咽頭拡張

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「クリス! 遅いわよ! ご主人様がお呼びよ?」
「うへぇ、でもお遣いだったんですよぉ?」
「いいから早く下の『寝室』へ」
「こ、こんな真昼間っから?」
「早くなさい」
「うへぇ…… あ、メイド長様、まちがいがあるといけないので、この伝票とお金お願い」
「わかったわ。『おねがいします』って言えたらね」
「おねがいしまーす」
「ま、いいでしょう。お急ぎなさい」

 外套をしまって、すぐに地下室へ向かった。


「ハァハァ…… お遣い、行ってきましたよ」
「ああ、御苦労だったね。ここへ座りなさい。おしおきだ」
「へ? ちょ! ヒイッ!! ななな何で? あたし全部ちゃんとやりましたぁ! おつりだってメイド長に……」
「ああそんなのどうでもよいのだよ。1週間も経つのに私のを喉まで入れられないことへのおしおきだ」
「いあああああ! 彫像いやああ!!」
「フフフ、あれはまだクリスには早いよ。安心しなさい」
「ええ?」
「ベッキイのお尻の穴の拡がりをみたかい?」
「あ! ああ……」
「喉だってそうだよ」
「ああ……」

「さあ、この椅子に座りなさい。ちょっとずつでもベッキイに近付けるようにね」
「あ! あたしっ! あんなになんてなりたくないっ!!」
「もうバレているんだよ、わかるだろう? それとも私の口から言うかね?」
「ああ……」
 あたしは諦めたようにドスンと椅子に座った。
 この椅子はいつもご主人様が座っている椅子だ。
「私はまだ仕事が残っているので上に戻るが、がんばりなさい」
「うう……」

 じめっとした地下室にあたしだけが残された。
 もう何もかもバレてるらしいので、ちょっと緊張しながら待ってると、裾と肩口から細い触手がピュルピュルと出てきた。
「ひッ!」
 裾の触手は足を左右揃えるように密着させ、肩の触手は両腕を椅子の背もたれを乗り越える形で後ろ手に合わせ、更に肘同士がくっつく位ギリギリと密着させた。
「あうっ! もうちょっと緩くたって逃げないってばぁ」
 聞こえちゃいるんだろうけど、赦す気はないようだ。
 手足の触手が、ソックス同士グローブ同士融合して、足を揃えたまま後ろ手に拘束されてしまった。
 二の腕から先は背もたれの向こうに出ているため、背中は背もたれに密着し、少々暴れても椅子からずり落ちる心配はない。

 次に首周りからザワザワと触手が伸びてきて、目の前でお面の形になった。
「なにそれ。それでチッソクでもさせようっての?」
 更に口の内側がザワザワと盛り上がり、ギュルルンと捩じれておちんちんの形になった。
「ふん、そんなことしたって、いやよそれ。しゃぶんないから。だいいち喉までなんて入んないもん」

 目の前でジリジリと触手があたしの心変わりを待つ。
 あたしは意地でもつっぱねるつもりで構える。
 その時、戸が開いた。

「おっ、やってるねクリス」
「マーサ!!」
「ついに受け容れるんだ?」
「い、いやに決まってるでしょ、バカ」
「ふーん、聞いたよ? ベッキイ見て濡らしたんだって?」
 あたしは真っ赤になった。
「ちが!」
「ああなりたいんだ」
「ちがう! ちがう! ちがーーう!!」
「あたしが見ててやるから、ほら、呑み込みなよ」
「ひどい! マーサってば、あたしをベッキイみたく彫像にしたいの?」

『アハハそんなわけないじゃん。単におしおきのお手伝いだよーん』

 てな反論を期待したのに、マーサは真っ赤になって、目を潤ませて、黙っちゃった。

 ―― ゾクゾクゾク!! ――

 その反応に、あたしは正体不明の戦慄に襲われた。
 そしてそれはすぐさま自分の心の再確認へと繋がった。

 あのベッキイのことを考えると脳がグラグラ煮えるようだ。
 滅茶苦茶にされてしまう自分を望んでいる…… のかも。

 目の前の擬似ペニスが、その滅茶苦茶の象徴に見える。
 あの先の尖りが、喉の奥まで……入る……の?
 ヌラヌラと得体の知れない粘液で濡れ光るグロテスクなそれが喉いっぱいに密着するさまを想像する。
 口から喉までを滅茶苦茶にされちゃう……

「口、あけなよ」

 おごそかに、やさしく、でも拒むことを許さぬ口調でマーサが言った。

 もうマーサはいつもあたしを手伝ってくれる時の表情に戻ってた。



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