恍惚の馬
こんなの、惨め過ぎる!!
「ムーーーーッ!!!」
膝立ちのまま上半身を振り乱す。
「ロ、ロッドシール公! 大丈夫じゃろうか、姫は苦しがっておられるようじゃが?」
「ハッハッハ、ご心配には及びません。昨晩も同様にして就寝されましたが、さすがに姫はすぐ慣れてしまわれました。これも一時的な反射でありましょう」
う、うそばっか!!
「お立ち下さい」
「コムア! ごぽっ! ずひゅッ!!」
呼吸パニック、嚥下パニックの中、跪いたまま上半身をくねらせて落ち着きどころ渇望する私に、ロッドシール公の命令が霞の向こうから聞こえてくる。
「……姫様…… ……1512…… 立ちなさい」
ティアちゃんは長老たちを気遣ってか、私に小声で命令する。
「ゴグッ! ん! う……」
まだ喉が収まらず、網目状のアイマスクの奥で、私の目玉はぐるんぐるん回って、涙が噴き出している。
「はやく」
「う……」
背中で棒状に腕を拘束されてしまっていると、膝立ちから立ち上がるのにバランスが難しい。
片膝を立てたところで、お尻の穴に刺さっているロッドーシール公の木製ディルドーにゴリッと肛門を擦られた。
「ゴブッ! ブムッ!!」
呼吸パニック、嚥下パニックに、肛虐の惨めなパニックも加算される。
脳内に熱流が渦巻くまま、ガクガク震える足でどうにか立った。
「クビュゥッ! ……ゲグッ! ゴブッ!!」
一瞬喉に余裕が出来た時に、多めに息を吸う。
でも口を塞がれ、鼻からの僅かな呼気だけで酸素を補給しているその鼻が、涙で満たされているため、涙もたらふく吸い込んでむせた。
「では、ティアルス殿、姫様に続きを教えて差し上げて下さい」
「……はい……」
ちょ! まさかこのまま午後のトレーニングですかっ!!?
ティアちゃんは箱から手綱を出すと、立ったままずっとパニックに陥っている私の口の左右の金具にカチカチと繋げた。
「おっとそうそう、その前に、数分で結構ですから、そのお姿をそのまま愛でさせてください」
「どうするのですか」
ティアちゃんが尋ねる。
「ティアルス殿、そのまましばらく立っているだけで良いのですよ。ティアルス殿も姫様に劣らずお美しいお姿ですな。お二人揃っているところを間近で愛でられるのは本当に幸せです」
私は戦車を曳く馬の完全な姿にされた状態で、手綱まで付けられ、長老はじめ議場のみんなの視線に晒された。
他の戦車馬の子には装着されていなかった、特製のゴムディルドーまで呑まされて。
涙で霞む網目状のアイマスクからの見える、皆の視線が痛い。
「…… ング ……」
柔軟な喉枷の刺激は少し落ち着いてきたけど、中途半端な嚥下の不快感は全く消えない。
溢れてくる唾液を飲み込むたび、巨大物を苦しみながら呑まされ、でもそれが食道に落ちて行かない半端さを、嫌と言うほど味合わされる。
立つ時お尻を擦られたので、肛門が極太の木栓を咥えていることを思い出させられた。
こんな状態のまま訓練なんて……
でもやるなら早く済ませてしまいたい。
いつまでこうしていればいいのよぉ!
議場中がシンとして、喉枷の刺激に悶え続ける私をじっと見つめてる。
「実は皆様」
私が晒し者として注視される中、もったいぶってロッドシール公が口を開くので、議場の皆はロッドシール公の方を見た。
「先ほど姫様ご本人がお話されかけたのですが……」
……?
「実は姫様のお尻には……」
……!!!?
ちょ! まさか! バカなこと言わないで!!
私の中の様子までバラす気……?!
「私めのモノを象った、木栓が施してあります」
どよめく議場。
「ムゴゥゥーーーーー!!!」
私はまたパニックになった!
ロッドシール公の方を向いて、身体をくねらせて抗議する。
「ッムウッ!! ッムウウウウッ!!!」
「そして今、姫様のお口には……」
いやああああ!
やめて!
行為としては受け入れてあげるけど、それを皆に晒さないで!!
「やはり私めのモノを象った、柔らかい栓が……」
議場はむしろシンとした。
「ムーーーーッ!!!」
アイマスクの奥から睨む私の目を見返すようにして、冷笑を浮かべながらロッドシール公が続ける。
「さらに、姫様のお身体の中には……」
そ、そこまで晒す気?!
こ、こうなったらもう!
ムダと知りつつも、力で口を封じるしかない!!
今、ここまで皆に惨めに晒されて、これ以上の恥辱を晒されるのは真剣に嫌!!
計画のうちとはいえ、身体の中までコイツの思い通りにされ、精液を溜め込まされてしまった今の惨めな自分を、皆に知られたくなかった。
本当にロッドシールを粉々に殺してしまうつもりで念じる。
うーーーーーっ!!
やめて!
もうやめて!
もう言わないで!!
