檻姫

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  十 給餌  


 ざわめきの中で目が覚めた。
 私は後ろ手のまま無様に倒れ込んだままだった。快感の波がやや退いて、気分も少ししっかりしていたので、その場でガチャガチャと起き上がった。
 後ろ手なのと、甲冑や鉄仮面の重さで、起き上がるのに手間がかかる。胸には、捩れて胸の肉に食い込んだピアスの痕が妙な位置に残り、まるで居眠りの頬杖の痕のようで恥ずかしい。クリトリスはどう倒れても周囲に空間の出来る位置なので無傷だった。
 ざわめきは私に対する嘲笑ではなく、単に広間の日常の騒音であった。
 一応、何事も無かったかのように真っ直ぐ立ち、首をバルベロッテの方に向けると、椅子に座ったままこちらを見、ニヤリと意味ありげに笑った。
 ぞくりと背中に冷たい汗が垂れる。
 お仕置きだ。
 お仕置きする気なんだ。

 夕刻まで何事もなくそのまま過ぎた。
 しかしずっと食事をもらっていないので腹が減った。
 ベルベロッテが執務を終えたらしく、席を立って私の傍へ来て耳打ちする。
「スレイ=テストステラ王女様。皆の前で御名前でお呼びすることができませぬ故、お名前の頭文字『エッス』と呼び捨てにさせて頂いて宜しいか」
 私はこくりと頷いた。
「ではエッス、食事に致すぞ」

 いつもの男2人がやってきて、バルベロッテの執務机を片付け、椅子の前に不思議な形をした木製の台を据えた。まるで背の低い小型のピロリーで、それに木枠の斜面が付いている。
 男達は私の首輪と手枷を繋ぐ鎖を外し、後ろ手の鍵も外すと、私をその台の前に引き据えた。
「ンフー!」
 首と手を固定する木枷の部分が開かれると、私はあの晒し台を思い出して身がすくんだ。城内とはいえ、こんな広間でも屈辱の姿勢を取らされるなんて。
 私が身を硬くしていると、男達は私を跪かせ、ぐっと前屈みにさせ、木製の台の木枠部分に胸を押しつけた。すると中央を縦に走る梁(はり)に胸板の甲冑が支えられ、乳房は梁の左右の空間へ下向きにぷるんと垂れ下がった。
「ンフッ!」
 メダルの重さで乳首が引っ張られ、甘い痺れが乳首に走る。
 首は自然と首枷の位置に嵌り、男達が私の手を手枷部分に載せる。
 首の後ろにカタンと軽い衝撃を感じ、枷が嵌められたのだと分かった。ピロリーと少し違うところは、首がただ穴に嵌るだけでなく、顎に当たる位置に木の突起が台状に突き出ているため、首がうつむきにならず、正面を向かされる所だ。
 跪かされ、木枷によって四つん這いから少し斜め上を見上げたような姿勢に固定された、惨めな姿の私の前に、バルベロッテが立つ。後方で何かガタガタやっている音がするが、視界が狭い上に顔が固定されているので見えない。
 突然、お尻の奥が冷たくなった。
「ンーーーー?!」
 暴れて腰を横にずらそうとするが逃げられない。
 お腹が痛くなってきた。何をされたのか全く分からなかった。
「エッス、少し我慢しなさい。薬草の汁ですっきりお通じがあるぞ。ククク」
 真っ青になった。
 幼いころ腹痛を起したときに、オリーブ油を尻から入れられたのを思い出した。
 尻に栓をされたまま浣腸されている。このあとすぐやってくる排泄の屈辱よりも、幼い子供のように取り扱われているのが恥ずかしく、鉄仮面の中で真っ赤になった。
 ややあって、尻と小用の栓が外された。自分では全く見えないが、壁を背にしたバルベロッテの椅子に対して跪いているので、広間中の人間に私の股間を晒しているはずだ。
「ンンン!」
 柔らかく解れた便が、ゆるゆると通過する排泄の快感がたまらない。尻の穴を広げられたまま鉄の筒を嵌められているので、絞り出す排泄感には乏しいが、その少し奥にある敏感な部分で排便の快感を感じる。小水は、排尿孔付近がカーッと温かくなる妙な感じと、勝手に尿意がすっきり解消する感じだけで、排尿の気持ち良さは取り上げられてしまった。
「うわ」
 遠くから小さな声が響いて来た。
 自分としては目の前のバルベロッテと男2人に弄られているという意識しか無かったが、広間の奥から届いた声に、本当に排便を見られているのだということが実感されて、心がひしゃげた。羞恥に俯くことすら禁じられ、鉄仮面の中でハラハラと涙した。
 注入された薬草の汁のせいなのか、与えられている食事のせいなのか、排泄の匂いは殆んどしない。湿った布のようなもので尻と股を拭き上げられ、栓を戻された。

