檻姫
十三 奴隷剣士の日常
私は自由時間に書庫に入ることも出来るので、書物を沢山読ませてもらった。
そして、自分がいつも戦の最中に感じていた、戦闘中にふと心の澄み渡る瞬間があることについて、いくつかの書物からヒントを得た。
再び、私は素振りを始めた。
折角の良い剣なので、この手頃な重さを生かし、私の元来のスピードを添え、居合い中心とした技を幾つか考えた。
これなら乳首もあまり振れずに敵を倒すことができる。
動きにも、東洋の武術の技を取り入れ、無駄な上下動を極力抑え、流れるような水平移動で敵の懐に入ることを考えた。
かといってその道に詳しい師範が居るわけでもないので、せっせと自分で試す毎日だった。
そうしているうちに、生活にメリハリがついてきた。
昼間稽古をしているうちはあまり金属棒の影響を受けなくなった。
夜間は、恥ずかしい話だが、快感を貪りまくっている。
毎度どんなポーズで固定されるのか、鎧を着せられる瞬間がドキドキしてたまらなくなってしまったのだ。
もし今戦があって、この鎧を全部着るなら、私は快感のために立ち止まってしまい、もう戦えないだろう。
むしろ軽装のアーマーのみのほうが戦果が上がるはずだ。
ある日、城の裏手でいつもの如く稽古をしていると、軽装甲冑を着けた男が数人やってきた。
「これはこれは! 領主様の覚えも目出度い奴隷剣士殿ではござらぬか!」
全員ニヤニヤ笑っている。
「申し遅れました。私は親衛隊隊長、プロイツ=スークルード。いやなに、隊の者が申すには、随分お強くあられるそうで。お手合わせ願えれば幸甚」
私は手を横に振って、頭を下げて辞退した。
「これはこれは…… 奴隷のくせにお高くとまりやがって! グウの音も出ねぇほど打ち据えて、そのオッパイ揉みまくってやるから覚悟しろ!」
バルベロッテもこんなやつが親衛隊長とは、大したことないな。
上段に振りかぶる相手の剣より先に、やっとコツを掴んできたこの剣で、アーマーの胸部分を斜めに切り落とす。
あっけにとられ、振り下ろす速度の鈍った剣を、僅か下がってかわし、その上からこの剣ごと地面に叩き付けて半分に折った。
折れ飛んだ刃がプロイツの前髪をざっくり持って行った。
「ひいいーーー!!」
紙細工のように切り落とされたアーマーを見て真っ青になり、尻餅をつくプロイツ。
チャッと喉もとに剣を宛がうと、泣き出した。
「あわわ、わ、悪かった! すごい! 強い! たすけて!」
私が剣を引くと、そのまま隊の者達と逃げて行った。
これは仕返しが来るなと思っていたら、夕刻に城内へ引き上げる刹那に上から袋を被せられた。視界が狭いのでどういう状態にされているのかわからない。
乳房をしたたか揉まれた。ずっと女として快感を貪り続けているのに全くおかしな話だが、私は今まで自分が女だということを忘れていた。
ところが突然、乳房の痛みに悔しくなり、完全に女の子の気分でキレた。
「ンフーーッ!!」
袋の中で剣を抜きざまに切り開き、そこらじゅうのアーマーを手当たり次第にバラバラにした。
袋を払い、起き直って身構えると、昼間の奴らが全員真っ青になって尻餅をついていた。
「おた、おたすけ…… もうしねぇ…… あ、あんたすごいよ」
今度ばかりは懲りたろう。
怒りの弾みで、切り落とされたアーマーを更にズダンと真っ二つにしてからその場を去った。
また屈辱の排便と給餌。
しかしだんだん自分の居場所が掴めて来た。
これならバルベロッテの警護も充分役が果たせる。
明日からはなるべくバルベロッテの傍に居よう。
というか、もう殺せるぞ?
「ククク、随分と頼もしい噂を聞くようになったぞ、エッス。そろそろ近くで警護の任に着いてもらおうか」
私にとってもバルベロッテを殺すチャンスなので、素直に頷いた。
壁際に連れて行かれ、フルアーマーを着せられる。
え?夜でもないのに?
いや!
いやっ!
それを着せられたら……!
昼間からそんなもの着せないでぇ!!
