処刑

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 マーサは、いつか全頭マスクの時に喉まで咥えさせられたようなペニス状の触手口枷を取り出した。

「なにそれ!」
「全頭マスクよりいいだろ? ていうか、皆に顔が見えないとつまんないよな」
「い、いやぁ……」
 おずおずと開いた、あたしの口にねじ込んだ。

「ンオオオオーー?」

 抗議の声を上げるが、それはもう既に言葉にはなっていなかった。

 全てがその事を成就しに向かっているかのように、あたしのメイド服から細い触手が伸びて両手を後ろ手に拘束した。

「ンンーーー!!」

 襟元からリードのような触手がダラリと垂れ、その端をマーサが掴む。
 まるで刑場へ向かう罪人のように惨めな姿で、首に繋がった紐を曳かれて、引き立てられてゆく。

 控え室から出ると廊下にみんな集まっていた。
 廊下の左右に並び、惨めに曳かれるあたしを見送る。
 ベッキイの時でさえ、こんな惨めな儀式は無かったのに……
 でも濡れる股間が止まらない。
 興奮の涙で周囲が霞みそう。

 でも、みんな蔑んだ目で見てるわけじゃない。

 羨望。
 共感。
 興奮。

 どれでもいいよ。みんなあたしに感じてくれるなら。


 地下へはマーサだけが付き添う。

 地下に下りると、あの地下牢の扉が1つ大きく開いていた。
 その中はあたしが最初に想像した様子と全然違っていた。
 冷たい石牢ではなく、真っ赤な肉に全面満たされた、グロテスクな肉牢。
 饐えた臭いを放ち、既に身体に馴染んだ触手服の気色悪さなんか比較にならない程の、不気味な粘液に覆われた剥き出しの内臓。

 粘液の一部に黄色味を帯びた樹液などや、骨のような構造も混ざって見え、およそ生物が作り出せる物ならば何でも自在に合成し、目的のための部品を生産する生体工場にも見えた。

「じっくり中見たの初めてだ…… 生物ってすごいよな。ただブヨブヨするだけじゃなく、歯や骨、甲虫の殻みたいに固いものや、樹液、樹脂みたいなものまで作れちゃうんだから。ゴムだって南洋の木の樹液だしさ」
「ンンンーーーーー!!!!」
 恐ろしさに首を振る。
「クリス、どうなっちゃうんだろうね。ゴム人形にされる、っていうのもアリかもよ」
 マーサの目は、あの壷をたたき落とした時と同じ目に戻っていた。

 うわあん! こんなことならキスなんてするんじゃなかったぁ!

「入って」
 マーサの声が、興奮で震えてる。

 溢れる涙を振り払って、あたしは改造されるためにその肉の床を踏んだ。


 *****


 鉄の扉の裏までビッシリ肉に覆われた入口が閉められると、体温以上の熱と、耐えがたい湿気、そして異臭に満ちた肉空間に閉じ込められた。

 内部はホタルのような灯りでほんのりと物の形や天地が把握できる適度には明るい。
 でも緑色っぽい淡い色のおかげで、細部や色まではわからず、しかも肉色の赤がもっと汚い灰色に見えて気色悪い。

 ギュプッと音がしたかと思ったら、もともと無音な地下室の更に肉牢の中は防音の実験室のように静かになった。

 ……入口の肉が融合して、完全に閉じ込められた……

 あたしの呼吸音すら吸い取られてしまいそうな肉の壁の中で、自分の心臓の音だけがドクンドクンと自分の耳に響く。

 ―― ドクン ドクン ――
 ―― ドクン ドクン ――

 その音に別の心音が重なる。
 もっと野太くて低い音だ。
 きっとこの部屋の触手の心臓か何かの音。


 全てがシンクロするように、いままでたっぷり馴染んだ触手服が融け、ビスチエを残して手足も全て丸裸になった。
 辛うじて身体を包むビスチエと頭のブリムだけが載っている。
 靴はソックスが融ける時にどっかへ行ってしまった。

 天地のわかりにくいこの肉の塊の中で、周囲から数本の触手が伸びて来た。
 それに掴まれ、 後ろ手に再度拘束され、ぐるりんとひっくり返された。
 背中を半分床側につけてお尻を高く上げ、足を膝から先、顔の左右に広げたポーズを取らされた。
 薄明かりの中で、天井方向へ高々と突き出した自分の下半身と、まだ紫色の触手ビスチエで覆われている性器が見えた。
 おっぱいは顎のすぐ前だ。

「ンンンーー!!」

 まだ口枷を喉まで差し込まれているので、声も出せず、息が苦しい。

 やがて喉の奥がドロドロしはじめ、咳が出そうにむせた。
 今、咳なんてしたら……
「ン……ン……ン……」
 ギリギリ咳を抑え込んだところで、ゴクンと何かを飲まされた。
「ン!ン!ン!ン!ン!」
 食べ物がのどにつかえた時のように、胸がきつくなり、目が白黒する。
「ン!ン!ン!ン!ン!」
 これってまさか、触手の先端を飲まされてるの?
「ン!ン!ン!ン!ン!」
 もう気を失いそうになったところで、ストンと胃に落ちた感じがして楽になった。
 しかし食道を何かが占領してる感じは消えない。

 そしたら少し胃が痛くなって、お腹が張った感じがしはじめた。

 ……通されてる!!
 あたし、口から触手通されてるよ!!

