あの子に貞操帯

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  3 ジム通い  


 3 ジム通い

 翌日、学校で会うと小竹原は思ったより素っ気なかった。
 それはまぁ、そうだろう。
 本意でなかろうと、仮にも『奴隷になるよ』と言った相手が俺じゃぁ、彼氏としても不自然すぎる。
 俺は自分の欲望が暴走したあとの惨めさも良く知っているし、そのあとの後味の悪さも知っているつもりなので、こういうとき妙に慎重で謙虚なのだ。

 なんてことない一日が過ぎ、小竹原に声も掛けられなかったのを不審に思いながら、校門を出た。
 やっぱりあの時だけの口から出任せで、俺が学校で口外する気配がないのを確認したら、あとはもうどうでもいいのかも知れない。
 また、反撃して先に俺を潰す気なら、今日のうちに先回りしてあることないこと言いふらせば、俺の言うことよりも小竹原の言うことの方をクラスのみんなは信じるだろう。

 校門を出てしばらく歩いたところで呼び止められた。
「神山くん!」
 振り返ると小竹原がいた。
「小竹原さん」
「いやーごめんね、やっぱり教室ではいきなりベタベタするのヘンだから、声かけづらくって…… あたしのこといちいち監視してるイヤな女子もいるしね」
「人気者も大変だね」
「ほんと、男に生まれたかったな。もっとサバサバ生きたいよ。 ね、例の物、持ってきてるよね? 行こっ!」
「あ、うん……」

 小竹原と連れ立って駅の方へ向かう。
 駅を通ると同級生たちに見られる心配があったが、駅までは行かず、途中の高級マンションへと入った。
 豪華なエレベーターに乗り、小竹原がカードキーを差し込むと、自動的に最上階へと向かった。
 ドアが開いて目の前に現れたのは、およそ俺の日常からは想像できない、上流の空間。
 それこそ映画とかで、大金持ちの住まいのシーンとして見たことがあるような空間だ。
 人の少ない寂しい感じが異様だが、暗めの照明が高級感を醸し出し、広く取られたスペースはまるで貸切のような錯覚を覚える。
 受付の女性も美人で、少ない人数のためだけにずっとここに座っているのだとすれば、このクラブの会費の高さが想像できる。

 小竹原と受付でチェックインを済ませ、男女の更衣室にそれぞれ分かれて入る。
 更衣室も高級な内装で、上質なタオルがふんだんに置かれていて驚かされる。
 上をTシャツ、下をジャージに着替え、更衣室を出た。
 ほぼ同時に女子更衣室から、上がTシャツ、下がスパッツ姿の小竹原が出てきた。
「あたし泳ぎメインなんだけど、軽くランニングしてからの方が好きなんだ。神山くんもランニングだったら出来るでしょ?」
「うん」
 ランニングマシーンに小竹原と隣同士それぞれ乗り、センサーを取り付けて負荷プログラムをセットする。
「べつに体育の授業じゃないんだから、超軽めでいいよね」
「うん」
 小竹原が横から手を出して、俺のマシンのパネルを操作する。
「はい、スタート」
 動き出したベルトの上で、飼われているネズミのように機械的に足を動かす。
 俺一人なら絶対にやらないようなバカげた運動だ。
 しかし、今は小竹原が一緒なので、何でもやれそうな気がする。

 ペースを表すLEDの点滅に合わせて走っていると、なんとなく体が軽く感じるようになってきた。
 調子が出てきたところで負荷がきつくなり、長く続く上り坂を駆け上がっている感じになる。
 肺から出る息が黄色くなりそうなほどきつくなったところで、今度は緩い下り坂へと負荷が変わる。

 隣を見ると小竹原が真剣な表情で汗を垂らしている。
 きっと俺よりハードなメニューなんだろう。
 小竹原の全身から吹き出た汗でTシャツはぴったりと張り付き、形良く突き出た胸がリズミカルに上下するのがよくわかる。
 しかも下に着ている競泳水着の蛍光色がはっきりと浮き出ていて、その水着のラインがそのままスパッツに吸い込まれているのが実に艶めかしい。
 いずれはあの腰に…… スポーツタイプの貞操帯が食い込むのか……
 つるんと落ちたスリムな下腹部に、南京錠の突起が2つ縦に並んで浮き出るのか……
 半ば現実になりつつある俺の妄想は、本当に実現するという実感についてはまだまだ希薄だった。

 小竹原に見とれているうちに、俺のマシンのランニングプログラムも終盤となり、やがて止まった。
 小竹原はまだプログラムが続いている。
「お先ィ…… ハァ…… ハァ……」
 俺はセンサーを外し、マシンを降りた。
「フウッ…… フウッ…… ごめーん、あたしはもうちょっとだから…… フウッ…… フウッ……」
 小竹原もランニングを続けながら、激しい呼吸の中で答える。