折角、軽装の時は体内の棒の動きも影響されにくくなってきたのに、フルプレートを装着されられると、ずっと淫らな気分のままにされてしまう。
僅かな抵抗も虚しく、夜の淫夢に浸る姿にされてしまった。
剣もまた振るい難くなってしまったが、基本は変わらないのでなんとかなるだろう。
首輪に鎖を付けられ、犬のようにバルベロッテの傍らで立つことになった。
はふっ……
ハフッ……
もう、警護なんてどうでもいい……
ミシミシと締め付ける甲冑が、昼間っから気持ちいい。
乳首やクリトリスの麻布の刺激も手伝って、腰が勝手に動いてしまう。
傍らに立ちながら、時折ふらふらと腰が動いたり、ピクンと緊張したりを繰り返す私を横目で見て、バルベロッテは満足そうだった。
そうだ、これこそがバルベロッテの究極の目的。
檻で快感を覚えさせ、ピアスで快感を固定し、軽装の状態で私が奴隷甲冑に慣れるまで待ち、ついにフルアーマーで拘束する。
多少動くことも出来、それなりに警護の役にも立ち、女人を永久拘束して楽しむバルベロッテの趣味も満足させられる。
ある程度の戦闘力さえあれば、護衛としての実用性なんてどうでも良かったのだ。
うぶだった私を調教して快感を覚え込ませ、剣士としての腕も上げさせ、その上でこの世から金属板一枚隔てた拘束空間に私を閉じ込め、快感奴隷人形として傍に侍らせる。
見事に嵌められた。
そして思惑通りの奴隷剣士にさせられてしまった。
この国の王女が、この奴隷甲冑の中で、一日中快感漬けにされているとは、誰も想像すらしないだろう。
でも、気持ちいいから、もうこれでいいの。
貶められて、詰め込まれて、拘束されて初めて得られるこんな快感、誰も教えてくれなかったもん。
極上性能のフルプレートアーマーにぎちぎちに締め上げられて、超一級の剣を毎日振れて、剣士としても悪い気しないもん。
私はついにバルベロッテの正式な奴隷剣士となった。
数日が過ぎた。
昼間立ちっぱなしが多くなったので、夜は仰臥位の状態で、関節を固定されて寝かせてもらえるようになった。
『らひて…… らひてくらひゃい…… きもぢよすぎて…… きがくるっちゃう……』
夜中に決まって見る夢。
この奴隷甲冑を脱がして下さいとバルベロッテに懇願する夢。
口を封じられて喋れないはずなのに、メロメロのろれつで媚びるようにすがる。
実際、肌のかゆみなどで無性に脱がせてもらいたくなる時はある。
だが……
昼間から堂々と気をやっても咎められない仕事が他にあるだろうか?
しかも恥ずかしながら、歩きながらでもどわーんとイケてしまうのだ。
だからもう脱がせてもらおうなんて考えなくなってきている。
排泄と給餌の屈辱にはこの期に及んでも未だ慣れないが、きちんと腹が満たされるというのはいいものだ。
そしてこれでも一応、7日から10日には一度、最初に腰に着けられた甲冑以外は全部脱がせてもらい、風呂に入れてもらい、
髪と爪のケアをしてもらえる。その際、必ずバルベロッテの奥方の一人の慰み者になるという対価を払わねばならないが……これには参った。
みんな上手すぎだよう。
風呂の時、バルベロッテは必ず様子を見に来て、私が快感にラリラリ言っているのを確かめて満足するのだ。
もちろん、ラリラリの半分は本気だが、半分は演技だ。
完全に自我が壊れるほどの状態になれば、すべて呆けてまともな行動など取れなくなる。
今の私はまだまだ自我を温存している状態だ。
きっといつかバルベロッテを殺してやる。
月に3〜4回の入浴以外、この世から金属一枚隔てた空間に囚われて暮らす私。
月のものの期間数日だけはあの金属棒から解放されるが、当然そういう日は体調が悪いのでバルベロッテを殺す気分になどならない。
風呂で甲冑を脱がされる度に、すごい喪失感と不安感に襲われ、ギチギチに着せられると安心するようになってしまった私。
もう随分慣れた。
私の日常。
朝、関節の固定を解かれる音で目覚める、というよりドロ甘の夢心地からすこし正気に戻り、フルアーマーのまま枷に固定され、排泄と給餌。
私を見るバルベロッテの目も少し変わって来たような気がする。
油断ならぬ相手を調教する慎重な目から、愛しい所有物を見るような目に。
こうして私に関わる以外にも、あの地下室で妻達を入れ替わりに弄り回し、檻に詰め込んだり革の拘束衣を着せて楽しんでいるのだろうか。
きっと妻たちに対してもこんな目で見ているに違いない。
んぐ、んぐ、んぐ。
おお、今日の果物はまた珍しい風味だ。
おお、紅茶までくれるのか?
