檻姫

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  七 革拘束人形  

「では、姫様もお約束をお守り下さいますよう。しかしその状態からいきなり剣士として働くのはお辛いでしょうから、徐々に慣れて頂きましょう。我が城のことなども知って頂かねばなりませぬ故」
 バルベロッテは私の中に再び金属棒を押し込むと、股間を塞ぐ金属棒を戻して腰ベルトに施錠し、男達に何か言いつけて地下牢を出て行った。男達は檻の鍵と私の手足の鍵を外し、檻の戸を大きく跳ね上げ、檻を石台に載せたまま、檻の中から私を抱え出した。
 冷たい牢の床に横倒しに転がされたまま、手足が固まっていて全く動かせない。男達は、私の手足をさすったり叩いたりしながら、全く無感覚の私の身体を勝手に引っ張り伸ばした。そのまま手足を持ってふわりと近くまで移動させられ、敷物の上に寝かされた。
 男達はその敷物を丸めて私を包もうとする。気付くと、それは敷物などではなく、あの城の広場で見た娘が、最後に押し込まれた革製の衣装だった。
「や、やめろ……」
 力なく抗ってはみたものの、全く動かない手足は、枷も外されているのに、包まれるに任されるだけだった。
 まず手足が鞘のようなものに突っ込まれ、腕や肩まで順々に締め込まれる。
 そして胸が革のカップに収められ、背中でベルトが絞られる。
 腰がありえないほど細くくびられる。
 鉄の股ベルトはそのまま包み込まれ、前の錠前の厚みもきちんと革に収まった。
 全身締め上げられると上半身を起され、口にまた嵌みを入れられ、首から垂れたマスクを顔に被せられた。マスクには嵌みの間から口に侵入する柔らかめの棒と、小さな鼻の穴と、網目状の目の穴が明いていた。
「オグッ!」
 口の棒は喉の奥まで達し、呼吸と呻き声以外、全く発音できなくなった。
 鼻の呼吸穴は小さく、口で補助的に呼吸していたら、口の穴には何かを詰められて、鼻からしか呼吸できなくされてしまった。
 目は網目状と言っても小さい穴が数えるほどしか明いてないので、視野は非常に狭く、転ばずに歩けるだろうという程度だ。
 髪の毛もまとめて折り込まれたらしく、頭も締め上げられて顔が突っ張った。
 手は袋状になっていて指の区別が無く、掴むことは出来そうだが、自分でこの服のベルトを緩めて脱ぐことはできない。
 足はブーツ状になっているので、歩くのに不自由無さそうなのは有難いが、足の甲が真っ直ぐ突っ張っていて、バレエシューズのようだ。
 首周りは何か入っているようで、異常に硬くゴワゴワする。
 男達は私に鋼鉄の首輪だけを戻して施錠すると、手足も自由なまま牢内に放置して出て行った。
 何日ぶりなのか何時間ぶりなのかはわからないが、私は久々に手足を伸ばすことができた。 しかし感覚はまだ戻らないので、楽になったという実感は無い。
 呼吸が小さな鼻の穴からだけだので、プピー、プピー、とおぼつかない。これでは抵抗して暴れたら、きっと空気が足りなくなる。
 そんなことを考えていたら、疲れに負けてウトウトし始めた。

 しばらく眠っていたら、全身が猛烈な痛みと痒みに襲われた。
 目が覚めた瞬間マスクの中だったので、自分がどこに居るかすらわからず焦った。目を剥くほどの痺れの中で、しばらくはピクリとも動けなかったが、革に全身締め上げられているせいか過剰に弛緩することもなく、しばらくしたら徐々に収まってきた。これが締め上げられていなかったら、きっとまだまだ痺れが続いていただろう。締め上げの影響で手足の感覚はまだ鈍いが、力を入れるとキツイながらもギシギシと動く。
 時間が経つにつれ、そのぎこちなさも次第に消え、だんだんと普通になってきた。
 恐る恐る体を起こす。
 体の奥では、あの銀の筒が休まずに蠢いている。
「ン……」
 喉の奥からしか声が出ない。
 手が自由なので無意識に股間に添えてしまったが、腰には鋼鉄の枷が嵌められている上、腰も手も革に包まれているので、自分で慰めることは全く出来ない。
 檻から出されても、あの頂点に達せない快感の苦しみは続くのだ。
 またバルベロッテに逝かせてもらう屈辱を味わなければいけないのだ。