 後方でゴトゴトと人が去る音がしたあと、今度は侍女達がワゴンをバルベロッテの傍らに運んで来た。
 その上には野菜や果物やパン等がぎっしりと並び、ハンドルの付いたガラスの筒が見えた。バルベロッテがワゴンの上の物を吟味しながら指差すと、それを侍女が少量切り分け、ガラスの筒に入れる。
 最初はパン類だった。侍女がガラスの筒についたハンドルを回すと、中で金属の羽が回り、たちまちのうちにパンが粉々になった。
 そこにミルクのようなものを加え、幾つかの野菜と果物を加えて、更にハンドルを回し、びちゃびちゃの粥状にした。
 それを侍女がガラスの細い筒に移し、押し棒を差して恭しくバルベロッテに渡す。

 私の口の栓が外され、完全にバルベロッテに餌を与えてもらう姿勢だ。
 グーー。
 食べ物を目の前にして、私の剥き出しのお腹が、恥ずかしげもなく鳴った。
 くそっ、くそっ、くそっ。
 我ながら情けない。
 でも……
 その手に持った食べ物を、早く流し込んでくれ!
 もう、奴隷でも何でもいいからぁ!
 排泄と食事と性欲、人間としての全てをバルベロッテに握られ、涙が止まらない。
「エッス、そのように泣いておっては、気管に詰まって死んでしまうぞ。そんなに食事が嬉しいか。ククク。これからは日に2度、朝夕に食事と排泄だからの、心得ておけよ」
「ンー」
 なんとか涙を呑み込んで、返事とも呻きとも言えない声を出した。
 んぐ、んぐ、んぐ。
 今までの流動食と違い、香りもはっきり分かるし、原料も見せて貰える。量もそれなりにあって腹に貯まる。
 こんなに惨めな扱いで、餌のような食事を与えられているのに、あらゆる生理的自由を封じられ、懲罰も味合わされてしまった私は、反抗する気力などとっくに削ぎ落とされてしまった。
 泣きたい程の憎しみはあるのに、その敵から与えられる餌がもう嬉しくて美味しくてたまらない。そんな私の心を読んだかのように、バルベロッテはニヤリと笑い、空になったガラスの筒を抜き取った。


 最後に水を口に注がれて給餌が終わると、私はこの屈辱的な姿勢からようやく解放された。だが、そのまま男達の手で壁際まで移動させられ、そこに取り付けられていた鎖に、手と足と首と後頭部の環を錠前で繋がれた。
「さてエッス、御披露目初日からあのような無様な姿、許されると思うか。今日は吊られたまま眠るが良い。ククク」
 中庭での天日干し晒し刑の時のように、手足をいっぱいに引っ張り伸ばされた状態で繋がれ、乳もクリトリスも隠せない。男達が私の前に剣の刺さった台座を置き、傍らに甲冑一式を飾った。どうやらこれが、私の甲冑の他の部品らしい。
 肩当てのスポールダーは背中の剥き出し部分も覆ってくれそうな形だし、今胸板を圧迫しているキュイラスの乳当て部分も見える。なんだ、ちゃんと乳も隠せる仕様ではないか。
 腕のヴァンブレイス、ふともものキュイッスも見えるが、異常にぴっちりした形をしている。
 腰はあまり見かけない身体に沿った部品で、これはきっと今丸出しの腹部を覆ってくれるものなのだろう。一応、鎖かたびらのスカート、チェーンメイルスカートも付いているようだ。

 広間の天窓も夜空の暗闇となり、城内が炎の明かりで照らされる頃になっても、私はずっと同じ格好で大の字に磔にされたままだった。鎖の長さが微妙に調節してあるらしく、腕と首の力を抜いても、鉄仮面が先に吊られ、首輪には余り負担が掛からないので、窒息することは無かった。あまり態度が悪いと追加の懲罰が加えられるのではという心配から、広間に出入りする人間が殆んど絶える時刻まで、痺れる腕を堪えて真面目に吊られていたが、バルベロッテまで寝室に引き上げてしまった後は、ガックリと力を抜いてうなだれた。
 壁に吊られる哀れな甲冑人形。というか壁飾りの甲冑に、私という中身が入っている状態。
 それが今の私だった。

