前の処女は俺のモンだからな!」
カーーーーッと真っ赤になる私。
こんな時に何言ってンのよッ!!
「キャーー! ロイさまカッコイイ!!」
「姫様ラブラブぅ!」
「んー、ロイ君には向こうの部屋で車を待っててもらいなさい。ジュリアを転送装置へ」
「はーい」
ユックさんが絽以を案内して部屋を出た。
「姫様、檻の金属のタイヤだとショックがすごいようですから、台車を用意しました」
ニルさんは小型のフォークリフトのようなものを檻の下に差し込むと、ぐいっと持ち上げた。
確かにゴムタイヤだし、タイヤが大きくて太い分、ショックが少ないかも。
ニルさんはその私をまま押して廊下に出て、奥の右の部屋に入った。
おじさまもあとからついてきた。
その部屋は殺風景な部屋で、中央に昔のファラデーやエジソンの時代の碍子を何枚も重ねた高電圧装置のようなものが置いてあった。
「お前の成長を待つ何年かのあいだに、こっちのことも随分調べたが、フィラデルフィア実験のように似た装置を開発した人達も居たようだね。次元の中で番地を振る技術さえ確立すれば、アナムネなんてすぐ隣なのにね。こっちのテレビで見た、耳なしタヌキ型ロボットのマンガね。あれにでてくる赤紫のドアが技術的に近いセンいっているよね」
なんだか良くわからない。
巨大な装置の下が電子レンジのように開き、その中へ檻ごと押し込まれた。
イヤーーーッ!
なんか良く分からないけど、すんごく怖い怖い怖い怖い怖い!!
しばらくしたらガッコーーン!とすごい音がして、全身の産毛がピーンと持ち上がった。
髪の毛も浮き上がり、千切れそうに引っ張られる。
ものすごい静電気みたい。
檻に近い所から肩やブーツの先に青い稲妻のような電光が何本も走り、電撃は感じないけどチリチリとかゆい。
よくパーティーグッズで売ってる、青紫の電光の走るガラス球みたいだ。
そのうちものすごい磁力を感じて気分が悪くなった。
視界が歪む。
ここで吐いたら…… 口枷に溜まって……
またそれを飲み込むの?
死んでもイヤッ!
鼻に回ったら、息つまって死んじゃうよ。
あ〜あ〜あ〜あ〜あ〜あ〜あ〜
耳がキーーーンてなるゥ!
どんどん周波数が高くなる!
意識が薄れそう!
とたんに横から何かにドーンと押されて、反対側から出た。
あれ?
さっきの装置って奥は鉄の壁だったと思ったけど。
真っ暗な空間。
いや、真っ暗じゃない。
このカビくさいにおい……
地下室?
しばらくしたら、横がカーッと明るくなり、再びドカーーンと横から押されて、キャスターがひっかかって倒れそうになった。
「キャーーッ!」
すごい叫び声。
叫びたいのはこっちだ。
何事?
「あいたたた、キャーッ! そうか、姫様は自力で移動できないんだった! えーと……」
装置の出口?と私の間に挟まっていたのはニルさんだった。
ニルさんは私の檻の下を押して、荒い床面をゴトゴト檻を移動させ、それから自分も出て来た。
目が慣れて来ると、どこか遠くから光の漏れて来る地下室らしいことがわかった。
下は石畳なのでキャスターが引っ掛かるのも当然だ。
「見えない…… 見えない……」
出口となった装置には、ほの暗く明かりがついていて、その明かりでなんとなく室内の形がわかる。
「姫様ー! 姫様ー! 大丈夫ですかー! うー、きもちわるい……」
ニルさんは私が口枷ばっちり嵌められているのも忘れちゃったのだろうか。
「姫様……返事が無い…… 死んじゃったかな?」
あのねー。
なんかすごく混乱してるみたい。
「ハッ! あたし何してたんだっけ! そうだ、明かり明かり……」
暗闇にニルさんの靴音が遠ざかったかと思うと、古臭い裸電球が点いた。
「あー姫様無事だった。そうだ、言葉を戻さないと。 イル ニ ハト ム スルモ エンカント ゼ トラン イ アナム……」
ガーーッと記憶の中心がくすぐられる。
アナムネの言葉。
そうだ、わかるよ。
意味が分かる。
自分ではうまく単語を思い出せないけど、聞くと意味がすぐ分かる。
「姫様、アナムネへようこそお戻り下さいました」
完全にアナムネ語で意味が分かる。
「もうしばらくするとコメドゥ様がお着きになると思います。装置を操作する人間が必要なので、ゆーちゃんはあちらへ居残りです」
えーーっ!?
置き去りにするつもり?
「ゆーちゃん、地球に馴染んじゃったから、きっと向こうでも楽しく暮らせます。……よね? かえって私、うらやましいかな? アハ」
暗い地下室にニルさんの涙が光る。
この人達、目茶苦茶だ。
私を拉致調教してここへ連れてくるためなら、自分たちの人生なんてどうなってもいいんだ。
そんな命懸けの人達に、私がかなうわけないよ。
やっぱり私、こうなる運命だったんだ。
どんなに力を入れても、固定された手足は動かない。
動かない首を少し引くと、股間に装着された美しい貞操帯が見える。
そして乳首のピアス。
こんな地下室に放置された状態でも、暇な時間があると勝手にエッチな気分になってしまう。
しばらくしたら、さっき私達が出てきた装置の出口が光って、おじさまがゴロリと出てきた。
「イル マス コメド ビア マスノウ」
「ビア セス ティクル メスト ノウ」
おじさまいきなりニルさんとアナムネ語会話。
私は『ウーー』専門なので、良かったのか悪かったのか……
もうどうでもいいや。