檻姫

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  永久装着刑  

 工房では燃え盛る炉の前でミレアリアが他の妻たちと対峙していた。

「ミレアリア! 早く鍵を返しなさい!」
 リンダが叫ぶ。
「クククバカめ! 本物のミレアリアは檻のまま、今頃葡萄酒蔵でラリって糞を垂れ流してるよ」
「なんてことを!」
「お! 来たな、テストステラ姫! よくもご主人様を殺したな!」
「どういうことだ?!」
 グレンドルが叫ぶ。

 私はだっこから降りてグレンドルに辛うじて掴まって立っている。
 ミレアリアの偽物が金髪のカツラを脱ぎ捨てると、顔立ちは似ているが濃い栗毛の別人だった。
 瞳の色も違う。

「私はクレア。私はご主人様に間者として育てられた。私にはご主人様しか居ないんだ! ご主人様が全てなんだ! それを簡単に切り捨てやがって! 奥様方も裏切り者だ! 真にご主人様のことがわかっているのは私だけだ!」
「クレア、いい子だから私達と一緒に暮らしましょう。そうすれば貴女の壊れた心もきっと良くなるわ。主人ほどではないけど、私達でも少しは貴女を慰めてあげられると思うわ」
「うるさい! うるさいうるさい! 裏切り者の戯言など聞かん!」

 クレアと名乗った間者の女は、見慣れた鍵束を取り出した。
「これを見ろ! お前たちが探している姫の鍵だ!」

 私はたった今初めて、他人に自分の自由を掌握されている衝撃を、今の平和な生活のなかで思い知らされた。

「ククク、どうだ姫、毛虫と痒み薬の感触は! 病みつきになったんじゃないか?」
「毛虫ですって?!」
 リンダ達はこの毛虫のことは知らないのか?
「テストステラ姫! お前はただでは殺さん! クハハハハ! この鍵を炉に放り込んでやる!」
「や! やめなさい、クレア!」
「ご主人様から、ちゃんと聞いてるぞ! この鍵はたった一組しか作らなかったと。 脱げば熱して切れるその甲冑も、中の姫ごと焙るわけにもいくまい。つまりこの鍵が無くなれば、お前は一生その甲冑の中だ!」
「バカなことはやめろ! 非常時だ、姫のことが露見してもかまわねぇ、誰か弓の腕がたつ者を呼んでこい!」
「動くな! ククク、すぐ死なれるとつまらないからな、シッコ穴とウンコ穴の鍵は返してやるよ」
 2つの鍵を抜き取り、チャリンと放る。

「クハハハハ! エロい遊びの代償は高くついたな! さあ、想像しろ! お前はその中で、体を洗うことも出来ず、二度と絶頂を味わうこともなく、男も知らぬまま、皮膚が腐り、だんだん老いて死んで行くのさ!」

 え?
 え? え?

 そうか。
 もう私はこの甲冑を脱げないのか。

 乳首とクリトリスに毛虫を這わせたまま。

 やがてそれも死んで腐った汁をまぶしたまま。

 甲冑の下に仕舞い込まれた3つの快感の突起に二度と触れられぬまま。

 胎内に逝けないディルドーを握り締めたまま。

「キャーーーッ!」
「わーーーーッ! くそっ!」

 クレアに掴み掛かろうとするグレンドルやリンダ達のやりとりを、遠い座席で見る演劇のように呆然と見ていた。


 馬車から眺める遠くの景色のようにゆっくりと、

 私の目の前で、私の自由の鍵が、

 ぽーんと飛んで、炉に投げ込まれた。


 それは炉の奥の真っ赤に燃える石炭の塊の上にチャリンと載ったが、

 グレンドルが火掻き棒を掴む間もなく、

 鍵束の形のまま真っ赤になり、

 輪郭が細くなり、

 やがて形を失って、

 石炭の隙間から流れ落ちて、炉の底に消えた。

 あ。

 あっ。

 あっ、あっ、あっ、あ。

 き、来た。

 なんか来た。

 すごいの来た。

 ちょ、なんで?

 なんでイクの?

 絶対逝けない体にされてるというのに。

 言葉で?

 言葉でイクの?

 膣が滅茶滅茶締まってるウウウ!

 ぬるい棒なんておかまいなしに!

 きいいいいいいいいいいいいいいいい!!!

 きもちいいいいいいいい!

 一生このままってきもちいいいいいい!!


 狂った!

 私、狂ったよ!

 アソコが熱い!

 クリトリスが破裂する!

 乳首が甲冑を突き破りそう!

 全身の毛孔が全開になり、脂汗が噴き出す。


 イグぅぅぅぅううううううううううう!!!


 グレンドルに背中から抱きつき、指の甲冑が硬い筋肉にめり込むほど抱き締めて、立ったままずっとずっと逝き続けた。

「スレイ! しっかりしろ! スレイ! ああ、モリスさえ居ればなぁ…… おい、きっとモリスがなんとかしてくれるよ! おい、スレイ!」
「ギャハハハハハ! ついにご主人様の仇を討ったぞ! テストステラ姫! お前もここは偽者に任せて、ご主人様の元でずっとそうしていれば良かったものを!」

「偽者…… 間者…… そうか、スレイの偽者の腕を潰したのはお前か!」
 グレンドルがぼそりと呟いた。

 突然ピキーーンというような音が頭の中で弾け、超超超絶頂の余韻も冷め遣らぬ、足元もふらつく体で、グレンドルの腰の剣を抜き、クレアの前で構えた。

 私がどうしてこんなに偽者の子の身の上にこだわるのかわからない。
 私も戦では敵兵だって何人も殺しているのに。
 その兵にだって家族があったろうに。

 でも、私という存在に直接関わって人生をねじ曲げられ、逆らえぬ命令を押しつけられて不幸になった、というのがどうしても許せなかった。
 身勝手な私怨と言えば私怨だ。
 このクレアという女も、結局は私のそれと同質の私怨だろう。
 ならば刃を交えて、勝った方が正義だ。

 クレアは表情を歪め、隠し持った仕込みを抜いた。
 バルベロッテからこの甲冑の弱点を聞いているのか、関節部をガンガンと突いてくる。

 私は鉄仮面の奥から冷ややかな目でそれを見つめ、甲冑の手で刃を鷲掴みにし、バキンと折り去った。
「ひいっ!」
 不敵な笑みを絶やさなかったクレアが見せる恐怖の表情。

 お前が狂気なら私も狂気だ。
 グレンドルの剣でクレアのはらわたを刺し貫き、返り血も気にせず柄をぐるりと捻って、傷を挫滅させ、切り口を拡げてから剣を抜く。
 文字で表せぬような断末魔の叫びを上げてクレアは絶命した。
 抜いた剣でうつ伏せに倒れたクレアの背中を、幾度と無く刺す。
「おい! スレイ! もうやめろ! スレイってば!」

 グレンドルに引きはがされ、血まみれの剣をグレンドルに返した所で、フッと緊張が緩み、気を失った。

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