迫る闇
げぼあ!
よっ、46てーーん?!
「よう、どうだった?」
「ろっ、絽以! ああああんたこそどうだったのよ」
「生物は得意なんだ。92点」
「ぐぅーー、悔しい!」
「どうだったんだよ」
「は・ん・ぶ・ん! あんたの点数の! うー再試!」
「ええっ!? お前、そりゃダメだろ」
「うるさーい! だってぇ、名称が細かくってキライなんだもん」
「今回の範囲って人体だろ? お前、自分のためにも一番覚えとかないとダメだろ」
「なんで?」
「あのさ、血管の走行とか神経とか、医者レベルとまではいかなくても、どこを圧迫されると危ないとか、知っといた方がいいと思うけど?」
「言われてみれば……」
「な?」
再試って言っても単元テストだからいいけど、放課後残されるのってカッコワルー。
でも各教科こうやって単元ごとにしつこくテストやるから、中間とか期末とかでは極端に悪い点の人って出ないみたい。
絽以の言うとおり、毛嫌いすべき単元じゃなかったな。
ちょっとマジメに勉強しよっと。
「姫ーぇ!」
学校の帰りに、道の向うから呼び止める声。
「あ、バートン……じゃなかった、魚屋のおじさん。一体どうしたの?」
「いやぁ、今でも信じられません。私がのほほぉんと魚を売りさばいておる間に、姫が波乱万丈な体験をされていたなど……」
「あたしだって信じられないわよ。でも制服の下は貞操帯標準装備なヒトになっちゃったし、アソコにはモノ入れられっぱなしだし、乳首にえらい重しがブラ下がってるのは紛れもなく事実だもの……、 あふッ…… ン…… ちょっと失礼」
自分自身のセリフに刺激され、膣の中で筒がドロリと移動し、ほんの一瞬だけど声が止まってしまうほどの快感が全身に走る。
「ン……」
顔を上げて唇を噛み締め、快感が抜け去るのを堪える。
「……ッ、はぁ、ごめんなさい。それで?」
「あああああ、ごごごごごご苦労様でございます〜。 で、彼の地は平静なのですかな?」
「一応はね。でも辺境にはまだまだクセの強い領主が多いって長老が言ってたな」
「ムム左様。私が気掛かりなのはロッドシール公ですかな。アナムネの西の端になりますが、革に傾倒した趣味を持ち、騎馬隊というか戦車隊は全員女だそうで」
「ふーん」
「他にも北のグロズヌーイ公…… 南のエスペロール公……」
「でももうあたし、難しいことに首突っ込まないからね。もっぱら儀式だけやりに行く感じかな。儀式は仕方ないでしょ身代わりがいないから。政治はわかんないよ」
「そうですな、それで済むならそれに越したことはありませんな」
「じゃ」
「おおっと、お呼び止め奉った肝心の理由がこれでございます。お妃様よりの御依頼、中トロのお刺し身2サクで」
「うわ、やったあ! 代済み?」
「はい」
「へへー、今夜はお刺し身かぁ」
にへらと笑いで顔を歪め、私は魚屋を後にした。
「ただいまー! じじゅーちょーから、おッさーしみー!」
「おかえり。あらあら、取りに行くって言ったのに、珠里が持たされたのね。ご苦労様」
「ちょっと待って。考えたらあたし、お姫さまのくせに侍従長におつかいさせられてる?」
「あら、そうねぇ、そうなるわねぇ」
「なんか急に納得いかなくなってきたー」
「でも、あたしが取りに行くつもりだったものを、わざわざ珠理を呼び止めて渡したんだから、あなたと話がしたかったんじゃない?」
「言われてみれば……」
「何か気になることでもあるのかしらね」
「辺境の領主がどうの……って言ってた」
「バルバなんとかって名前?」
「ううん、ロッドなんたらだった」
「ロッドシール公!」
「ああそれそれ」
「うんうん、ビッザールなひとよぉ」
あーあ。
またソッチ系ですか。
私は思いっきりヤな顔しながら制服のボタンを外し始めた。
「こらこら、ちゃんとお部屋で着替えなさい」
「帰ってくるなり話し込んだの誰よォ」
「あららごめんなさい」
お母さんとの会話はそこでおしまいになり、私は部屋に向かった。
着替えてから鞄の整理をしていたら携帯が鳴った。
「あ、呂以? なあに」
『おー、なんか、あっちの様子がヘンなんだけど』
「えー? どういうこと?」
『昨日の夕方、突然王様がうちに来てさ、おやじと真剣に話し込んで行ったんだ』
「おとうさんが?」
『うん』
「うちではフツーだったけどなぁ」
『ならいいんだ』
夕飯どき。
「お母さん、最近アナムネで何かあったのかな」
「知らないわぁ。あでもお父さんが…… あ、げふんげふん」
「お母さん、あからさまに怪しいわよ」
「あらあら、あたしだってついさっき知ったのよ」
「何を?」
「あ!え?なっ、何も知らないわ」
うそついて狼狽するお母さんなんて初めて見た。
「あのさぁ、一応あたしも王女なんだからさぁ、いいことでも悪いことでも、ちゃんと教えてよ」
「仕方ないわね、あたしからだと又聞きになるから、直接お父さんにお聞きなさい」
「うん、わかった」
深夜、お母さんが寝ちゃって、私ももう寝ようかって頃にお父さんが戻って来た。
「お帰りなさい。お疲れ様」
「なんだ、まだ起きてたのか」
「ねぇ、疲れてるところ悪いんだけど、アナムネの事教えてよ」
「なんだ、藪から棒に。そんなこと気にしないで早く寝なさい」
「気にするよ!皆でコソコソと!そんなにあたしに聞かれちゃ困るわけ? どうせまた今度も、あっちであたしをエッチな恥ずかしい目に遭わせる相談でもしてんでしょ?」
疲れてるお父さんの目が、一瞬怒りで歪んだ。
ヤバ、言い過ぎた?