 俺はまだ息が切れていて、マシンの横にあるベンチでひと休みした。
 ふと小竹原の姿が、マシンの命ずるままに走らされているように見えてきて、ヤバいことにチソコが勃ってきた。 
 小竹原は正面からの俺のいやらしい視線に気付いたらしく、汗みずくになりながら鼻にシワを寄せてアッカンベーをした。

 萌え死ぬ!
 どこが男子っぽいだよ!
 細かい動作がいちいち意外性を含んでいて、そしていちいちエロい。
 そしてこんなアニメかエロゲーにしか出てこないようなシーンを、素でさらりと自然にやってのける女子がいることに驚いた。

 俺がアッカンベーに見とれていると、小竹原もプログラムが終わったらしく、マシンを止めて汗を拭きながらこっちへ来た。
「ハァ…… ハァ…… ……エッチ」
「ごめん」
「ねぇ、泳がない?」
「俺、水着無いし」
「フロントで安く買えるよ」
「うん、じゃぁ行って来る」
「先に行ってるね」
 水泳も苦手だが、正直あのTシャツに浮き出た競泳水着のラインに惹かれた。
 ここまで誘われて、あれを拝まない手はないだろう。

 フロントに行くと、水着1200円、ゴーグル500円だったので両方買った。
 ハードに泳ぐ予定でもなく、股間のモッコリを見られて困るほど人がいるわけでもないので、サポーターは買わなかった。
 更衣室で着替えてプールに出ると、屋上の構造をうまく使った、天井までガラス張りの豪華なプールで、気合入れて泳ぐことも、プールサイドでゆったりくつろぐこともできる仕様だった。
 キャップは必須だが、これはその場で貸してくれる。

 小竹原は早速泳いでいた。
 力の入らない優雅なフォームで、パシャン、パシャン、と数回水音を立て、あっという間に25mを泳ぎ切る。
 餌を探る水鳥のように、きらめく水の膜をまとった美しいお尻が、つるんと水面直下で回転してターンを終える。
 そのままトーンと蹴伸びして水中を進み、浮き上がってまたパシャン、パシャン、と優雅に対岸へ。
 学校での小竹原の厚手のスクール水着もいいが、このバックが大きく開いて超ハイレグの競泳水着の破壊的エロさにはかなわない。
 性格やプロポーションその他、人間としての質が俺なんかとは根本的に違うのだと見せつけられているようだ。
 そんな子が俺に貞操帯嵌めてもいいと言うなんて……
 やはり、あれは成り行きで言っただけだろう。
 しかし成り行きとはいえ、こんな所で水着でデート出来るんだから、もう成り行き大歓迎だ。



 しばらく泳いだところで小竹原はプールサイドに上がってきた。
「泳げば? きもちいいよ」
「苦手で」
「じゃ、バックは? 浮いてるだけでいいじゃない」
「うん、やってみるか」
 ゴーグルをして水に入り、仰向けに浮く。
「こうやって掻いてみて」
 プールサイドから身ぶりをする小竹原の姿がゴーグルに歪んで映る。
 泳ぐ時はキャップしていたけど、今はキャップを外していて、彼女のロングヘアがそれはそれは美しく競泳水着にまとわりついている。
 ゴーグルの視界を通してすらそのエロさが伝わってくる。

 小竹原の言う通りのフォームで何回かゆっくりと掻く。
 顔を振っていたら耳に水が入って、ちょっと聞こえづらくなった。
 ゴボゴボとくぐもった水の濁音が支配する世界の中で、小竹原がしきりに何か言っている。
 突然小竹原の表情が歪んだかと思ったら、思い切り頭を殴られて、目から火花が出た。
 俺はプールの内壁に頭から激突したのだ。
 おーいて。

 立ち上がって見ると小竹原が腹を抱えて笑っている。
 ほとんど裸のような、極薄の競泳水着に包まれた弾けるように張りのある体を、無造作にくねらせてヒクヒクと笑う。
 脇の梯子からプールサイドに上がり、ちょっとむくれて言った。
「そんなに笑わなくてもいいじゃん」
「アッハッハ、ごめん、普通手が先にぶつかるんだけど、頭直撃っていうのがおかしくて……」
「ちぇっ」
「でも神山くんも、なんだかんだ言って色々とできるじゃない」
「まぁ、最初めんどくさいと思うだけで、動機があれば何でも試してみるのは嫌いじゃないからね」
「へー、あたしそんなヒト好きだなぁ」
 俺はギクリとしたが、初心に帰って心まで小竹原に入れ込まないように戒める。
「悪いけどあたしもう少し泳ぎ込んでくるから、神山くんも適当に泳いでてよ」
「ああ、どうぞ。俺バック気に入ったかも」