 座ったままだと快感の火照りが募り、どんどん切なくなって、何かをせずにはおられなくなってきた。まだ膝が笑うほど力の入らない足に手を沿え、なんとか立ち上がる。しかし足のブーツは甲と脛がほぼ一直線になっていて、つま先立ちしか出来ない。それを支える踵も細くて高く、慎重に歩かないと牢の敷石の溝に嵌って転びそうだ。
 それでもなんとかよろよろと立ち、牢の格子に近寄り、バルベロッテに懇願する。
「ァン…… ……!」
「コ…… ! ン!」
 全然声が出せない!!
 また逝けない絶望に襲われるとわかって、青くなりながら牢にへたり込みそうになった。身体が不自由なもどかしさから少し狂乱しかけて、滅茶苦茶に牢の格子をドンドンと叩いていると、バルベロッテが来た。
「おおさすが姫様、もうお立ちになれるのですね? ならば少し城内を散策されるが宜しい」
 男達が牢の戸を開け、私を外に出した。
「奴隷甲冑の準備が整うまで、今しばらくはここが姫様のお住まいです。手洗いもここでしか出来ませんから、催されましたらこちらまでお戻り下さい。この者達のどちらかが交代で控えておりますので、下のお世話を致します」
「ウ……」
「あとは本当にご自由にされて構いませぬ。城内の者は姫様の正体こそ存じませぬが、この黒衣は見馴れております故。そうそう、くれぐれもお立場だけはわきまえて頂きますよう。……くれぐれも。ククク」
 バルベロッテと男の一人が去り、一人は戸を開けたままの牢内に木製の椅子を持ち込んで残った。

 えーと……
 本当に勝手に見て回って良いのか?
 完全に扱えないまでも、剣ぐらい握って、刺すことぐらいできるぞ?
 牢内の男をチラリと見ると、全く無表情だった。
 私は向き直って、慣れない踵高の靴で、コツ、コツ、と一歩づつ確かめながら歩き出す。
 静かな地下室に、プスー、プスーと、マスクに包まれた自分の呼吸音がうるさい。

 螺旋の石階段を昇り、厚い戸を押し開けると、城内の一角に出た。早速侍女らしき者が通りがかり、私はすくんだ。しかし侍女は軽く会釈して通り過ぎた。
 城というものの構造はだいたいわかるので、中心に向かって歩き出す。
 地下室のある区画から離れてしまうと、とたんに城は豪華な内装に彩られた華やかな空間に変わる。王城ほどの規模は無いが、一領主の城の中では一番贅沢かもしれない。
 ええい、このバレーシューズのような、つま先立ちのブーツは歩きにくいな。まさか私を奴隷剣士とやらに仕立てる時も、こんなものを履かすのではなかろうな。これでは戦えぬぞ。

 途中、大きな鏡があった。
 鏡に映った自分の姿を見て息を呑んだ。
 自由に歩ける構造かどうかの違いこそあれ、鏡の中に居たのは、まさに我が城下の広場で見たあの娘だった。
 きっとあの時、あの娘も、全身をぎちぎちに締め上げられ……
 ハアっ……!
 腹の奥に差し込まれた金属の棒が、激しく蠢く。
 まずい……
 全身を締め上げられることが快感へ繋がるように仕込まれてしまった。
 調教……?
 私は…… 調教されたのか?

 革で全身を拘束された鏡の中の自分を、うっとり眺めてしまう。
 あの娘が革で包まれるのを目撃した時に、私の中に何かが芽生えたのか。
 あの娘と同じように革の中に閉じ込められたらどんな気持ちだろうと思ったのか。
 今の私はあの娘と同じ虜囚だった。ただ手足が動かせるというだけで、この革の服はあの四肢を畳まれぎちぎちに詰め込まれた檻と等価なのだ。

 急に目の穴が檻の鉄格子に思えてきた。檻であれ服であれ、私はもう二度と、このような格子越しにしか外を見ることが出来ないのだ。
 一度極限の締め上げの中での快感を教え込まれてしまった私には、今の自分の身体すら完全に性的な曲線を描くオブジェに見えるようになってしまった。
 剣を振るうのに邪魔だった大きな乳房は、黒い革に締め上げられ、ドクドクと高鳴り、施錠されてしまった腰ベルトが、甘い被虐の快感を呼び起こす。私の頭を締め上げる昆虫のようなマスクが、すでに私を人間ではない生き物に仕立て上げている。
 自分の異常な姿に興奮が止まらない。
 窄まった手で胸の先に触れたら、中で乳首が尖っていて、ビリビリと感じてしまった。体内の金属棒が激しく動き、快感が頂点の手前まで押し上げられる。
 だめだ、ここに居てはおかしくなる。
 自分の姿を目に焼き付けて、鏡の前を離れた。

