檻姫

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  八 所有の証  

 私が運び込まれたのは中くらいの広さの浴場だった。豪華な内装、掘り下げ式の磨き込まれた石の浴槽に溢れる湯。もう一生見ることもないと思っていた光景だった。
 男達が私をうつ伏せに寝かせ、背中の革の一部をギシギシと押している。私からは見えないが、何かをブツリと切り取ったようだった。すると私を包む革衣装の一部が解れたらしく、そこを手掛かりにどこかをブツンブツンと切り進む。背中の一部が楽になった。たちまちその開放感が腰、尻、腿、腕と広がり、手足の手袋とブーツも脱がされた。首から下が楽になってもまだマスクは脱がされなかった。

 男達とバルベロッテが去って行く。え? このマスクのまま湯に浸かれというのか? マスクの後頭部に手を伸ばすと、大きな塊に触れたのでグイと引いたら、ベルトが解け、あっけなくマスクが外れた。一応私が全裸を見られて恥をかかぬよう配慮したつもりなのか?今更。
 長い口枷を抜き取り、嵌みを吐き出す。
「ふーーーーっ……」
 ため息しか出なかった。
 バサッとマスクを放り投げ、とりあえずこれは湯を使っても良いのだと判断する。
 まさか、また罠か? いや、バルベロッテ直々にここへ連れて来て、それは無いだろう。
 我が身の浅黒さ、汚さ、臭さに自分で閉口してしまった。
 気付くと、まだあの金属の腰ベルト股ベルトはそのままだ。もちろん、中の銀製の金属棒もそのままだ。この腹に埋め込まれた棒こそが私を隷属させるための鍵なのだから、そう簡単には解放してくれぬか。
 湯を汚すのが申し訳なくて、何度も掛け湯をして汚れを落としてから、心からの安堵を伴ってどっぷりと湯に身を沈めた。
 眠るように湯の中でまどろんでいると、今までの鬱血が全部ほぐれてきた。拘束される前の体にようやく戻った気がした。

 壁には鏡や石製の椅子があり、いくつかの香油やせっけんが置いてあった。
 おお、これは愛用していたオリーブ油石けんに近い。
 こちらはマルセイユ産の高級品ではないか。
 なんだかまた泣けてきた。
 体を洗える範囲で洗い、髪の毛も念入りに洗って、また湯船に浸かった。

 さすがにのぼせそうになったので、湯船から上がったら、バルベロッテ達が入って来た。
「キャッ!」
 らしからぬ悲鳴を上げて胸を隠す。
「おお姫様、地下牢でも美しさは褪せなんだが、磨けばいよいよお美しい。奴隷甲冑が出来ましたのでお持ちしました」
 男達が美麗な布袋を幾つか湯殿の端に並べる。
「その前に、お体に我が所有の証を入れさせて頂きます」
「所有だと? ぶ、無礼な物言いも大概に……」
「はて? 檻に詰め込まれて気をやる姫様が、今更何か仰りたいことがおありか? それともまだお仕置きが足りませぬか?」
 バルベロッテの目には、有無を言わさぬ凄みがあった。
 全身拘束の仕置きの凄まじさを思い出し、気が遠くなりそうだった。
 特にあの水責めと天日干しは思い出すだけで身の毛がよだつ。
「一度は死んだ気になった身だ、……好きにしろ」

 湯殿に木製の鞍馬のような物が運び込まれ、私はそこに仰向けに縛り付けられた。
 腰ベルトの錠前が外され、あまり洗うことの出来なかった股間が露わになった。
「あ! や、み、見るな!」
 暗い地下牢と違い、明るい湯殿で、しかも大股開きで晒されると、さすがの私とて恥ずかしい。
「はあん!」
 金属の棒が一旦引き抜かれ、クリトリスをバルベロッテに摘まれた。
「良い具合に尖っておられますな。ククク」
「あ、くっ! そのように直接ッなどッ! ビリッと! はあっ!」
「ここも一応私の物ということになります故、私の手でお清めしても宜しうございますな?」
「好きッにッ ああン! しろ」
 酒をどばどばと掛けられ、手拭いで拭き上げられた。
「あ! ばかもの!そこは尻の……! ひゃ!?」
 こんな恥辱は無いと思ったが、やはり立場を思い起して諦めた。

