檻姫

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  十四 終焉  


 俄に城が騒がしくなった。
 国王より剣術大会開催の御触れがあり、開催地としてここが選ばれたのだ。大会には王と王女も来るという。本来なら王女様も大会に参加なさるのに、今回は見送るということだった。
 何かの方法で上手く誤魔化しているな偽者め。

 別に大会を意識しているわけではないが、益々修練に熱が入る。
 最近は新しく覚えた自己流ばかりを鍛錬していたが、試合となればある程度の型も必要だから、少し昔の剣法もさらっておこう。

 やがて剣術大会が近付いた。領内は王を迎える準備で大変な騒ぎだった。
 いよいよ王が到着した。王と王女が入城するとき、私は私の偽者の姿を見て息を呑んだ。
 両腕が! 無い!
 なぜだ!

 大会当日。
 参加者の中にグレンドルの姿を認めた。懐かしさと、今の自分の情けなさ恥ずかしさで涙が滲んだ。グレンドルは別人のように強くなっていて、以前のような詰めの甘さと隙が無くなっていた。
 正規軍の面目躍如か、グレンドルは勝ち進み、ついに優勝してしまった。
 私は結局出場する資格すら無かったらしい。
「グレンドル、よくぞ戦った。すばらしかったぞ。儂も鼻が高い。褒美は何が良い」
「では、あの者と試合ってみたいと思います」
 私を指さす。
 これには真剣に驚いた。
「バルベロッテ候、よいか」
「もちろんでございます。若輩もの故、お手柔らかにお願いします」
「グレンドル、女剣士と見受ける、いたわってやれよ」
「お言葉ですが、それでは私が負けてしまうでしょう、ははは」

 試合なので当然刀身には革カバーが着けられ、寸止めが基本だ。
 両者抜いたままで挨拶して、いきなり試合開始だ。
 私はすぐに間合いに入り、水平に一撃目を払う。
 寸止めといっても多少の衝撃はお互い覚悟の上だ。
 しかし、グレンドルは難なくかわし、力で私の剣を払う。
 引いてもう一撃。
 これはかすったが、かわされた。
 審判は一応得点としてカウントしている。
 グレンドルが不自然な押しで迫ってきて、ガッキと鍔迫り合いになった。
 面と面が近付く。
「姫!」
 えっ?
「シッ! 試合中しかお話出来ません。上手く組むふりをしてチャンスを」
「ン。」
 ギャリンと鍔が鳴って、お互いに離れる。
 再び組む。
「やはり姫様でしたか。試合うまでは確信がもてなかったのですが、この太刀筋は一緒に戦い慣れた姫様のもの。それに惚れた女の髪の毛くらい見分けられないわけありません。もう皆偽者の正体に気付いております。あとは姫様を安全に救い出すだけ。今夜宴会の席で王が発表なさいます」
 ギインと離れる。
 そこから狂った様に右に左にと叩き込んで来る。
 力任せの剣撃をただ受けるだけで精一杯だ。
 私は剣を下ろして、降参のポーズ。
「すばらしい、さすがは優勝者じゃ」
 グレンドルは勝者の面目躍如、私は善戦したのでバルベロッテの面子保持といったところだろう。

 優勝者の祝賀会で、いきなり王が言った。
「バルベロッテよ。そなたの忠誠、経済発展の手腕、いずれもすばらしいものと思う。しかしな、趣味が昂じすぎたようじゃの。偽者まで使い、王女を拐(かどわ)かすとは恐れを知らぬにも程がある。しかも剣が扱えぬことが露見せぬよう、間者によって事故に見せかけ、偽者の両腕を切り落とすとは、鬼畜の所業じゃ!」
 なんだって!?
 怒りに我を忘れた私は、首の鎖をたぐり寄せ、バルベロッテを殴り飛ばしていた。
 フラフラと立ち上がったバルベロッテに、私は無言で剣を向けた。
「わ、私を殺せば、後悔することになりますぞ!ククク」
 バルベロッテはひきつった笑みを湛えながら命乞いの言葉を吐いたが、私が思考を働かせるより速く私の剣が走り、上下真っ二つになったバルベロッテは、腸(はらわた)をぶちまけながら絶命した。
 私はベルベロッテの死体をまさぐり、私の戒めを解き放つ鍵束を取り出した。
 鍵の種類を見よう見まねで確かめ、全部揃っているのを確認した。
 別室にモリスを呼んで鉄仮面とフルプレートを外してもらった。
 甲冑用のマントを羽織る。
 モリスを部屋から追い出して、苦労して股の蓋を外し、モリスがディルドーと呼んでいた銀の金属棒を抜き取った。
 軽装甲冑にマントの姿のまま帰り支度を進め、私はバルベロッテの妻たちやモリス一家と弟子を連れて都に戻った。