 神山はコースロープの張られた区画に行って、またさっきと同じように泳ぎはじめた。
 俺はせっかくだから背泳に慣れようと思い、タラタラとしたペースでゆっくり泳いだ。
 今度は天井の模様とサイドの様子を気にしながらだから激突はしない。

 俺はパシャパシャと泳ぎながら、あの小竹原の競泳水着の下に貞操帯が装着された様子を想像した。
 蛍光色の薄い生地の下、下腹部にポコポコと浮き出る2つの円盤型の部品。
 それは貞操帯をロックする南京錠をボルトカッターやノコギリなどの破壊工具で壊されないようにするためのプロテクターだ。
 臍寄りの1つは貞操帯本体をロックする南京錠で、やや下のもう一つは自慰防止板と呼ばれる短冊状の部品をロックするための物だ。

 現代の貞操帯には2つの大きな機能がある。
 1つは文字通り貞操を守りまたは守らせるための機能。
 これを実現させるためには装着者女性の性器への男性器の侵入を防止すればいいわけで、特に厳重に穴を塞がなくても、周囲に内向きのトゲを植えたり、性器の露出する幅を縦の細長い穴にするだけで用が済む。
 最もポピュラーなのが、女性器を縦スリットのついた金属板で覆い、そのスリットから陰唇を絞り出すものだ。

 しかし、もう1つの大きな機能、すなわち自慰防止・快感剥奪ということを実現するためには、穴やスリットだけでは役不足だ。
 性器をいじって快感を得られそうな道具、指・綿棒・コヨリ等が侵入できないように、また侵入しても快感を得る操作まで至らないようにしなくてはならない。
 そのための工夫が各社あるが、通常はスリットから絞り出した陰唇を自慰防止板という部品で覆い隠して2つめの機能を実現してい
 だから鍵が2つ。

 最初から自慰防止板が溶接されているものや、別の工夫で自慰防止を実現しているものもあるが、俺の趣味としてはこの2つの鍵を使う方法が好きだ。
 貞操帯本体の固定は、滅多に外さない鍵で。
 オナニーの許可は別鍵で、というのに萌える。

 泳ぎながら妄想していたら激しくチソコが勃ってきて、サポーターを穿いていない競パンからはみ出しそうになったので焦って立ち上がった。
 プールサイドに上がったら、リクライニングチェアに小竹原が寝そべっていた。
「だいぶサマになってきたわよ」
「おかげさまで」
「今日はそろそろ帰ろうか」
「うん」
 気が付けばガラス張りのプールの天井は夜の星やネオンを映し、日はとっぷりと暮れていた。

 更衣室を出たラウンジで、濡れた髪を気にしながらタダで飲み放題のスポーツドリンクに喉を鳴らしていると、髪まできっちり乾かしていつものように束ねた小竹原が来た。
「おまたせ。あ、ちょっと飲ませて」
 ストロー付きボトルまで無料でくれるんだから自分のを頼めばいいのに、小竹原は俺のボトルをひょいと取り上げて、俺が口をつけてたストローを躊躇なく咥え、ゴクゴクと飲んだ。
「あ!」
 その行為を目で追う俺に、小竹原は屈託なく笑った。
「へーきよぉ、あたしビョーキなんて無いよ?」

 いやそうじゃなくて。
 俺と間接キスでいいのか?
 コップの飲み口なんかより遥かに唾液混ざる率高いストローで。

 すでに俺の唾液は小竹原の口の中。
 そしてこのストローを口に含めば小竹原の唾液が俺の口へ……
「いや、べつにいいけどさ」
 俺は何も気にしないそぶりでストローを口に含んでゴクリと飲んだ。
 なんだかさっきよりも甘い気がした。

 晩のオカズはもちろん小竹原の水着姿。
 そしてそこに貞操帯のロック部が浮き出たという妄想。

 今の時点でもすでに充分欲望が満たされてしまっているような気分だが、あのプールでの妄想を現実のものとするため頑張ろう。
 まずは計測だ。

 以前調べておいた女性用スポーツタイプ貞操帯の計測法の資料データを引っ張り出し、プリントアウトする。
 自作の計測キットで測る方法も書かれているので、それに従ってキットを作る。
 ちょうど家に梱包用のppテープがあったので、記事に従って組み上げた。

 あとはどうやって測るかだ。
 小竹原にこれと記入用紙を渡して『測って来い』と言えば、多少なりとも知識のある小竹原のことだから自力で測って来るだろう。
 でもそれではヌルい気がするし、貞操帯の記事に出てくる、”両手を頭の後ろで組んだ計測のポーズ”を小竹原にやらせてみたい。

 明日学校でキッチリ命令してやろう。


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