滅茶苦茶叱られる!と思ったがお父さんの口から出たのは意外な言葉だった。
「……すまん」
「えっ?」
「珠理を苦しめるつもりは無かった。だが黙っていてはもっと苦しむだろうから、全部話そう」
「何のこと?」
「最近のアナムネのことだ。もともと形骸化していた王制だが、完全に飾りになってみるとやはり形式によって抑えていた過去のものが吹き出てくる。地方の領主はやはり行政に於いて自分より身分の低い者がタメ口利くのが我慢ならないのだろうな」
「まあ、そうだろうね」
「で今回、西のロッドシール公が騒ぎを起こしてね。まぁ、要は駄々こねというか嫌がらせなんだが。独立して自治すると言い出した」
「ありがちだね」
「まあ、交通機関が未発達なんで、もともと地方は半ば独立自治だから、完全に独立するのも不可能じゃぁ無い。しかしそれでは示しがつかないし、中央は民主化してるのに地方で独裁政治を継続されても困るので、長老が諌めに行った」
「素直に国に従えってわけね」
「まあそうだ。しかし国政の変化は急激なので、すぐに何もかも変えろというのは無理だから、出来ることからでいいよということで、そのへんを交渉しに行ったのだ」
「そんなユルくてもいいんだ」
「ま、こっちと違って国民の誰もがネットで良いことも悪いことも全て知ってしまうような環境じゃ無いから、国民に極端な不利益がなければ徐々にでいいんだ」
「なるほど」
「ところが交渉中に問題が生じた」
「どんな?」
「もとよりロッドシール公はお前にご執心でな。交渉するならお前を連れてこいと言っていた。こちらとしては一領主の言いなりになるわけにもいかないし…… それに……」
「それに?」
「極端な革拘束趣味でな。自慢の戦車隊は全員頭まで覆うギチギチの革ツナギを着た女だぞ。」
―― ドクン ――
「で長老は、知恵もあるし政治の席にも慣れているということでティアルスちゃんを連れていった」
「何でよ!? あたしが行けば済むことだったんじゃない! なんでティアちゃんをそんな危険な目に!」
「ま、こと政治の席ではお前より役に立つということだろう」
「ぎゃ、ぎゃふーん」
「それにわざわざ長期休暇の取れない時期のお前を召喚するほどではない、という長老の判断もあったのだろうな」
「そっかぁ。 それで?」
「ティアルスちゃんが拉致された」
「なんですって?!!」
「表向きは戦車隊の謁見をして体験入隊のおもてなし、ということになっているが……」
「体験入隊って…… ギチギチ革拘束に?」
「そうかもしれんし、そうでないかもしれん。いずれにしてもティアルスちゃんは城に残され、長老は丁重に追い返された」
「なにそれぇ! アッタマくるー! あたしが行ってやっつけてやる!!」
「……となるのが容易に想像出来たので、誰もお前に言わなかったのだ」
「何でよ? 城くらい真っ二つにして見せるわよ?!」
「だから交渉というものはそれではダメなんだ。今、長老達が策を練っている。それでいよいよお前を呼ばねばならん時は声がかかるはずだ」
いつになく厳しい口調のお父さんから聞いた衝撃の内容。
ティアちゃんが革拘束でギチギチに?
だめだよそんなの!
戦車隊の体験入隊なんてうそっぱちだよ!