 そっちはしばらく無感覚になったなと思ったら、今度は鼻に異変が生じた。
 喉が鍛えられていて、この程度の筒を飲まされても脇から呼吸できてるけど、今度は両鼻が塞がれた。
「ン!!!」
 さすがにこれは死んじゃう!
 と思ったら、鼻の奥から鼻水が喉へ落ちるような感じがして、それが喉を通り、勝手に呑み込まれてゆく。

「ンーーーーーーー!! …………!!?」

 恐怖に喉で叫んでいたら、声が出なくなった。

 ―― シューーツ!! ――

 突然、鼻から楽に呼吸できるようになったが、もう叫び声も何も出ない。

 ―― シューーツ!! ――
 ―― シューーツ!! ――

 わけもわからず恐怖で続けざまに叫ぶけど、ただ肺から鼻へ直接空気が出入りする音がするだけ。

 真っ青になり、恐怖に震えていると、突然うんちしたくなった。
 お尻に栓されてるのに、ありえない!
 そしたら完全に待ったなしでものすごい排泄感に襲われ、腸の中身がお尻から気持ち良く排泄された。

 ―― シューーツ!! ――

 『ああん!』て叫んでるんだけど、全く音にすらならない。

 次の瞬間、顔に何かボトリと降って来た。

 ―― シューーツ!! ――

 ギャーーーッ!! 心で叫ぶ。

 そらそうだ。
 この姿勢で排泄したら……

 でも良く見ると、降って来たのはお尻にいつも嵌められていた触手ペニスで、汚物は一切ついていなかった。
 そして不思議なことに、お尻の拡張感が消えない……

 う、うそ……
 ついに、口からお尻まで繋げられちゃったの?
 ついに口からお尻まで繋がって、用済みになった栓が押し出されたんだ!

 そして、薄明かりに目を凝らすと、触手ビスチエがだんだん透明化しはじめていた。
 身体に纏わりつく感じは変わらないから、乳首やクリトリスに巻き付いた触手、尿道や膣に入っている触手の配置や機能は全くそのままなのだろう。
 もともとそうやって全身管理されていたから、こんな惨めな晒し物になるとしても、その機能は変わらないんだ。
 てか、日常の中でそこまで管理されっぱなしだったあたしって……

 …… そろそろポーズ変えてくれないとちょっと苦しい……

 …… ま、まさかこの姿のまま固める気ッ!!??

 ちょ、いやあああ!!

 ―― シューーツ!! ――
 ―― シューーツ!! ――
 ―― シューーツ!! ――
 ―― シューーツ!! ――
 ―― シューーツ!! ――
 ―― シューーツ!! ――

 肉牢の中で、滅茶苦茶に暴れる。

 そんな!

 ベッキイはえっちだったけど、綺麗だった!
 せめて芸術的なポーズにしてよ!
 こ、こんな姿で、どこに飾るっていうのよぅ!!

 ……花瓶……?
 花瓶の代りにする気……?
 お!
 お尻の穴を!!!

 ―― シューーツ!! ――
 ―― シューーツ!! ――
 ―― シューーツ!! ――
 ―― シューーツ!! ――
 ―― シューーツ!! ――

 ろ!

 廊下だよ!

 皆が毎日通る!

 うそでしょ?

 いやああああ!!


 あたしが暴れ始めると、さらに数本の触手が伸びてきて、完全に固縛された。

 涙が溢れ続けてる左右の目に、それぞれ透明なキャップが被せられ、涙はそのなかに一時的に溜まるけど、キャップ自体か見えない触手が繋がってるのか、すぐに消えた。
 でも、数秒後にその行き先がはっきりわかった。
 目から鼻へ抜けてる自分自身の涙鼻管を通って、鼻へ落ち、それがそのまま喉へ落ち、自分でゴクンと飲むことになるんだ。
 触手でコーティングされている気道や食道の内側なので、実際の胃へ落ちるし、失敗すれば肺に流れ込む。

 なんて惨めな仕掛け。
 泣いても苦しむんだ。

 諦めたように脱力すると、今度は目の前の性器からトローッと何か垂れて来た。
 触手で覆われてるのに、何で?と思ったら、それはビスチエの一部が管状に変化したものだった。
 口の脇にプスッと接続されると、先端が開いて、何かが口に流れ込んで来た。

 ……おつゆだ!

 お○んこのおつゆだ!

 愛液ってやつだ!

 うわ。るぷっ! こんらにいっぱい…… あたしが濡らしてるの……?

 みじめだよう!
 飲みたくなければ、濡らすな、ってこと?

 もうその思考だけでとろとろと口に溢れて来る。

 すごいことされてる。

 最後に耳にゾクっと触手を差し込まれ、本当に自分の心音しか聞こえない世界に閉じ込められると、周囲が黄色く満たされて来た。

 ああ…… 本当に固められちゃう……

 薄明かりが歪むように見えるのは、もう涙のせいだけじゃない。
 もっと視界が黄色に染まってきて、髪の毛がまとまりなく漂うのを感じた。
 出してもらう時、髪の毛どうなるんだろう。

 出してもらう……って、いつ?

 足と手を押さえこんでた触手がするりと抜けたけど、もうあたしの力では手足をピクリとも動かすことは出来なかった。

 ぐぶっ。
 あたし、濡らしすぎ……

 でも、今なら手なんて使わないでイケそう……

 目の前でホルマリン漬けの展示物のように開かれた自分の性器を見つめて、このまま他人に直視される羞恥を想像し、目の裏に星が飛んだ。

 ……っ イク!!
 いきなり!!

 暴れそうにひきつけてるのに、ピクリとも動けない惨めさと恐怖がフィードバックされ、その被虐感でまた脳が弾けた。

 ッああああああああ!!!

 意識が途切れた。
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