檻姫

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  生殺し刑  

 さながら東方の国のドラのように、丸く吊られた肉がガクガクと跳ねる。
 外観が重い金属の甲冑なので、きっと本当にドラのようだろうと思えてしまう。
 実際には手足があるのに、自分では丸いようにしか感じられない。
 口から給餌され、排泄させられているのに、全くそれを有難いとも恥ずかしいとも思わなくなっていた。

 逝きたい……
 逝きたいよ……
 そればかりがグルグルと頭の中を回る。
 焦燥は狂気を呼び、鉄仮面の中は涙と鼻水でドロドロになってきた。

 くわっと顔を上げる。
「ンーーーーーーーーーーッ!!」
 仮面の中で眉を精一杯寄せて、最大級懇願の叫び。
 だがそれは中庭の漆黒の闇へと吸われて行った。

 辛いまどろみと苦しい覚醒が交互に襲ってくる眠り。
 睡眠に関してはあの檻の方が何倍も楽だった。
 関節を固定してもらえない甲冑は本当に重い。

 私だけが特別なのか皆同じなのかは知らないが、檻でも吊りでも共通して言えることは、眠りに落ちると性欲は一時的に消失するということだ。
 ほんの一時、性の渇望から解放される安堵。
 しかしその安堵を私が実感することはない。
 その眠りはとても深く、短く、完全に意識を失っているからだ。
 私の体はその僅かな間に肉体回復のプロセスと、純粋に機能的な意味での休息を取る。

 そしてその僅かな休息の後の覚醒の瞬間に、目覚めた時から既に拘束の中に居るという衝撃を何度も味合わされるのだ。
 起床が起床でない恐怖。
 ただパチリと目覚め、自分が何もかも剥奪されていることを瞬時に認識させられる。
 ギャーーーーーーーッっと叫びたいのに何も出来ず、目覚め、目を見開いて恐怖し、冷や汗をドバッと流す。
 そして恐怖の涙が一筋。

 しかしややあって、私は自分が居たいところに居ると気付く。
 嬉しさにブルブルと震え、身体が火照る。
 今度は歓喜の涙が一筋。

 そしてまた、ディルドーの洗礼が始まる。
 今度こそ逝けるはず。
 こんな深夜に…… ンッ!
 もうあの虚無感を味わいたくないのに……

 そう、そこのコブ。
 あっと、それ以上動くと引っ込んじゃう。
 そう……
 そう……
 そう……
 よしきたぁ、クリトリスも感じる。
 このまま……
 このまま……

 ――カチ――

 もお嫌あああああああああ!!

 キコキコ、ジャラジャラと鎖の音が響く。
 自分で揺すったりしてないつもりなのに、体は無意識に大暴れしているらしい。

 逝けないもどかしさ。
 逝けないもどかしさ。
 逝けないもどかしさ。
 逝けないもどかしさ。
 逝けないもどかしさ。

 もお殺じでえええええええ!!!(鼻水撒散)

 仮面に当たる朝日で目が覚めた。
 こんな状況でも、暫くは眠っていたらしい。

 まつ毛が目ヤニでくっついて、涙に額の汗が混じり目に滲みる。
 呆然としていると、また膣内を突き上げるコブが気になってしまう。

 普通、人間は皮膚が圧迫されると暫くしたらそれに慣れて気にならなくなる。
 腕輪の圧迫や首飾りの重み、耳飾りの留め金の圧力などがそうだ。
 でもこのコブは違う。
 緩やかな面の一部に、傷にならない程度の突起があり、膣の粘膜を休ませてくれない。
 姫とは名ばかり、男に混じって剣を振り回すガサツな私の、本当に女な部分、弱い部分を容赦なく突き拡げる。
 はっきりわかる。
 私の女の肉襞の内面のあらゆる場所が、あちこちを浅く鋭い突起に突かれているのが。
 その刺激は眉間に棒を押し当てられる如く、その状態のまま我慢することができない、焦燥を伴った刺激。
 それから逃れようと、私の柔肉の筒は、たまらず粘液を滲み出させ、位置を変えようと必死に蠢き締める。
 それこそこのディルドーの思う壷。
 感じ方の違う膣内のそれぞれの位置に配置された大小のコブが、その蠢きに合わせ締め込まれながらゾロリと神経を擦りあげ、
浅い突起が柔らかく粘膜を引っ掻く。

 アアアーーアアアアアアアーーーーーン!

 口枷のおかげでオーオーという野太い呼気にしかならないが、喉の奥から快感の嬌声を絞り出す。

 ハァ…… フゥ…… ハァ…… フゥ……
 ハァ…… フゥ…… ハァ…… フゥ……

 うーっ、この内臓の内側をトゲで押されてるのって、落ち着かなくて気が狂うーー!
 ただ落ち着かないだけならいい。
 はぁん
 あぁん
 そこぉ……
 それぇ……
 あーーっ!
 あーーーっ!
 きもちいい!!

 ――カチッ――

 もおやめてえええええええ!!

 あの煩わしい浅いトゲが見事に収納され、コブが平らになり、細身になったディルドーが、巧みに曲げられた本体の曲線と、
分割機構によって、その存在を消失する。

 ぎいいいい!

 給餌のための口枷を突っ込まれているため、歯噛みなどできないのに、心が悲鳴に似た歯噛みの音を上げる。

 くはっ、くはっ、くはっ。

 締めてるのぉ!
 股を締めてるのぉ!
 こんなに股を締めてるのにいぃ!
 どっかにコリッとでもいいから引っ掛かってよおぉ!

 暫くしたらマスーラが近づいて来て、鉄仮面のシールドを上げ、湯で濡らしたタオルで目を拭ってくれた。
 マスーラはドロドロになったシールドの周囲も拭うと、シールドを戻して立ち去った。
 今度は妻の一人ミレアリアが来た。
「モリス殿は3日ほど仕入れにお出かけですので」
 そう言って、ぎこちない手付きで餌と排泄を世話してくれた。

 腹が満たされたら安堵して、ガクッと気を失った。
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