包まれたままの日常

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 キューーッと乳首がつままれて目が覚めた。

「はあああん! て!? ヤバ! 遅刻!!」

 跳ね起きて支度!と思ったが、全身メイド服着込んだままだったので、髪だけ整えて控え室に飛んで行った。
「おはようございます!」
「クリスさん、明日はもっと早くいらっしゃいね」
「すみません」
 あれ?
 あたし、なんか気分的にちょっと素直?

「もう黒板に掲示してありますので、ここで朝食を摂ったらすぐ始めて下さい。
「はい」

 控え室の大机にパンとスープの簡単な朝食が置いてあった。
 昨晩の味を想い出し、貪るように食べた。
「あらあら、そんなに急がなくとも逃げませんよ? もう少しおしとやかにね」
「もぐもぐ、ふぁい」

『クリス:2階の掃除と、できればベッドメイク』

 なるほど、前の日に見学したものを実践しろってことね。

 椅子に座るとヌチャッと肉座布団の上に座る感じがするし、ちょっと慣れたとはいえ指の感触が肉越しに物を掴んでるのが気色悪いけど、掃除くらいなら大丈夫でしょ。

 ぬめつく足裏のせいで、本当に全身ヘンな生き物に包み込まれてしまってることを実感しながら、ヌチヌチと2階へあがる。
 納戸から掃除用具を出し、端の部屋から掃除。

 ……ってったって、毎日来客があるわけじゃないから、昨日からそのままなんですけどね。

 でもホコリは溜まるので、まず毛ばたきで暖炉や壷、テーブル、燭台とホコリを落としてゆく。
 そして箒(ほうき)で床を掃く。
 簡単、簡単ー……ン
「ンーーーーー!!?」
 突然全身がしびれ、箒を取り落として、床に四つん這いになった。

 ええ?!
 乳首とお股の一部がキュンキュン締め上げられてる!

 マーサにお子様ってバカにされた通り、あたしは自分の身体のこと何も知らない。
 パパがあんなだから、どうしてもえっちなことには嫌悪感強くて、学校でちょっとマセてススんだ女子がペラペラまくしたてるようなヘンなことは、自分では一切してなかったから。
 どうせいつか結婚したら、嫌でも直面するんだし、そんな程度の興味しか無かったから。

「あはァ……」
 客間の床にドシャッと横倒しになってしまった。
 私がおかしくなってる間も、触手はその手を止めず、まるであたしに何かの手順を教えるように蠢(うごめ)く。

 いきなり乳首や股間を責めたのは最初の一瞬だけで、あとは細い触手が首筋や二の腕や太腿の一部をサワサワと軽く撫でるだけ。
 最初はこそばゆいと思っただけだったけど、触手に包まれた手袋や、ソックス部分の肌までも舌で舐め上げられるようなぬめりを感じると、急に気分が変わって来た。

「はふっ。はふっ」

 お股が熱い。

 何かがトロリと染み出して来る。

 でもそれは床を汚す前にどこだかに吸い取られてしまった。
 それがもしおしっこだったならば、粗相をしなくてすんだ、とちょっとホッとする。
 でもなんかおしっことはちょっと違う感じ。

「ひっ!」

 手の指の股、浅い水かきみたいなトコを舐められて、すごく感じる!
 こんなトコ、普段モノが触れたってこんなに感じることないのに。
 ああ、くるぶしすらこんなきもちいいなんて……

 20分くらいだろうか、触手の全身愛撫に悶えていたら、フッと刺激が止んだ。

「あれ?」

 でも立ち上がると身体が火照っていてフラフラする。
 箒にしがみつくようにして残りのゴミを掃き取り、その部屋の掃除を終えた。

「はあっ…… はあっ……」

 他に誰も居ないのをいいことに、犬のように舌を出して火照りをやりすごそうとするけど、大好きなケーキを端だけちょびっと舐めさせられたみたいな残念感がたまらなく悔しい。