「ククク、これで綺麗になりましたぞ。では失礼して……」
「あっく! そんなに摘んでは! や!  やだ! やだやだ!  え? 」
 ぶつんと肉が爆ぜる音がしたような気がしたとたん、腰がガクンと跳ねた。
「ガフッ!!」
 前の戦争で左肩に矢を受けた時がこんな衝撃だった。
「ぎいいいい!」
 あれだけ敏感なクリトリスを、ちょん切られてしまったと思った。
「あぐうううッ!!」
 その傷口を何か細い物でこね回されている。
 痛みに失神しそうになったら、ぼってりとソコに違和感を感じたまま終わった。
「さすが姫様、悲鳴も一瞬でしたな」
「な、何をした? わああん!」
 大事な物を切り取られたと思い、少し泣いてしまった。
「姫様の美しい肉の芽を、ピアスで飾らせて頂きました」
「ピアスう?」
「はい、次はこちらに……」
 乳首を指さす。
「ひっ!!」
 真剣に怖かった。
 若輩の身なれど、幾多の戦闘で死線を潜り抜けた私が、自らの体の、僅かな部分に触れられて悲鳴を上げるとは。

 乳首もどぼどぼと酒で清められる。
「ひ! ひいいいい!!!」
「おや、姫様、普通は皆クリトリスで悲鳴を上げるもの。クリトリスがこの程度で済んでいる姫様には、こちらは蚊ほどにも感じますまい」
「やあああ! 怖い! やめてぇ!!」
「ククク、これはまた、歴戦の戦姫様の斯様(かよう)な悲鳴が聞けるとは、冥利に尽きますな。しかし決まりは決まり、お覚悟を」
 ブツンと右の乳首が太い針で貫かれ、鮮やかな手際でリングを通され、大きなメダルを下げられて、リングが閉じられた。
「くあああああ!! グスッ…… グスッ……」
「そんなにお痛みか?」
「痛みは……矢傷刀傷ほどではない…… グスッ…… 先のクリトリス程でもない…… グスッ…… ただ…… と…… と…… グッ」
 肉に穿たれたリングによって、私の魂も肉体も本当にバルベロッテに所有され、精神的にとどめを刺された気分になった。
 涙が止まらない。
 だがしかし、『とどめを刺された気分が悲しくて』と口にすることは出来なかった。
「では、こちらも……」
 追い打ちを掛けるように左の乳首を摘み上げる。
「ああああああああ!」
 情けない悲鳴しか出なかった。
 ブツン。
 王女としての私は、今、死んだ。

「このまま少し支度することが御座いますので、今少しこの姿勢で我慢なさいませ」
「グス…… グス…… ヒック…… ヒック……」
「最初にエレキの棒を入れたことがあります故、この程度のものは易々と入るでありましょう」
 バルベロッテがそう言いながら、先に矢尻のような返しが付いた銀の細い棒を見せる。
「私が持つこの細い針金状の鍵を差さねば、返しは閉じぬ仕掛け。当領随一の宝飾細工師による銀細工でございます」
 それを小用の穴に押し込んでくる。
「ちょっと待て! そんなもの挿されて、小用はどうすれば良いのだ」
「心配ご無用。中は筒になっております故、用は足せます。もっとも締め口の肉もこじ開けます故、垂れ流しっぱなしですが、ククク」
「いやあああ!! や、やめろ!」
 バルベロッテは答えず、私はその禍々しい銀細工の筒を、小用の穴に完全に差し込まれてしまった。
「ああ……」
 バルベロッテの言葉通り、何もしないのに股間が生温かくなり、恥ずかしい匂いが立ちこめてきた。どう力んでも止めることが出来ず、無理に締めたら股の奥がキリキリと痛んだ。
「グスッ…… グスッ…… どこまで辱めれば気が済むのだ……」
「ご心配には及びませぬ。あと一カ所にござります」
 尻の穴に何かを塗り込まれ、太い棒が押し込まれた。
「痛い! やめて! それ痛いの!」
 尻の穴が裂けるかと思われるほどの物を中途半端に咥えさせられ、少し窄まったところにぬるんと嵌まり作業が止まった。
 キリキリとネジが巻かれると、尻の穴の内側が膨らんで痛い。
「これは……? 抜いてくれ! 気持ち悪い!」
「それは姫様の排便用の筒でございます。収まりが悪いのも当然、姫様はこれからずっとその筒を咥えたまま生きて行かれるのです。
これもこの特製の鍵ネジが無ければ抜くことは出来ませぬ、ククク」
「そんな……」
「最後に奴隷甲冑の下の部品を嵌めれば、姫様の下半身の支度がほぼ完成しますぞ、ククク」
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