絶対あたしが行く!と喉まで出掛かったけど、とてもそんなこと言えなそうなお父さんの雰囲気に、そのままゴクリと呑み込んだ。
翌日の昼、担任の先生から呼び出され、電話を取り次がれた。
「もしもし? あ!お父さん?」
『騒がせてすまんな。やはり至急行くことになったぞ』
「わかった」
大急ぎで家に帰って支度する。
貞操帯の鍵やら、あると便利な道具やらは、既にスーツケースにまとめてある。
「そうだ! 呂以は?」
「残念だが今回は呂以君は行けない。お前一人でなんとかするんだ」
「ええっ! そうなの? でもまぁ仕方ないか。ちゃっちゃーっと片付けて、すぐ戻ればいいよね」
「……」
お父さんは難しい顔をして、とうとう返事をしなかった。
お父さんは後から行くということで、私だけ先にスーツケースを押して呂以んちへ向かう。
兼業お姫様としては、アナムネで何かある毎にこんなご出勤をするのが日常になるのかな。
国家の奴隷として、皆にいじりまわされに行く……出勤。
でも、今回は様子が違う。
儀式であれば仮に内容がハードでも、まだ長老はじめ国民皆の善意が感じられる。
皆が喜ぶから私も耐えられる。
皆に必要とされているという実感が私を満たす。
奴隷って身分だってかまわない。
だけど、今回はあのおじさまとの対決の時のような、嫌な雰囲気が漂う。
ティアちゃんが人質に……
そして…… まさか、私も……?
じゅくっ、とお股が湿る。
私ったら、何で?!
はしたないにも程がある。
でも自分を待ち構えているかもしれない罠や処刑のことを考えると、心が裂けそうな恐怖の他に、全身にトリハダが立つ程の底知れない期待に襲われてしまう。
酷い目に遭ってるかもしれないティアちゃんの姿を想像し、スーツケースのハンドルを強く握りしめ、先を急いだ。
呂以んちに着くと呂以のお父さんが待ち構えていた。
「ごめんね珠理ちゃん、呂以が手伝えなくて。あいつには平日にガッコ抜け出す口実が無いから」
「大丈夫です。あたしも随分慣れましたから。それに、一応王女として、あんまり呂以に頼ってばかりでも駄目だと思うし」
「珠理ちゃんは強いね。じゃ、支度できたら送るよ」
私はスーツケースを転送装置に突っ込んだ。
「お願いします」
呂以のお父さんが操作盤をいじると、髪の毛が束で引っ張られる程の静電気を伴ってスーツケースが消えた。
「ちゃんと送れたみたいだね」
続いて、まだチリチリと電荷の残る装置にの中に私がお尻から入って体育座りする。
「お願いしまーす」
「元気いいね。いってらっしゃい」
全身の産毛が逆立つ静電気の嵐の中で、元気いいんじゃなくて、その位突っ張ってないと潰れそうだから、と自答した。
どーんと押し出されて、先に着いていたスーツケースとの間にムギュッと挟まった。
先に私が行けばいいんだけど、転送はやっぱり不安定なこともあり、先に物を送る方が安全だそうだから仕方ない。
スーツケースのキャスターが石畳に引っ掛かってどーんと倒れちゃった。
懐かしいかび臭さが鼻を突く。
同時に、安寧に暮らす地球の少女から、死にも凌辱にも曝される危険のあるアナムネの王女、そして全身が自分ではままならない奴隷の身分の王女に切り替わったことを自分に言い聞かせる。
毎度の古いエレベーターで上に上がり、長老の部屋へ行く。
「おお、姫! ご苦労じゃったの! この度ワシの失態で迷惑を掛けて相済まんことじゃ」
「長老のせいじゃありませんよ! そのロッドシールってのが悪いヤツです! すぐさまやっつけてやります! さすがに今回はディルドー固定したままでいいですよね?」
長老は静かに首を振った。
「駆引きはそれじゃだめなんじゃよ…… 一刻も早くティアルスをという姫様のお気持ちは有難いが、力で押し切ろうとすれば拉致されたティアルスに危害が及ぶ。それを口実に姫様を引っ張り出し、今度は姫様との交渉で独立を勝ち取ろうというわけじゃ」
「でも独立を交渉するにしても、あたしには何の政治的権限も無いんでしょ?」
「そうじゃ。だから多分姫様もティアルスの如く甘言を弄して捕らえようという魂胆じゃな」
「あたしそれでもいいです!」
「それでは独立を認めねばならなくなってしまいますぞ」
「ティアちゃんを救い出して、あたしも逃げて来ます」
「それは無理じゃ」
「なんでです? 必要があればお城だって真っ二つにしてみせます!」
「姫様の力の仕掛けは皆に知られておる。そんな強大な力をお持ちのお方が、それを全部投げ棄て、非力な少女となり、あまつさえ自ら御体に枷を嵌めて奴隷の身になられているからこそ皆姫を見て感銘を受けるのじゃ。ロッドシール公も姫の御力を封印した上で城に来いと申しておる」
やっぱ駄目か。
力の使えない私は、なすすべもなく調教されてしまうだろう。
「じゃが、方法が無いでもない。要はロッドシールは姫様に『独立を認めましょう』と喋らせたいわけじゃ。仮に姫様に権限が無くとも、仮初めの王家であっても、そのような意向であると公言されれば現政府もそれに従わざるを得ないのじゃ。則ち、姫様がずっと『独立は認めません』と仰り続けて下されば良いのじゃ」
「……調教されても……?」
「そうじゃ」
「あたしっていっつもこんな役ばっかり……」
「だからこそお任せできると思いますのじゃ」
「あたしが『独立オッケー』て言うぐらい完全に調教されちゃったら?」
「その時は独立を認めるまで。ティアルスと姫も戻させます。戻さんと申せば、戦(いくさ)ですな」
「またしても責任重大だなぁ。やんなっちゃう。アハハハハ」
軽口の如く口をついて出た言葉と裏腹に、私は拳も握れない程に恐怖で震えていた。
指が震えて力が入んない。
喉が粘って舌が貼り付く。
私のために……戦争?