粉々に砕け散れ!!ロッドシーーーールッ!!!
「私めの……」
下腹部がカアッと熱くなり、力が溜まる感じがする。
やった!これはいけるかも!
しかし直後に、下腹部の奥に溜まった力が、別の熱いものに変換される感じがして、力の手応えが抜けた。
股の奥からドロリと融けた蜜が染み出すのを感じたら、フウッと意識が霞んだ。
膣内のディルドーがギュギュギュとせり上がり、子宮口の快感のツボを、狙い澄ませて突き上げる。
「グムウウウウ!!!!」
無念と快感の呻き声が漏れる。
やっぱり膣ディルドーによる抑止力に負けてしまったんだ。
「精液が……」
淡々とロッドシール公の発言が続く。
暴露されてしまうのを阻止できないまま、悔しすぎる快感の中に沈む私。
膣内をゴロリと擦り上げるディルドーの快感が、瞬く間にパアアっと全身に拡散し、アームザックで拘束された腕の先までもが熱くなる。
全身が火照る。
「……たっぷりと、満たされているのでございます」
「ムウウウウウウウ!!!!」
私は、喉と肛門に刺されたロッドシール公のペニスの感触を我が身に刻み込み、どよめく議場の視線を一身に浴びながら、どんどん昇り詰めてゆく。
信じられない。
さすがの私でも、こんな惨めな絶頂って無い。
ただ拘束され、晒されてイッたことなら何度もあるけど、それはまだそこに多少の愛情があったり、私が役に立ったという実感が伴っていたもの。
でも、本当に憎い相手に、いいように操られて、皆から蔑まれた視線を浴びながらイクのは初めてだ。
「姫様」
直立したまま、足を踏ん張ってガクガク痙攣し始めた私を、ティアちゃんが支えてくれた。
アイマスクの網目状の視界越しに、ニヤつくロッドシール公の顔を睨む目が、涙で霞む。
これが……
これがコイツの真の目的だったんだ。
これが私にとって、ティアちゃんが受けたのと同じように、心を壊される調教。
私の『役に立つ』奴隷姫としてのプライドを粉々に砕き、ただ言うがままの命令に従う馬にする調教。
ここでせずとも、いずれ無理矢理同じ目に遭わされたのだろうが、私は議場で上手く立ち回ろうとして、かえってその機会を早めてしまったのかもしれない。
あ……
イヤ……
嫌ぁ……。
ホントに来ちゃった。
惨めなのに、気持ちいい大波、来ちゃった。
長老が猛烈に抗議する声が耳に届くけど、何言ってんのかわかんない。
状況で煽られ、言葉で煽られ、口と、尻と、腹の中にロッドシールの存在を満たされてるのに、本当に微塵も抗えない自分を、嫌というほど思い知らさてしまう。
もう私の存在意義って、この革衣装と、口の棒と、尻の棒と、憎い敵の精液しか、無いんだ。
ギチギチの革拘束衣の下で、全身の産毛が逆立つ。
い、イク…… ……!!!!
「フゴオォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!」
想像を絶する相手の罠に、まんまと嵌った自分の惨めさを呪い、本当に戦車馬に堕ちた自分を実感しながら、激しくイッてしまった。
…… ……
イッても波はまだまだ続く。
「コギュ……! ンゴ! ゴブ……」
「ムンンンン!!! ……グ!! ゲボッ!!」
「……クムムン…… コプ…… ……ン ……ン……」
ティアちゃんに身体を預けて、ブーツの中でつま先を突っ張らせたまま、絶頂の余韻まで噛み締めた。
「……」
まだ痙攣の残る私の肩を抱き、ティアちゃんが私を議場の出口の向きに向かせる。
ふらーーっと傾斜する私。
また支えられ、またそっと手を離される。
ガシッとブーツの踵を踏ん張って、なんとか姿勢を保つ。
そしてティアちゃんは一度離れ、本物の馬を歩いて誘導する時のように、手綱を短く持ち直す。
みんなに見守られている惨めな私を、すでに開いた扉から議場の外へと引っ張る。
ロッドシールはもう何も命令してこない。
ヨレヨレガクガクにしか動かない足で、ゆっくり、一歩一歩、議場から歩み出た。
兵士2名が無言で付き添う。
ティアちゃんはもう目的地がわかっているのか、黙々と手綱を引いて歩く。
腕を上げて私の口の前あたりで手綱をまとめ持つティアちゃんの背に合わせ、少し前屈みのまま惨めに歩く。
あまり前傾すると喉が苦しい。
やがて最初に押し込まれた厩の一室に着いた。
「姫様、じゃなかった1512、私には今はもう何も出来ません、しばらくここで待ちなさい」
手綱を外され、私はその場にへなへなと倒れ込み、横になった。
「クムッ…… んんーーーー!!」
体位が変わった直後は、油断すると呼吸が苦しくなる。
もうこの喉枷のことばっかりが気になって、他のことなど考えられない。