大サービスだな。
こういった馴れ合いが混じるのも、バルベロッテが私を完全に堕とし、手中に収めたと認識して、安心しているからだろう。
給餌が終わって、またバルベロッテの執務机の少し後ろで、控えて立つ。
今なら、本当に殺せる。
試しに殺気を放ち、剣を握ってみる。
このまま抜きざまに水平に振れば、甲冑すら両断する剣なれば、椅子ごとバルベロッテの首を飛ばせるだろう。
そして私は晴れて自由の身。
バルベロッテの死体から鍵を奪い、甲冑を脱ぎ、ピアスは王城に戻ってから切断するとして、下半身を戒める甲冑も脱ぎ去り、屈辱の排泄を強いてきた用便の筒を抜き去り、ずっと私を責めさいなんできた銀製の金属棒を抜き取り、もう快感に囚われることもない。
この領内にも私の顔を知るものが居よう。
事情を説明して、ドレスを纏い、他の者には咎めなど無いからと言って、堂々と王城に帰還しよう。
おめおめ帰れぬと思っていたが、まず帰還し、報告し、身の処し方は父に委ねよう。
それでいい。
そしてもし許されたのなら、その後はこんなギチギチで、ヌルヌルで、戒められ、貶められ、辱められ続けの生活とは無縁に暮らすのだ。
淡々とした日常で、好きな剣でも振るって。
そうだこの甲冑一式と、剣は土産に持ち帰ろう。
そして、グレンドルに自慢してやる。
おっと乳あては最初から着けておかねば目の毒かな、ははは。
は……
着たら……
着たら…… また淫らになる……
着せられた経緯を逆にたどると、この甲冑の性能をちゃんと出すには、下半身のあの甲冑部分が不可欠だ。しかもそれをちゃんと着るには、排泄の筒も、全部一式装着せねばならない。ピアスのこともあるので、固定用のリングも不可欠だ。結局、銀製の金属棒を入れないというだけで、あとは今と同じ姿になってしまう。
それにもし甲冑を全部脱いでしまったら、きっとまたあの喪失感の禁断症状に襲われる…… 一度覚えさせられてしまった、このドロ甘い快感の無い生活に、私は耐えられるだろうか。
バルベロッテを殺さなければ、全てが今のまま。
ぎちぎちながら気持ちいい日常。
好きな剣。
食事も結構好きになってきた。
儀礼や勉強ばかりの王女の生活より数倍面白い。
もともとそんな退屈さが嫌いで剣術を始め、戦に加わるようになったのだから。
殺せば、面倒が増え、楽しみが減るだけ。
バルベロッテを殺せない……
というか、いつでも殺せるから、とりあえず今のままでいいか。
どこでどう回路がすり替ったのか、『私のにせものがんばれ。バレたら私が王城に連れ戻される』という結論に達してしまった。
昼。
バルベロッテはもっぱら午前中しか執務しないので、午後から私は自由になる。
少しでも腕を戻すため、このフルアーマーのままひたすら剣を振るう。
少し飽きると城下に出て、あちこちの店を見て回る。
胸のでっぱりと鉄仮面の後から飛び出した長い髪のせいで女剣士だとわかり、私もすっかり有名人になってしまった。
外出に際し金子(きんす)をもらっているわけではないので、買い物を楽しむことは出来ないが、店の修理をしている店主を手伝ったり、カボチャが切れなくて困っているおかみさんを手伝ったりして、パンやら果物やらをもらうことがある。
それはそのまま帰ったらバルベロッテに渡し、夕飯に混ぜてもらえたりする。
たいていラッパ前に城に戻るのだが、モリスの店で武具を見ていると長居してしまい、城の方からラッパが聞こえてくることがある。
がちょん、がちょんと歩いて帰城。
排泄させてもらい、夕食。
おお、あれは豚の血の腸詰めではないか。えっ、剥いちゃうの? なるほど、腸の膜は給餌の管に詰まるかな。
おお、鴨だ鴨。
混ぜられると味は滅茶苦茶だろうが、栄養にはなりそうだ。
給餌が終わり、またしばらく傍で警護の任をしてから、いつもの場所に寝て、手足の関節を固定される。
今日も殺せたけど、殺さなかった。
この生活がつまんなくなるまで、これでいい。
今日はモリスの頼みで、城下の彼の店まで出向き、武具のデモンストレーションを手伝う。
領主おかかえの女剣士を見ようと、店の前は人だかりができた。
路上に武具を並べ、一つずつ私が試しに使う。
どれもこれも一級品だが、町剣士用に若干品質が落としてある。
だが結構高いな。
これでこの値段なら、私の剣など買えばいくらになるのだろう。
「エッス殿、実は甲冑の注文も入っているのですが受注分で手一杯故、見本が無いのです。其処にお見えの騎士殿に頑丈さをお見せしたいのですが…… 関節を留めさせて頂いても宜しいか? あと、売り上げに繋がりそうなポーズもお願いしたいのですが」
モリスには公私ともに世話になっているので快く引き受けたい…… が。
駄目っ、絶対に駄目!