 よろよろ、ぎしぎし、プスープスー、コツコツと、異様な革人形が城内を行く。

 武器は無いのか。装飾用でも良い、何か獲物が欲しい。

 小さなホールに出た。
 幸い、壁に古い剣が飾ってある。
 しめた!
 それを手に取…… 取れない!
 革が厚くて、握ろうとしても逃げてしまう。手先を拘束するためか、大きなリングが付いているのも握るのを邪魔している。
 今の自分の無力さと、虜囚の立場を改めて思い知らされ、マスクの中で涙を流しながらその場にへたり込んだ。

「奥様、奥様、ご気分がお悪いのですか?」
 声を掛けられて見上げると一人の侍女が屈んで私を覗き込んでいた。
 首を横に振る。
「バルベロッテ様に内緒で、お紅茶などいかがですか?」
 突然の申し出に、俄然首を縦に降った。

 侍女に案内され、食堂に着いた。侍女のまかない用ではなく、この城の正式な食堂だ。広いテーブルの端の肘掛けのある席に、黒い革に包まれたまま座ると、恐ろしく場違いな感じがする。
 小さくなりながらポツンと座っていると、侍女がワゴンを押してきた。ティーポットから豪華なカップルに紅茶を注ぎ、そのカップを高々と持ち上げて、もうひとつのカップにだばだばと滝のように移す。これを交互に繰り返す。そのたびに香しい紅茶の香りが辺りに広がる。
「遙か遠くの印度の地では、このように交互に移して紅茶を冷ますと聞き及びます。どうぞ」
 充分にぬるくなった紅茶を、侍女はガラスの筒に移し、私の口のコルクせんを抜いて、その先端を差した。
 温かい紅茶が舌の奥と喉に流れ込んで来る。
「ンク…… ンク……」
 お腹が解れる。
 マスクの中でまた泣いた。急に気分が鬱になり、私は礼も述べることができずに食堂を後にして、ずっと歩いて地下牢に戻った。

 疲れた。
 牢内に居た男に股間を手で示すと、股を覆う革の一部を開けてくれたので、便壷に大小とも排泄した。硬い紙で股間を拭われ、革を戻された。
「またお出になりますか」
 男がぶっきらぼうに尋ねるので、私は力無く首を横に振り、その場に横になった。男は私の様子を見て、牢から出、牢の戸に鍵を掛けて去って行った。
 なんだか精神的に疲れてしまって、また眠くなった。

 少し眠ったところで、バルベロッテが怒りながら入って来た。
「姫様、お立場がお分かりにならぬようですな? だからあんな罠に簡単に引っ掛かるのですぞ!」
「ン?」
「勝手にお紅茶飲まれましたな? お仕置きですぞ!」
「ンー?」
 そんな!
 あれは許されぬことなのか?

 私は首輪に鎖を繋がれ、手を後ろで施錠されて、再び牢から引き摺り出された。ぎちぎちの全身、おぼつかない足元、苦しい呼吸のまま、ずっと歩いて城の中庭に引き出された。
 そこにはピロリー(首と手を一緒に木枷に嵌めて罪人を晒す晒し台)が設置してあった。
 私は男達の手でピロリーに嵌められた。このピロリーには足枷も付いていて、股を大きく開いた不安定な姿勢で固定された。
「ンーーー!」
 不当な仕打ちを受けている気がして、喉の奥からか細い声を出して抗議したが、そのままバルベロッテ達は城内に引き上げてしまった。
 ゴトゴトと木枷の隙間の範囲で暴れてみたが、手首足首が痛いだけだった。
 中庭を通る者が奇異な目で見ている。恥ずかしくて死にそうだ。
 私はまたあの娘を思い出した。
 そしてあの娘に自分を重ねた。