なんとか呼吸が落ち着くと、チラッ、チラッとさっきの恥辱の絶頂のことが数回フラッシュバックしたが、疲労に追い越され、浅い眠りに落ちた。
「ゴグウゥ!!」
また睡眠の途中で、自分の嚥下音で目が覚めた。
アイマスクの編目状の視界に映る明るい部屋の様子で、まだ昼どきであることを思い出した。
横倒しのまま、口と尻の栓を意識する。
ディルドーなんて何度も経験させられてるけど、人として普段閉じている穴を、強制的に開けっ放しにされるという鈍い心の痛みは、何度やられても慣れることはない。
でもその心の抵抗を、あの手この手でだんだん馴染まされてしまうような気がするのが怖い。
みっちりぎっちり全身固縛された姿のまま、まだ自由を許されている足を、少しずらす。
『私の心は半分普通で、半分調教されてしまっています』
ティアちゃんはそう言った。
その意味が今、なんとなくわかって来た。
強い精神ショックからの逃避は、現状の認識を避けようとする。
逃避に好都合な、何か気が紛れることが続けば、それが完全に心を支配してしまうのだ。
今、私が受けている、惨めな、惨めな、責め。
この現実から気を逸らすことのできる何かが欲しい。
でないと、無理して気丈に振舞う私にだって、やっぱり限界ってものはあるんだもの。
カツカツと足音が近づいて来る。
「おお、姫様、先程は本当に美しいお姿を拝見できて頂上でした。折角お休みの所申し訳ないのですが、そろそろ戦車馬としての訓練に本格的に参加してしただかないとなりませんので、お食事とメンテナンスを少々。 ……起こせ」
「はい……」
ティアちゃんの声もする。
抱き起こされ、膝立ちの姿勢にさせられる。
中途半端な睡眠のせいで、頭がボーッとしている。
カチリと喉枷の鍵が外され、ズルリと引き抜かれた。
「ゴエエエエエ!!」
すごい反射が出るが、嘔吐にはならない。
「先程は冷えた物で失礼しました。こんどは新鮮な物をお召し上がり下さい」
ちょ、それって……
ゴボッとペニスを突っ込まれる。
「インウーー!!」
一度抜かれた口枷が逆流してきたかと思った。
でも……
今度は……
熱い……
憎い相手なのに、人肌の温かさ、性器の熱さが、ぼやけた心に嬉しく感じてしまう。
昨日と同じように、ロッドシール公は動かない。
そのうち呼吸が苦しくなって、なんとか喉に隙間を作ろうとクムンクムンと喉を動かしていたら、モノがブルッと震えて咽頭が熱くなった。
「ごくっ。ごくっ」
うう、普通に嚥下できる嬉しさ!!
気持ち良く精液を呑み下す。
「ん? んん? ちうちう。」
ボーッとしたまま、もう少しこの温かさと嚥下の心地よさを噛み締めたくて、何も考えずにソレを吸ってしまった。
「お、おお? これはこれは。 姫様? そのようにせがまれましても、一度引き抜かないともう出ませんぞ」
え?
私、せがんだ?
カアアと真っ赤になった。
どうせ全頭マスクで見えないけど。
ゴポリと抜かれた。
「へ! へあんれまへん!」
思わずせがんでませんと言ったが、無視するように喉枷を戻された。
「ゴ!!! ン!!!」
再び、落ち着き所の無い地獄に逆戻り。
アイマスクの奥で目を白黒させていたら、ティアちゃんが私の前に木箱を置いた。
アームザックされたままなので、あのピロリーのような木枷を使えないから、そのまま上半身を木箱の上に載せられ、股を覆う革ベルトが外された。
アームザックの先端を少し脇へ避けられ、ずっとお尻に差し込まれたままになっているロッドシール公の木製ディルドーを引っ張られた。
「ンン……」
「おや、またまたがっちり咥えて抜けませんな、フフフ」
またからかわれて悔しいので、結果も考えず強くいきんだ。
そしたらボブッと栓が抜けたのはいいけど、生温かいミも出ちゃった!
「ンイイイ!!」
粗相をしたと思った私は上半身を捻ってめちゃくちゃに暴れた。
「落ち着いて下さい姫様。何もお出しになるものなど無いので、粘液だけですよ」
ロッドシールの言葉だったけど、少し安心した。
そのまま一度立たされ、トイレの四角い穴の上で残りの粘液と前の精液の残渣を排泄し、おしっこも出した。
再び木箱の上に上半身を載せられ、ロッドシール公のモノがお尻に触れた。
「ヒウウゥ!」
身が縮み上がる悲惨な悲鳴。
心の中での抵抗も虚しく、栓で開きっ放しにされていたソコは、いとも簡単にロッドシールに犯された。
不思議な事に、あんまり嫌じゃなかった。
栄養がもらえる、ということもあるけど、身も心もボロボロな時に、人の体温をこんなにも有り難く感じるものなのか。
嫌なヤツに与えられる温もりに身体の方が屈服し、そいつへの憎しみを追い越してしまいそうだ。
ロッドシールが丁寧に私のアナルを擦り上げる。
そんな風に優しくしないで!