 シャンデリアの灯明も落とされた頃、やっと睡魔に襲われた。しかし眠ってはすぐ醒め、眠っては醒めを繰り返し、頭の中に鉛の棒を押し込まれたような睡眠不足のまま朝を迎えた。
 腹の奥の銀の棒は、体位があまり変化しなかったことと、広間でお披露目された緊張からか、あまりその存在を示さなかった。

 朝になってまた広間が騒がしくなった。
 ぐったりしたまま鎖から解放され、昨晩同様、私専用の食事台となる枷が準備され、そこに引き据えられた。また屈辱の姿勢を取らされ、バルベロッテの前でただひたすら受け身の姿を取らされる。まず排泄だ。そしてバルベロッテが夕食より軽めのレシピーで侍女に指示し、それをまた流動食にして与えられる。
 飲み終わると枷が外された。
「エッス、本日より城内や城外を自由に歩いて良いぞ。城外に居る時はラッパを鳴らす故、速やかに帰れ。ククク心配するな、もう侍女や侍従が仕掛けたりはせぬぞ。皆の前であまり問題のある態度を取れば、昨晩のように仕置きもあるがな。それと、チェーンメイルスカートと剣は自由に使って良いぞ」
 私は立ち上がり、了解したという意味で一礼すると、昨晩吊られた壁の所へ行き、鎖帷子(くさりかたびら)のスカートを腰に着け、台座から剣を抜き取った。
 こ、これはすごい!
 チャキッと握り直し、刃を鉄仮面に近づけてつぶさに見ると、私が愛用する剣にも勝るすばらしい業物。護衛など名ばかり、どうせ保身のため、なまくらを渡してくるだろうと思っていたのだが、なんだか嬉しくなってしまった。傍らのベルト付き鞘に収めて腰に下げ、広間を後にした。

 しばらくはゆっくりしか歩けぬ身、以前途中のままになっていた城内の探索にでも行こう。
 しかしクリトリスは辛うじて帷子スカートで隠せたとは言え、相変わらず乳丸出しではあまり表に出る気にならない。この剣のこともあり、慣れたと言うにはあまりに苦々しい思い出の地下牢へと向かった。腹の奥の銀の棒は、未だ慣れぬ姿のせいかまだ異物感のみだが、いつ変な気分にさせられるか分からない。
 つい数日前のことなのに、紛いなりにも剣士としての姿で入ると、檻に押し込められていたことがウソのようだ。
 ガツンガツンと歩いて、真っ直ぐにあの工房へ向かう。
 勝手に戸を開けて入ると、以前見た時より当然物の配置は変わっているが、置いてあるものの種類は大差なかった。
 私が身に着けさせられている甲冑と、かつて戦の時によく使っていた一般的な甲冑とが並べて置いてあった。今の甲冑が重く感じるので、かつての型のヘルメットを手に取ると、持ちきれない程重い。斯様に重いものであったか?
 今身につけているタイプの物を持つと、羽のように軽い。
 今のタイプの他の部品を持っても、かなり軽く感じる。
「ご用かな」
「フヒイッ!!」
 熱心に比べていたので、背後の人の気配に気付かず、驚いて飛び上がった。体つきからいつもの男の一人とわかったが、今は顔が出ていて、職人気質のいかつい面構えだった。
「エッス殿、鎧は如何かな。自慢の逸品ですから、軽くて丈夫のはず。鋼も稀少鋼より叩き出し、極東より伝わりし秘伝の焼き入れ技により、そこらの刃物は一切受け付けぬはず。鍵がなければ御身切り裂く覚悟でないともう外れませぬ」
 そんな……
 絶望の呻きを飲み込んで、常々鎧が重いと思っていたので、頭を横に振った。
「それはエッス殿の力が落ちたせいでありましょう。少し動けば取り戻せるでしょう。それが証拠に、もし普通の甲冑ならば、その程度の装甲でも、倒れたら自らは起き上がれぬはず」
 そう言われればそうかも知れぬ。
「姫様にはご無礼の数々、お赦し下さい。私も侯爵に仕える身故。 失礼、私、城の鍛冶、モリス=ランドルフと申す。城下に店も持っております」
 私は無言でチャッと剣を抜いて構えた。
「その剣がおわかり頂けるとは重畳。甲冑と同じ極東の鋼の技で鍛造し、焼き入れと叩きを繰り返し、落ち葉の下に差し入れれば、刃の左右に分かれて落ちるほどの代物。私は技と質では宮廷の鍛冶殿にも負けぬつもりです。どうです、試しにこの甲冑叩き切ってみては」
 飾ってあった普通の甲冑のヘルメットを指さす。
 まさかと思ったので顔の前で手を振ると、モリスは真剣だった。
 モリスの言う通り、力に自信が無かったが、構えて一閃、正面から振り下ろした。
 ガーンという激しい手応えに腕が痺れ、柄から手を離してしまったが、見るとヘルメットの脳天を割り、前面のシールドの途中まで真っ二つになっている。
 この状態ですでに敵は絶命だ。
「フヒイ!」
 すごい、と言ったつもり。剣は刃こぼれ一つしていない。
 モリスは満足げに会釈して出て行った。
 甲冑と剣の性能を思い知り、私はなんだか嬉しくなってしまった。我が身を奴隷の身分に戒める奴隷甲冑であるはずなのに、一級品に触れた武人の性か、何だか愛おしく、バルベロッテに少しだけ感謝すらしてしまった。
 ふと今体内に埋め込まれている銀の棒も、材質こそ違え同じ技の冴えかと思いつき、鉄仮面の中で赤くなった。