 全然未経験のくせに、人間の本能として、もっと凄くイイことが待ってるはずってはっきりとわかる。
 でもどうしたらそれが得られるのかはさっぱりわからない。

 重い身体でのろのろとその部屋を出た。


 *****


 次の部屋でもまた掃除。

 ハタキでパタパタとホコリを取っていると、身体の中心部分、あの肉のビスチエで水着のように包まれた部分がゾワワっと蠢いた。

「ひあああああッ!!」

 肌の表面を、まるでネオンサインのように、前は股の辺りから、後ろはお尻の丸みの下あたりから、100本の筆を横一列に並べて撫で上げたような感覚。

 それはあたしの肌を本当に繊細に、触れるか触れないかくらいの筆圧で移動してゆく。

 丸ノコで輪切りにされてゆく太い材木のように、おっぱいの周囲もその輪郭をそのままなぞりながら撫で上げられる。

 それが一度ならず、二度三度と、波状に次々撫で上げ、そのこそばゆさに身を捩(よじ)りながらも、妙(たえ)なる性感の吟線をつまびかれてしまう。

「はふッ…… もっと……」

 撫で上げられているのはビスチエ部分なので、背中は半分まで、前は乳首をぎりぎり覆う辺りまでだ。
 肩口や胸元が撫で上げられないのが恨めしい。

 またお股がドロドロしてきた。
 もうはっきりおしっこじゃないってわかる。
 耳年増の級友が言っていた愛液ってヤツだ。
 あたし、エッチな気分になってるんだ。

 ぜんぜんいじられてもいない、お腹の奥の奥がキュウウンと切なくなりはじめた。
 触手も届いてないはずなのに、なんで?

「ハァ……ハァ…… なんとかして……」

 でもその部屋ではもう何も起きなかった。

 また箒にしがみつくように床をざっと掃いて、次の部屋へ向かった。


 *****


 次の部屋の扉に手を掛ける。
 ちょっとまってよ。
 あたしなんで素直に掃除続けてんの?

 これってぜったいおかしいよ!
 あのキンバリーメイド長に言ってなんとかしてもらえばいいんじゃない?

 でもそう考えてる間も、動いてはいないけど、全身を触手の肉洋服に包まれているのを感じてる。
 最初あれだけ嫌悪していた気色悪さはもうなくて、巨大な自分の舌で自分の全身の肉体をねぶっているような愛(いと)おしさを感じ始めている。

 そして、偶然かもしれないけど、部屋を掃除するごとに新たな快感に全身が炙られた。

 このまま次の部屋に進めば……

 扉のノブを握る手にじっとり汗が滲む。

 あたし…… 気味悪い蠢く肉にこのまま弄(いじ)られ続けたい……の?

 でもこの気持ちの昂ぶりの結末を見ずに、このまま終わるのは残念すぎる……

「はあッ…… はあッ……」

 魔物が居るとわかっている洞窟に入るような気分で、思い切って扉を開けた。


 *****


 いつ、何をされるか、ビクビクしながらハタキを使う。

「……」

 身体の火照りは少しずつではあるが、収まってきている。
 このままこの部屋以降何事も無ければ、きっと普通に戻るのだろう。

「……」

 あれ?
 もう箒の出番になっちゃった。

 ……あたし……期待してる?

 でも結局何も起こらず、その部屋を出た。


 *****


 ちょっと気になって手袋のままニーソックスに触れる。
 やっぱり手の指も太腿も、ミチミチと肉に包まれたままの感触がある。

 そうだ、昨日の夜寝る前に行ってから今までトイレしてないよ。
 名残り惜しげに部屋を出て、一旦控え室に戻る。

 ――ニッチ――
 ――ミッチ――

 ヌルヌルのお股に、ツブツブの肉が摺れて、歩くたびにヘンに気持ちいいよう……
 今この肉の服が特別な動きをしたら、きっと頭が変ななる。

 でも結局移動中も触手は動かなかった。
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