心が負けちゃうよぅ!
もっと乱暴に!憎しみを再燃させるようにお願い!!
ああ……
ああ……
だめだ。
絽以とのアナルセックスの心の満足を100点とすると、充分80点以上心が満たされてしまっている。
残り20点のうち、10点は恋人でない嫌悪感から絶対越えられない壁としても、残り10点は憎しみを奮い立たせて辛うじて減点した分。
こんな10点、簡単に乗り越えられてしまいそう……
「おお、姫様、急に解れましたな。フフ、僭越ながら私めはこうやって我が軍の戦車女全員に愛情を注いでおりまする。おっとティアルス殿だけはお口でしたな。人数が多いと私が薬を使っても大変なので、一応順番制ですが、それぞれの番の時には、皆ちゃんと喜んで応えてくれまする」
『愛情を注ぐ』という言葉が、砂漠に染み込む一滴の水のように、今のカサカサに乾いた私の心に、温かく拡がる。
絽以や長老、王室の務め、もとの世界での暮らし等の記憶が、次第に霞んでゆく。
憎しみが流され、脳が脱力してしまう。
誘惑に負け始めたら、お尻を満たす甘い快感が、より一層その甘みを増し始めた。
「ン…… ムンウ……」
「お、おお、姫様、すばらしい。根元がこれだけ均一に締まれば、いかな私とても、もう…… もう…… う……!」
尻の奥がドバッと熱くなった。
「いやああははは、これはこれは、私としたことが、事務的給餌のつもりがこんなに興奮してしまうとは、姫様のここは最高ですな。抜くのが誠に惜しい」
そう言って私を誉めながらゆっくりと腰を引いた。
抜かれたら、心がすっと冷える。
ロッドシール公が抜いた瞬間、考えてはいけないはずの寂しさを感じてしまいそうになったが、まだ僅かに残る理性でその寂しさを打ち消した。
木栓が戻されると、また不快さより充足感の方が大きくなっていてゾッとした。
絶対このままではまずい。
でも、もう……。
ティアちゃんが私をまた元の装備に戻すのを確認し終わると、ロッドシール公は私たちを並んで立たせ、自分の首に下がった首輪のタイマーのネジを手に取った。
「さあ、姫様、首輪のネジも目一杯巻きます故、心置き無くお励み下さい。ティアルス殿のことがご心配で集中出来ぬといけませんから、ティアルス殿のネジも一杯に巻きまする」
私の革の戦車隊服の首元をまさぐり、革に明いた穴を首輪の鍵穴に合わせると、ネジを差し込み何回か巻き上げた。
ティアちゃんの首輪のネジも同様に巻き上げた。
「では、これにて」
ロッドシール公はネジをまた首から下げると、ティアちゃんには何も言わずに立ち去った。
「1512、始めましょう」
私は表情の全く分からない全頭マスクのまま、喉が突き上げない程度にコクリと頷いた。
「コム…… オム……」
発作的な反射はでないけど、相変わらず喉は全然落ち着かない。
私の脳内は一回の呼吸を無事に完了し、それをなんとか繰り返すことだけで占められている。
そこへまたお尻の刺激が加わり、切羽詰った状態から一向に抜け出せない。
再び口に手綱が付けられ、厩の個室の奥の戸からまた裏の芝地に出た。
すぐに手綱が外された。
「訓練内容は午前中と同じです。そのスーツにも狭い視界にもアームザックのまま走ることにも慣れて頂かないといけません」
私は頷いた。
「では、どうぞ」
要は午前中の続きってことでしょ。
喉枷の負担が物凄いけど、体重の掛け方のコツなんかは午前中と変わらないはず。
小径(こみち)に向かって草地をタッと駆け出した。
とたん。
「ゴムァ?」
口では『はにゃ?』って言ったつもり。
一瞬、何が起こったのか分かんないまま、後ろ手アームザックの拘束姿で、やんわりと草の上に倒れ込んだ。
横倒しのまま、頭に「?」マークが点灯する。
すぐに倒れた原因が分かった。
き、きもちいい……
気持ち良過ぎて、膝に力入んないんだ。
普通、こんな時の快感責めって、尖った快感の辛さに耐えながら責められ続けるものだけど、一歩駆け出しただけで、いきなりイク直前の、一番オイシイ瞬間のような気持ち良さに襲われた。
ああ……
午前中に走りながら緩くイキ続けた、あの感覚に最初っから到達しちゃってるんだ。
ハフッ、フシュッ。
倒れ込んで中断したのが残念で仕方なく、エサを前にしたイヌのように、不自由な息を弾ませながら、自力で立ちあがった。
草地を抜けてトラックに入る。
タッタッタッタと走ると、まるで自分の指でアソコを自由自在に擦るオナニーのよう。
私に久し振りに与えられた、自力オナニーの権利。
ハフッ、フシュッ。
ハフッ、フシュッ。
ハフッ、フシュッ。
これ、イイ!!