 私は城に戻ったところで全てを父上に報告した。
 私の身体のことも、目覚めさせられてしまった性癖のことも、すべて。
「父上、お願いがございます」
「此度大儀であった。何なりと申してみよ」
「バルベロッテ侯爵の妻達と鍛冶屋を城に引き取りたいのでございます」
「ふむ、まあ、部屋は足りるな。よいぞ」
「それと、廃止された城の地下牢を一つ私に下さいませ」
「そのようなもの、どうするつもりじゃ」
「先程申し上げた通りでございます…… えと、ちょっと私用で……」
「そ、そのようなことが…… ま、まあよい。 わしは娘に理解のある父でいたいからのぉ」
「もったいないお言葉。では早速5日ほどおいとまを頂きます」
「う、うむ。 あ、あ、あのな、母には話したのか?」
「アハ、きっと倒れちゃいますから、言ったらダメですよ父上」
「う、うむ」
 宮廷用ドレスのまま地下に下りて行く。
 ドレスの下はもちろん、あの甲冑の一部を着けている。
 手足の装甲と首輪が無いのが残念だが、ドレスでは仕方ない。
 城の地下牢の入り口が、場違いなほど艶(あで)やかな装いで埋まっている。
「あ、姫様! お待ちしておりました」
「ええっ? 全員揃っているのか?」
「はい、姫のおかげで私達皆、永らえることができました。感謝を込めて、全員で。」
 私の背中を冷や汗が流れる。
「さあ、姫様、ご準備を」
 私はゴクリと生唾を飲む。
 頭がボーッとなり、言われるままにドレスのリボンをその場に落とした。
 左右から華奢な手が何本も伸び、私のドレスを手際良く剥ぎ取って行く。
「ちょっとまて! やっぱり自分で脱ぐから!」
「だーめ」
「ああう」
 長靴下も靴も脱がされて、あっという間に全員の手で、奴隷甲冑だけの裸にされた。
 裸の私の前に、ズラリと妻達が並ぶ。
 皆手に手に金属の枷や鎖を持っている。
 うやうやしく一人ずつ進み出、私の手足に冷たい枷を嵌めて行く。
 私はもう興奮が止められない。

 首輪に鎖を繋がれ、きらびやかなドレスを着た妻達に囲まれた中で、只一人枷を嵌められた私は、牢の中へと引き立てられる。
 乳首と股間には、モリスに王家の紋章に交換させたピアスが揺れている。
 牢の中にはあの檻が……
 私の股間がどろどろと淫らな汁を吐く。
「姫様、陛下には何日と仰られたのですか?」
 心臓がきゅうっと絞まった。
 何気なくサラリと父上に申請した日数が、急に現実のものとなった。
「5日……って言っちゃった」
 言いながら真っ青になる私。
「やった! 姫様、5日間もぎっちり檻の中ですね? では私達、毎日交代でお邪魔します! 私達の番になったら、姫様にもいっぱいお手伝いいただけるように、今からたっぷりご奉仕しますね?」
「い、嫌! 別に5日全部檻の中なんて言ってな……ホゴア!」
 口枷嵌められたぁ!
 5日……
 全身鬱血の痺れの嵐を思い出す。
 そしてそれを通り越した先の、甘い甘い快感漬けの気持ち良さも。
 他人任せの食事、自分で始末出来ない排便。
 肉塊にされ、無限とも思える時間の中で、ただ快感だけを注入され続ける存在。
 そんな存在に、また、なれるんだ……
 性癖を知り尽くされた仲間の手で、イキ狂わされても許されるんだ……
  股間と胸を甲冑で拘束されたまま、沢山の華奢な手で檻に押し込まれ、枷を錠前で檻に固定されながら、私は期待の快感だけでもう逝きはじめていた。


(終)




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