 ああ…… 処刑されているんだ、私。

 王女の尊厳も剣士の誇りも滅茶苦茶にされているのが気持ち良くて仕方ない。
 顔はマスクに隠されているとはいえ、この屈辱的な姿勢や衆人からの嘲笑は、私には耐え難いものだった。強くて高貴なはずの私が、革に包まれ、こんな公開晒し刑に処せられている。
 高貴な生まれも、努力して手に入れた強さも、すべて否定された、本当の弱い私を晒して。
 大きく開いた股の奥で、金属棒が止まることなく蠢いている。こんな恥辱の中でも感じてしまう自分が情けなかった。
 逝けない興奮の波に何度も襲われ、私はまたマスクの中で涙した。

 暗くなりはじめた頃、バルベロッテと男達が来て私は牢に戻された。
 私の内なる不発の花火に何度も火を着け、晒し刑は終わった。
「姫様少しは懲りましたかな? このようなことさえ無ければ、明日もまたご自由にされるが宜しい」
 排便をさせてもらい、ガラスの筒で口の穴から粥のようなものとスープと水を流し込まれて寝かされた。バルベロッテ達が出ていったあと、暫く自分で股をさすって悶々としていたが、やがて眠ってしまった。

 翌朝、排便と朝食もどきをもらって、あとはまた自由時間。武器は諦めるとしても、いざ反撃するときのために、城の構造くらい頭に入れておこう。ぎしぎしの不自由な体、不馴れな高い踵、強い意志もたちまち挫(くじ)く腹の金属棒などを抱えたまま城内へ出た。
 侍女達の控えの間に近い通路を歩いていると、横から声がした。
「奥様、奥様」
 紅茶はもうごめんだと思いながら振り向くと、その顔を狭い視界に捉える間もなく、通路脇に引き込まれた。
「ンーー!」
「ンーー!」
 嫌がる私の反応を楽しむかのように、革に包まれた私の胸を揉みしだく。
「ンーー!」
 腕を回して振りほどこうとしたら、どこだかをカチッと繋がれて抵抗出来なくなった。
「ンーー!」
 優しく、そして強く胸を揉まれ、乳首が革の裏地で擦れる。
 だめだ……そんなにされたら……またあの逝けない地獄が……
 革の上から乳首まで摘ままれ、体内を金属棒でかき回し尽くされ、メロッメロにされ、一番切ない際で解放された。

 ドロドロの気分で、もうそれ以上城内を散策する事など出来ず、牢に逃げ帰ったら、またバルベロッテが来た。
「姫様はまだお分かりにならないのですか? 今のお立場で気持ちを昂らせる行為をすることがどれだけ罪なのか。
今日もお仕置きとは、嘆かわしい!」
「ンー!」
 そんな…… いいががりだ。私、何もしていない……
 ハッと気付いた。
 わざとだ。
 侍女に言いつけて、わざと私に関わらせ、お仕置きの理由を無理矢理作っているのだ。

 また中庭に引き出された。
 そこには人の背ほどもある水槽と思しき細長いガラスの筒が置いてあった。その上にはやぐらが組んであり、大きな滑車と太いロープが吊るしてあった。ロープの先は2股に分かれ、先端に2つのフックが付いていた。男2人が私を後ろ手に施錠し、私の左右の肩のベルトにリングを取り付け、ロープを下ろして左右のそれにフックを掛ける。
「ンーー!」
 何をされるかわからない恐ろしさに声を上げたが、周囲のざわめきに掻き消された。
 口の栓が抜き取られ、代りにL字に曲がったガラスの管が上向きに取り付けられた。
 男がロープを引くと、ギリギリと無抵抗に吊り上げられ、皆が見上げる。
 ロープの撚りでゆっくり体が回転する。そのまま水槽と思しきものの中へ下ろされてゆく。
 もう一人の男が、私の回転を止めて、城を背に、正面を向かせる。
 底に足が着くと、一度ロープが余分に送り込まれ、フックが外れたところでロープが筒から抜き取られた。
 私は自分の体より一回り大きな直径のガラス筒に閉じ込められた。