歪んだ視界、歪んだ快感、……歪んだ心。
狡猾な計略により意図的に狭められてしまった私の意識の中で、もうこの快感に抗うだけの余裕も正義も無い。
アイマスクの細かい穴から流れる地面を延々と見続けながら、快感が自在に高まる興奮の中、トラックをほぼ一周したところで望む絶頂が来た。
パアアと視界が白くなる。
でも体が慣れてしまったのか、酸素が足りないからなのか、倒れる程の反動は来ず、少し足がもつれた程度でまだまだ走り続けられる。
うあ。
今までのどんな過酷な行事よりもぜんっぜん楽しい!
気持ちいい!
アハハ、2周め。
も一回イクよう?
トラック一周でオナニー1セット。
また来た。
またイク。
パアアっと視界が白くなる。
ヘヘヘ、もう一周ぅぅぅぅ、……って! わああっ!!
ドスンと誰かがぶつかって、ガッシリ抱き止められた。
ああ、ティアちゃんなの?
……見えない。
ねえ、もう一周くらい、いいでしょ?
ヘヘヘ、ティアちゃんだってやってんじゃないのォ?
アハハ、冗談冗談。
何これ?
重くなーい?
アハハ、こういう拘束?
こんだら?
こんだらだよね、コレって。
あ、そうか、手はいらないよね。そのためのこの革衣装だもんね。
手綱?
また手綱?
うん、聞こえてるよ。
うん、鞭?
ああ、聞いてるよ、覚えてる。
合図でしょ?
ハイハイ。
重ーい!
ティアちゃん、重いよ!
アイタッ!
ちが、ティアちゃんじゃなくて、こんだら!
あ、この鞭は加速の合図?
そうだよね、重いって言われてぶつなんて、ティアちゃんのキャラと違うもんね。
おおおおー!
重いけどっ!
気ン持ちィいいいいいーーー!
おっと、手綱引かれた。
はいはい、左ね。
こんどは右。
ずーーと回るのね。
連続右旋回。
両方引かれて停止。
ふぅー。
あ、撫でてもらえんの?
快感もいいけど、こゆのも嬉しい。
ふと視線を上げると、こっちを見てる集団と目があった。
―― ドグン! ――
長老たちが、ロッドシール公に案内され、こちらを見ている。
急に夢から覚めた。
私、何やってるんだろう!
ハッと気付くと、私は草地の上で戦車を曳いて停まっていた。
戦車には、ティアちゃんが乗っていた。
もう、ロッドシール公の思うままの姿だった。
我に帰ったら、急に惨めに感じたけど、気持ちいいのは変わらない。
ピシッと出発の鞭をもらい、また走り出す。
ガラガラと戦車の車輪の音がうるさいけど、最初ほど重くは感じない。
手綱で操られ、今度はさっきまでの馬単独ではなく、戦車を曳いた姿で外周トラックに入った。
安定した走りになると、引き続き気持ちいい。
内容はマイペースのオナニーといっしょ。
ただ例えるなら、腕にも指にも鉛を巻きつけてオナニーしているような状態。
今は快感が勝ってるから気にもせず、必死で指を動かしてるけど、体力は桁違いに消耗する。
体力は桁違いに消耗するけど、快感はそのままだ。
破滅が見えてるけど、考えたくない状態。
「プシュッ。プシュッ。」
鼻腔から喉への気路が開いた時を狙って、必死で酸素を貪る。
そんな状態のまま、夢見心地でトラックを駆け抜ける。
戦車隊の女の子たちって、みんなこんなに気持ちいいことしてたんだ。
心配してソンしちゃった。
ティアちゃんだって、いくらトラウマ与えられて心理操作されちゃったからって、淡々とあたしのこと調教してくれちゃって、ヘンだとおもったんだ。
でもこんだけ気持ちよければ許せるよ。
―― ドグン! ――
また、おかしくなってきたところへ、長老たちの姿が、割り込む。
あああっ!
また現実に戻されるっ!
もう自分の意思では立ち止まることすらできない、惨めな戦車にされた私。
頭の中が現実に戻っても、止まれの合図がもらえるまで、足を止めることができない。
無理に止まれば戦車に巻き込まれて大怪我だ。
止まれないから走り続けるしかない。
走り続けることは緩くイキ続けること。
議場で晒されてイッた時より何分の一かの絶頂だけど、子宮の中心が痺れ、視界が弾けて、蜜が出る。
あ、知らないうちに、おしっこもらしてる。
そうか、ティアちゃんはこれを見て、私が堕ちたと判断したんだ。
だから戦車繋いだんだ。
おしっこ漏らしたのは、まだ単独で走ってる時だ、きっと。
あたしもうだめだぁ。
涙で視界が霞むけど、これが鼻に流れ込むと息ができなくなるから、顔をプルルと振って目の脇へ流した。
何周しただろう。
慣らしのためか、単調に走るだけ。
そして鞭の合図を何種類か教えられただけ。
ずっと走り続け。
長老たちはいつのまにか居なくなっていた。
気付くと、網目状の視界がずいぶん暗い。
もう、夕方なのかも。
トラックの始点が近付き、手綱を引かれてようやくストップした。
イッたからというよりも、もう体力の限界で座り込もうとしたら……
「ゴエッ!!」
腰を戦車に留められているので、屈むことも倒れ込むこともできない!