 城内を歩いているうちに、かなり身体も馴染んだのか、少しずつ身が軽く感じるようになってきた。探索はほどほどにして、城の裏手に周り、手頃な広さの芝生を見つけて、剣の素振りを始めた。
 しばらく振っていると、とても自由に振ることなど敵わないと思っていた剣も、次第に速く振れるようになってきた。
 無心で振る。
 無心で振る。
 ンあっ……!
 ま、まずい……
 落ち着いて来たら、乳首のメダルの振れをすごく感じるようになった。
 くそう、無心で振る。
 無心で振る。
 ふあああぁぁん!!
 ちょ、クリ、クリトリスがっ!
 このメダルは悪魔のメダルだっ!
 身体を動かす度にこんな心地良い引っ張り強さを与えられたら……
 うあああああ!
 来た!
 来てしまった!
 お腹の奥が熱いよぅ……
 ズシャッと四つん這いになってしまった。
 体勢が変わっても、お腹の奥は止まってくれない。

 その時、ものすごいことに気付いてしまった。
 今なら、クリトリスに、触れることが、できる。

 ゴクリ……

 腹の奥はリズミカルに棒が移動していて、もう股からは見たくないほど淫らな液が溢れている。
 クリトリスは穴に嵌ったままカチカチだ。
 四つん這いのまま、帷子スカートの下に手を入れ、革の指先でチョンと触れる。
「ンフーーッ!!」
 っぎっ、ぎもぢいいいい!!

 もう止められない。
 イグウウウウゥゥゥ!!
 指で数回こねくったら、全身引きつけて気持ちよく逝き、その場に突っ伏した。

 ハッと気付いて飛び起き、周りを見回したが誰も居ない。まだ淫らな気持ちで頭がいっぱいだが、罰が悪く感じ、淫水にまみれた手で、申し訳なく剣を握った。
 くそう、くそうくそう!
 無心はどうした! スレイ=テストステラ!
 しかし剣を振り回せば振り回すほど、乳首のメダルが跳ね、胸からきゅんと甘い毒が体に流れ込む。中の棒の動きにスパイスを添える如く、クリトリスがクンクンと引っ張られる。
 再び周囲を見回して剣を置き、跪いて、今度は乳房もいじりながら、クリトリスをつまんでイッた。

 あっくううぅぅんんんんんんッ!

 これが……
 これが奴隷剣士というものなのか……
 もう、私は普通の剣士としてはダメなのか。

 わああああん、悩んでるのにまた逝きたくなったよう!
 気持ちいいのが好きにされちゃったよう!

 乳房を揉み、乳首を捻り、クリトリスを摘む。
 ダメだ、ダメだ私!
 うわっ、気持ちいい! とまんない!
 お腹の奥の筒を力一杯握ってまたイッた。

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