モリスはこんな混んだ店先で私に気をやれというのか?
そもそも売り上げに繋がるポーズとはどうすれば良いのかわからない。
え?
ちょ、放せ!
あ、もう脚部の関節を留められた。
ポ、ポーズって、こんなの?
手を後ろに回し、胸を突き出し、上半身を少し捻り、首をかしげ……
ちょっと! やめてくれこんな少女っぽいポーズ!
それを甲冑で?!
正気かモリス!
こんなことされたら私がどうなるか知らない訳じゃないだろう!
折角店を手伝ってやったのにぃ!
この裏切り者ぉ!
結局、こんな甲冑姿の剣士なら絶対やらないようなポーズで関節を固定されてしまった。
少女ポーズの恥ずかしさから甲冑内で全身が火照り、即座に淫らな反応の連鎖が始まってしまった。
ふあっ……
こんなことさせてぇ、こんどお前の造った剣の先で、お尻をちくんとつついてやるからなぁ。
だめだ、強がりまでなんだか少女っぽい。
ああああああ、もう来ちゃった。
うあうあイク!
こんな店先で、こんなポーズでイクの嫌ああ!
「こちらでございます」
「む、何やら可愛らしいではないか。こんなもので戦の時役に立つのか?」
「お持ちの剣でお試しになられては?」
「良いのか? 見れば女剣士ではないか。大怪我をするぞ?」
「そんなヤワではございません」
「それでは、ほれ」
しゅりんと剣を抜く音がして、胸の辺りをコンコンと突く。
ああん!
そんな振動与えられたら!
「ンフーーーーッ!」
「むっ、何やら怪しい吐息。これではどうじゃ、ほれほれ」
いやっ!
くそっ!
動けないので好き勝手に剣でつつかれる。
無抵抗なポーズの私を、カンカンと切りつけて見たり突いてみたりする。
そのたび甲冑の振動がピリピリと敏感な部分に伝わる。
ああ、またイク!
「ンフーーーーッ!!」
「おおおお! なにやら艶めかしい雰囲気ぢゃああ!! それにしても素晴らしい甲冑ぢゃああ、全く傷一つつかん!店主! 是非この甲冑を仕立ててくれ! 部下の分も合わせて5着だ! ハァハァ!! ついでにこの者が着ている甲冑も買い取るぞ!」
「まいど。 しかしこの甲冑はだめでございます。こちら、バルベロッテ様お付きの奴隷剣士殿。本日はご本人と侯爵様の特別のおはからいにてお手伝い賜っております」
「うむむむ、ならば仕方ない。採寸よろしくな」
くそ! とんでもない奴だ。
しかし自ら甲冑を仕立てて参戦するのは大金持ち商人にしか出来ぬこと。
尊大なのも致し方なしか。
腹立たしい見世物からやっと解放された。
全部で4回も逝かされた!もうっ!
「エッス殿、いやもう大変助かりました。5着ですぞ5着! お礼と言っては何ですが、新しく心を込めて作りましたこのイボッイボでゴリッゴリのコブ8割増しの新型ディルドーを姫…もといエッス殿に! しかも金鍍金(きんめっき)でアソコの御粘膜にも優しい仕様ですぞ! 今夜にでも侯爵様にソレと入れ替え……」
バーーン!
鉄仮面の中で茹で蛸のように真っ赤になった私は、反射的に甲冑のままの手でモリスを店の奥まで張り飛ばしていた。
騒ぐ店の人混みを掻き分けて、そのまま城に戻った。
夕食の世話に来たモリスはいつも通り顔を布で覆っているが、頬から膏薬の匂いがプンプンする。
鉄仮面の中まで匂ってくるので相当なもんだろう。
ざまみろ。
イボッイボでゴッリゴリなんていりませんよーだ。
よーだ……
あうん。
なんか枷に嵌める動作が乱暴だなぁ、モリス自業自得だろ?