「1512、戦闘中は休むことはできません」
そうか、戦車を曳いてる時はずっと戦闘中ってわけね。
クタクタのヘロヘロだけど、我慢して立つ。
ピシッと鞭をもらい、戦車を収める厩の、私に与えられたブロックの前まで移動する。
ティアちゃんが扉を開け、誘導してもらいながらバックで車庫入れ。
扉がガシャンと閉められ、やっと解放してもらえそうになった。
「そのまま待ちなさい」
え?
まだなの?
えーー?
倒れちゃうよ!
ティアちゃん!
かんべんしてよ!
戦車に繋がれたまま、なすすべもなく立ち、疲労から踏ん張れない足でガクガク踵の位置を変えてなんとか倒れないようにフラフラと揺れていた。
ティアちゃんがいなくなってからどれくらい経ったろう。
意識が朦朧として眠りかけ、その度にガクンと戦車のバーに引き戻されるということを繰り返していた。
やっと足音がして、ロッドシールとティアちゃんが来た。
「おお、姫様、お疲れ様でした」
ティアちゃんがやっと戦車から外してくれた。
ガクガクしながら歩いて戦車の脇を抜け、厩の通路側のスペースに戻った。
ティアちゃんが私の口からロッドシール公の喉枷を抜き取った。
「ゴエエエエエ!!」
次に、私の口を固定している口枷のハーネスも外した。
「カハッ……」
そしてなんと、全頭マスクも外してくれた。
「ぷあっ!」
「全頭マスクの姫様もお美しいですが、やはり素顔の方がよりお美しいですな」
「ハァハァ…… ぜ、全頭マスクして…… 美しいって…… わかるわけ…… ないっしょ……」
「では、明日も訓練がございますから、御手はその拘束のままですが、お顔とお喉は楽だと思いますので、ごゆるりとお休み下さい。では」
ロッドシール公はそのまま立ち去ろうとした。
私は、もらえるはずのものがもらえない喪失感で、真っ青になった。
「あ、あのっ!!」
「なんですかな?」
「あの……」
自分で驚いた。
私、『精液ください』って言おうとしてる!!
「あの…… まだもらってません……」
「何をです?」
「今晩の、分、です……!」
「今晩の何をです?」
「しょ、食事、です!」
「具体的にお願いします」
「い、いじわるですね!」
「では、これにて」
「あ! ちょ! せ! 精液です! 精液ください!!」
言っちゃった……!
「フフフ、よくできました、姫様。別に一度口に出して言ってしまえば、さほど憚るものでもないでしょう?」
「ひどい……」
「では、これにて」
「ちょ! あのっ!」
「ハハハ、冗談です。ちゃんと差し上げますよ」
「もうっ。ひどいですぅ。」
えっ?
ちゃんともらえることがわかった嬉しさから、後半半分おちゃらけて受け答えしてる自分がヘンだ。
おかしいよ、私。
私は、口を開けた。
口の端が上がってる!
私、嬉しげに笑ってる!?
な、なんで?
そ、そこまで嬉しくなんかない!
ロッドシール公は私の表情を見て、ニヤけた顔で私の口にペニスを突っ込んだ。
「むッ。」
慣らされた型にぴったりのものが喉の奥まで滑り込んでくる。
「コムッ……」
小さな呻き声一つで、それは私の咽頭まで納まった。
もう慣れた。
口枷なんか無くてもちゃんと開けてられるよ?
喉いっぱいに熱い棒が充満してる。
これで飲み込む動作を続ければ……
「おお、姫様!」
ドブッと精液が出て……
ゴクゴク飲めるんだ。
「ちょ、おお、姫様」
出たっ!
ごくっ!
んぐっ!
えぐっ!
ちうちう啜ると、もう少し出るよ。
「むぅ。姫様!」
ちゅるちゅる。
残渣を吸い取る。
「う。」
ロッドシール公が腰を引いた。
「ぷあっ!」
「おお、姫様、危く余韻に浸ってしまうところでしたぞ」
「あの…… ごちそうさまでした……」
「なんのなんの、おそまつさまでした。僅かな時間で上手になられましたな。では、ゆっくりとお休み下さい」
「ちょ! あの!」
「はぁ? まだ何か?」
「あの……」
「このあとまだ内輪の会議がございましてな。急いでおります故」
「あの…… お尻にも! お尻にも、精液、ください!」
また言っちゃった!
「ほほう、姫様すばらしい。素直なのは良いことですぞ。素直ついでに自治の方などお認めいただくと嬉しいですな」
「そッ、それとこれとは話が別です! ちゃ、ちゃんと、た、体験入隊してるんですから、せ、世話もちゃんとしてください!」
「クックック! これは参りましたな! 仰る通りです。では、身を入れてお尻のお世話をするとしますかな」
「い、いちいち言わないで結構です!」
「はいはい」
跪いてから台に胸を乗せられ、お尻を突き上げた格好にさせられた。
股のベルトが外され、お尻のディルドーが抜かれた。
……
あ、あれ?