「姫には御召し替えを」
長老が呼ぶと侍女たちが入ってきた。
私はスーツケースを引いて侍女達と共にいつもの部屋に移動した。
長老も着いてきたので早速スーツケースを開け、鍵束を長老に預けた。
国宝の枷のセットを取り出し、長老に構わず服を脱ぎ、その服をスーツケースに仕舞った。
今度この服を着られるのはいつなんだろう。
果たして無事に着られるのだろうか。
暗い気持ちでスーツケースを閉じた。
立ったまま侍女達の作業に任せる。
靴と靴下を脱がされ、足を拭き清められてからブーツを履かされた。
久々のヒールの高さに、気持ちがだんだんと生物の再試に悩む女の子のそれから、一国の姫のそれへと高まってゆく。
ブーツの足首に国宝の足枷を嵌められて、足同士短い鎖で繋がれた。
手にも手枷が嵌められ、首にも首輪が嵌められてそれぞれ全部施錠された。
「姫様失礼致しますぞ」
長老が鍵束から膣内ディルドーの鍵を取り、私の前に屈んで貞操帯下部の鍵穴に差し込んだ。
カチリ、とディルドーのロックが外れる。
「んっ」
緊張してるのにどこか興奮してるのか、自由に前後運動できる状態になったディルドーは、私の膣の締まりのうねりに合わせて、一番落ち着いた場所にドロリと移動する。
しかし今はそこまででそれ以上は動かなかった。
金糸で豪華に飾られたスケスケの白いマントを羽織らされた。
「お寒くはありませんかな? 例の乳あては制式のものではないのと、今回は御体が埋まったり当たったりするようなお仕事ではないので省かせていただきました」
「ロッドシールの領地はここから遠いんですか?」
「馬車で5日程じゃ」
「うわ。直前に着替えるってわけにはいかないんですか?」
「それはいくらなんでも王家の尊厳というものをバカにしておりますぞ。何事にも形優先の部分があっての……」
「はぁーい……」
乳首にバンソウコ貼って、擦れとピアスの揺れを止めようかと思ったけどダメみたいね。
最後に本物のティアラが載せられた。
「では、こちらへ。長旅ですので必要なものがあればお持ち下され」
私はスーツケースを開け、衣類以外の日用品をまとめたケースを侍女に託した。
「おっと、このお部屋からお出になる時の必需品ですからな、失礼しますぞ」
首輪に鎖を繋がれた。
いつもならティアちゃんが引いてくれるんだけど、今日は別の女の子だ。
とりあえず手枷は自由なので、手はそのままシースルーのマントの下にしまう。
鎖を曳かれて部屋を出た。
チャリンチャリンと足枷の鎖が鳴る。
私の本来の姿。
「あぁーーーっ!!」
不意に膣内のディルドーが動いて、おかしな声を上げてしまった。
「ごっ、ごめんなさい!」
長老は何も言わず、侍従達も俯いて声を出さず、ティアちゃんの代わりの巫女の子も、ただ真っ赤になって事務的に私の鎖を引く。
うわあぁん。
ディルドーが動いて感じるところを皆に見られちゃった!
私、こうやって引き回されるだけで感じる身体にされちゃって、もうダメかもしんない。
こんなんじゃティアちゃん救出どころか、ロッドシールの城に着く前におかしくなっちゃうよ。
皆はエレベーターで下に下り、私だけ巫女の子と衛兵2人とでチャリンチャリンと階段を下りる。
中庭に出ると100人程の兵士と大勢の侍従・侍女達が出発の準備を整えて待っていた。