 突然、ジャバッと冷たくなった。狭い視界で見上げると、大きな柄杓(ひしゃく)と桶で水が注がれていた。衆人の奇異な視線の中、私は本当に水槽に沈められてゆく。口に差された細いガラス管のおかげで、呼吸だけはなんとかなりそうだ。
 水位が腰、胸、首と上がって行き、とうとう頭まで沈んだ。革衣装の中までどんどん水が染み込み、全身が気色悪い。ゴボゴボと水を入れる音が止み、静かになった。水を吸った革衣装と重い鋼鉄の首輪やリングのせいで、息を吸っても浮くことは無い。歪んだ視界の中で皆に見られているのがわかる。
 少しまったりとした感じがして姿勢が緩んだら、口の管から水が入って来た。
「ゴボッ!カハッ!」
 肺に入る直前でなんとか胃に飲み込んで、姿勢を正して管から呼吸する。
 みんな笑っている。
 ジョボッと水が足される音がする。
 今度は体内の銀の棒がぐにょりと動き、その気持ち良さに体が少し前屈みになった。
「ゴボッ!カハッ!」
「ゲフ!!」
 この残酷な処刑の仕掛けがわかった。私の口に繋がっているガラス管ぎりぎりまで水を満たし、少しでも姿勢が崩れると水を飲まされる。
 水中で蠢く黒革の人形を、僅かな水位の差で水責めにして、筒の中で踊らせ続けるのだ。
 真っ直ぐ立っているつもりなのに、体内でアレに動かれると微妙に腰が曲がってしまう。
 そのたびにガラス管の切れ口が水面下に潜り、少しの水が流れ込む。
 水の量は僅かでも、それは私を苦しめ藻掻かせるのに充分な量だ。
 銀の棒が発するぬるい快感と呼吸制限の狭間で、革でぎちぎちに締め上げられたまま、ガラス筒の中で不規則に踊り続ける私。
 見せ物にされているという意味不明の興奮も私を襲い、余計に棒が体内で蠢く。
「ゴボッ!カハッ!」
 朝から始まった責めは昼前まで続き、ようやく筒から引き上げられた。

 グッタリした私は休む間も与えられず、口のガラス管を抜き取られるとすぐに栓を戻され、直ぐ近くに設けられていた大きな木枠に、立ったまま大の字に繋がれた。手は服についているリングで左右斜めに鎖で繋がれ、足もくじかない程度に開かされて金属の枷で繋がれた。
 無抵抗なまま、四肢を引き延ばされるとすごい屈辱感がある。
 ピロリー以上の惨めさだ。
 が、今の私はただされるまま。
 呼吸制限が無い分、ただじっとしていればいいので、首をうなだれて少し休んだ。
 冷たい水で冷え切った体も、真昼の太陽に照らされて、次第に温かくなってきた。
 恐ろしい呼吸制限の疲れから、吊られたままなのに眠くなってしまった。あの娘もこうして不自由な姿勢のまま、つかの間の眠りを貪ったに違いない。

 全身に異常を感じ始めて急に目が覚めた。
 きつい……
 きつい……!
 濡れた革が、太陽に照らされて乾くにつれ、猛烈に縮んでいる!
「プスッ! プスッ!」
 胸が締まって呼吸が苦しい!
 首だけは中に何か入っているのか、ほとんど締まらないが、顔も顎も恐ろしく突っ張ってきた。
「フヒ! フヒ!」
 温かいを通り越して全身熱くなってきた。
 周りをずらりと城の人間に囲まれている。
 直接触れられて悪戯されることは無いが、皆私に何が起きているのかわかっているらしく、私の苦しむ様子を見てニヤニヤ笑っている。
 どうやらこの黒革の姿がバルベロッテの妻であると知る者と、そうでない者がいるようだ。今周囲に居る者は、この黒革衣装の者をバルベロッテの妻とは知らず、本当に卑しい奴隷か何かだと信じているのだろう。
 こわばっている全身をギシギシ軋ませて、必死で楽になろうともがくが、枷に固定されているので、大きく革を歪めて隙間を作ることなど出来ない。私のもがく様子が本当に必死に見えるらしく、もがけばもがくほど周囲の者たちは嘲笑する。

「フヒューー…… プヒューー……」

 日が傾く時刻まで苦しみ抜いた頃、バルベロッテが来た。
 周囲に私の正体がばれないよう気遣っているのか、顔を近づけ耳打ちする。
「ククク、随分こたえたようですな。私もこれで姫様を飼い慣らす自信がつきました。甲冑の用意が出来ましたので、城内にお戻り頂きましょう」
 手足の鎖を外されたが、革が縮み切っていて曲がらず、歩くことが出来なかった。
「フヒ! フヒ」
 息が苦しい状態はまだずっと続いている。
 男2人に抱えられるようにして、処刑台を後にした。
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