このままの姿勢で待つのはマヌケすぎるんだけど。
てか、早く欲しい……
「早くぅ……!」
ちょ、今、私、なんて言った?!
おねだりした?!
バカな!
「あ、えと、その……、急かしたんじゃなくて…… その……」
箱の上にうつ伏せにされたまま、真っ赤になって首だけ後ろを振り返り、言い訳しようとすると、ロッドシール公は笑っていた。
恥ずかしい!
死にたい!
もう全部捨てて死んでしまいたい!
「はうっ!」
ロッドシール公は、私が堕ちたという確信を得たような笑みを浮かべ、ペニスを私の肛門にねじ込んだ。
悪くない。
アナルセックスも悪くないよ……
だめだ……
どんどん嫌悪感が無くなってる……
「う。」
初日よりはかなり少なめの精液だけど、たっぷりと腸内に出された。
お尻の奥が温かい。
お尻のディルドーと股の革ベルトが戻される。
「あの、ありがとうございました」
「フフフ、こちらこそおそまつ様でした。 ……ティアルス殿、例のものを」
「はい……」
ティアちゃんのか細い返事が聞こえる。
「姫様、これにて。あ、そうそう、姫様にお馬をお願いするにあたって、特に耳の型も採らせて頂きます。よろしいですかな?」
「え? ……はぁ」
ボロボロな状態がやっと少し満たされた私は、よくわからないので生返事を返した。
「では、御免」
ロッドシールは去って行った。
私はティアちゃんに手伝ってもらって台の上から上半身を下ろし、久々に顔が露出したまま横になった。
「ふー。」
「姫様、大丈夫ですか?」
「アハ、自分が精液臭いや。だんだん私の身体もあいつの精液タンパクで置き換えられちゃうのかなぁ」
「そうなる前になんとかしないといけませんね」
「ねぇ、ティアちゃんたちも精液だけで生活させられてんの?」
「……いえ……」
ティアちゃんは申し訳なさそうに言った。
「うそーー!! なにそれ! あたしだけぇ? 順番に全員に与えてるって言ってたよ?」
「ええ…… とてもここの全員に規則的にそんなこと出来るわけありません。最初のうちに儀式として行って、あとは気の向いた時に行っているだけです」
「ティアちゃんは?」
「……数回だけ……飲まされました」
「そうかあ。でもよかった、ティアちゃんが数回だけで。ひどいめに遭うのはあたしだけでいいよ」
「もったいない…… 申し訳ありません……何もできなくて……」
「そんなことないよ、ティアちゃん。ティアちゃんが世話してくれるから、私も随分楽に過ごせてるよ」
「では、先ほどロッドシール公が言っていた御耳の型を採ります」
そう言ってスタスタ行っちゃった。
あーもう、ティアちゃんのこゆ時のドライな感じって、元々なんだろうけど、少し寂しくなるなぁ。
久々に楽な呼吸でまどろみ始めたころ、ティアちゃんが道具箱を持って戻ってきた。
「お休みのところ済みません。御耳の型を採りますね」
「ところでさ、ティアちゃん、今は敬語だけど、あたしの戦車馬扱いと姫様扱いの境目ってどのへんなの?」
「はあ、御顔が出ているか否か、でしょうか。申し訳ありません、かなり適当です。ロッドシール公が見ているかどうかでも微妙に使い分けてます。ロッドシール公も私のことを殿付けだったり命令口調だったり適当なようです」
「アハハハ、そうだよね、御苦労様。じゃ、ちゃっちゃとやっちゃって」
「はい……」
ティアちゃんは私の頭のすぐ後ろに正座すると、私の肩を抱えて上半身を引き寄せ、頭を膝枕に載せた。
ティアちゃんの華奢な身体をギチギチに包む、戦車隊服とは名ばかりの革の拘束衣。
その分厚い革にほんのり移ったティアちゃんの体温と、私の頬との温度差の、優しい冷たさが心地良い。
でもその温度差こそが革の厚みを如実に物語っていて、我が身に施された戒めの厳しさをも間接的に実感させられてしまう。
少し甘えた気分になってティアちゃんの太ももに頬擦りすると、私より何倍も長くここで過ごしているティアちゃんのその部分の革は、浅い傷だらけで荒れていた。
こんなになるまでティアちゃん色々やらされたんだ……
ティアちゃんの苦労に想いを馳せていると、いきなり耳に何かが押し込まれた。
「に"ゃッ!!」
潰れた悲鳴を上げる。
ボリボリボリっと鼓膜に直接響く不快なノイズを伴って、耳の奥が痛くなった。
音はまるで、水泳で耳に水が詰まった時のよう。
様子はまるで、綿棒を遠慮なく鼓膜まで突っ込んだ感じ。
「痛く無いですか?」
ティアちゃんの声が膜一枚隔てた向こうからの音のように聞こえる。
「少し痛いな」
「済みません」
クンッと何か引っ張られて、痛みが無くなった。
「なにしてんの?」
「はあ、小さな綿球に糸をつけて、姫様の鼓膜まで細い木の棒で押し込んでいるのです」
「きゃあああ、怖いよそれ!」
「いえ、もうできましたから」
「え?」
今度は冷たい物がいきなりチュルチュルと注ぎ込まれた。
「きゃあああああああああああああ! なっ!?」
反射的に上半身を起こそうとして顔を捻ったら、ティアちゃんにぐいっと抑え込まれた。
「動かないで下さい」
「いやっ! 何っ!?」
「じっとして……」
奥に流し込まれた状態から、次第に浅い所まで充填され、さらに耳の外まで何かをコッテリ盛られた感じ。
完全に右耳は塞がれ、音を失った。
「お口を全開にして我慢していて下さい」
「えーー? こう?」
あーーっと開く。
しばらくそのまま。
ティアちゃんが指で盛られた物質をくいくい押しているのがわかる。
「もういいですかね」
ガッと掴まれ、耳全体が鼓膜ごと抜けるかという力で引っ張られた。
「ぎ! ぎゃああああ!! いたたたたた!! マジ痛いよ!」
「すみません。少し捻ります」
クイクイと捻られた感じがしたら、外側に近い方から、パリパリと内面が剥がれる感じが奥まで侵入してきた。
「あ…… あ…… あ……」
そのパリパリが鼓膜まで達したら、バリッ!!と物凄いノイズを感じ、とたんに耳が楽になった。
充填物が塊のまま抜けて行く……
水泳で耳に入った水がドロンと抜け出す時の心地よさのように、耳が音を取り戻し、パアアと楽になった。
「とれました」
「ちょ、何よもう! 見せて?」
「はい……」
ティアちゃんが見せてくれたのは、緩いスパイラルな突起物。
「姫様の御耳の穴の型です……」
「ひやああ、こんなんなってんだ」
先端にぽちっと小さな綿の球が載っている。
なるほど、型採り材が鼓膜に直接着かないようにまず綿を押し込んで、それから型採り材を流したのね?
型に埋もれるように走る糸は、綿球が中に残らないようにするためか。
痛いって言った時にすぐ楽にしてくれたのは、鼓膜に押し付けた綿球を、糸を引っ張って押し付けを緩めたからだ。
ティアちゃんは型を大事に木箱に仕舞うと、私の肩を抱えて反対向きにしようとした。
「姫様、お身体回せますか」
「うん。うんしょ!うんしょ! これでいい?」
足が自由なのでなんとか身体をティアちゃんの方に向けた。
上半身はティアちゃんに回してもらった。
こんどは顔の正面に、正座してるティアちゃんのお腹が来る。
ベルトの構成などは殆ど私が着せられている拘束衣と変わらない。
やはり革は使い込まれていて、表面のヒビやささくれが目立つ。
でも、膝枕ってきもちいい……
物凄くヘンなことされてるのに、心が少しだけ解れてしまう……
―― バリ!! ――
「に"ゃッ!!」
まただ。
容赦なく綿球が押し込まれた。
―― ゴゾゾゾゾ!! ――
背筋が寒くなる異音がして、また音が遠くなった。
ただ綿が詰められただけでなく、鼓膜に接触・圧迫されて、鼓膜が振動しなくなったような感覚。
「こんどは?」
「うん、痛くはない」
「では」
見えないけど、チュルチュルと注射器のようなものから絞り出しているようだ。
「ひーー!!」
自分の声が、まるで水中の音のように、遠回りして反対の耳に帰って来る。
こっちも耳介まで盛り上げられた。
「お口を全開でお願いします」
「はいはい、あーーー」
しばらくそのまま。
そして、固まってから外された。
「うーー、耳の中がカイイ!!! 痒いイイイイイ!! ティアちゃん、なんとかならない?」
でも、自分じゃ何も出来ない私。
こんなことでアームザック拘束の腕を恨めしく思うなんて。
「耳かきや綿棒のようなものはこちらには無いんです。我慢してください」
「うあああ、いぢわるぅ〜〜!!」
「済みません、いじわるでは無いのです。何も出来ないのです」
「ああ、ごめん、ティアちゃんを困らせるつもり無かったんだ。でもカイイイイイイ!!」
「では、ごゆっくりお休み下さい」
ティアちゃんは私の頭を持ち上げて、膝を抜くと、そこらのボロ布を畳んで枕代わりに私の頭の下に敷き、今採った型を入れた木箱を持って立った。
カツカツと足音が厩の区画から出ようとした時、私は振り向かぬまま思わず尋ねた。
「それ、どうするつもりかな」
「多分、耳枷を作るんだと思います」
――ドグン!!――
もう、耳なんて痒くなかった。
アームザックに包まれた指の先まで……ハイヒールブーツのつま先の奥まで…… 冷たい汗で満たされた気がした。
それでも、程よい高さのボロ布と、顔も口も拘束されていない楽な状態のおかげで、戦々恐々としながらもぐっすりと眠ってしまった。