檻姫

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  らぶらぶ刑  

 目が覚めたらグレンドルの部屋に居た。
 ベッドに半身を起すと、甲冑の鳴る音に気付き、グレンドルがこっちへ来た。
「お、気がついたか? 奥さんたちとも相談したんだが、お前の部屋に戻すと正体が知れて騒ぎになるから、モリスが戻るまではとりあえず俺んトコで我慢してくれ。どうせ手ぇなんて出せないしな、ハハハ。 ほい、これ」
 石墨と小さい黒板を渡された。
『ありがとう』
 黒板に書き付けてグレンドルに見せる。
「ははは、いいって。まぁモリスが帰ってくればなんとかなるだろう。それまでの辛抱だな」
 グレンドルは楽観視しているが、この甲冑がそんなに甘くないということを、私は嫌というほど知っている。
 私はもう永久にこの中で暮らすのだ。

「しかし、あのスレイがあんなに取り乱すとは思わなかったな。ほら、お前の指の痕。すごい力だったぞ」
 私がグレンドルに抱き付いた時の状況を思い出し、甲冑の中で火が出そうなほど赤くなった。
 ショックだったのではなく、今まで経験したこともないほど逝っていたのだ、なんて言えない。
『すまん』
「あ、いや、個人的には抱き付かれたのは嬉しかったけどな。しかし、そんなにショックだったか? いくら鍵を融かされたからって、あれはさすがにやり過ぎだろ」
 グレンドルは、私がショックで立ちつくし、怒りに任せて斬り付けたと思っている。

 二度とのこ甲冑を脱げないという事実が、だんだんと実感に変わってくる。
 黒板を掴み、ボーッとしながらカカカッと書き付けて、グレンドルに見せる。
『こんなことならさっさとお前にやればよかった』
「何を?」
『しょじょ。 膜はとっくに無いがな』
「ブッ!! バ、バカ! お前、立場ってもんがあるだろう! 自分だけの身体じゃないんだぞ」 
『なぜあの時、前に入れなかったのだ。バカだな』
「そりゃこんなことになるって分かってたら入れてたさ! 俺はいつだってそうなんだ。要領が悪いんだ。
10枚の富くじのうち1枚を姉ちゃんにやったらそれが大当たり。おかげで嫁入り道具が買えたんだけどな。
騎士見習い時代同期のヨークと俺で指揮官目指してたんだが、俺はちょっとした不正が嫌で先輩の命令聞かなかったら、あいつは今や若手小隊長、俺は未だにこんなんだ。ま、だからこそ姫とタメ口きけるほど知り合えたんだけどもな」
『それのどこが要領悪いんだ?』
「だって……」
『お前の戦闘時の勘てすごいぞ。我々にはそっちの方が大事だ。要領なんて気にするな。それに……』
 黒板が足りなくなった。
 ぼろ布で消して次を書く。
『王女、の、尻、の、味を、知って、いる、のは、お前、だけ、だろ?』
 グレンドルを慰める誉め言葉のつもりでカツカツと冷静に書き付けてから、見せる直前にボン!と真っ赤になった。

 うわああああ!私もうだめだぁ!こんなこと平然と書くようになっちゃって!
 尻の味って何よぉ、しかも自慢げだし!
 こんな大恥かかせるのも調教の仕掛けだったのかよぉバルベロッテぇ!

「? 何止まってんだ? 次見せろよ」
 サッと黒板を取り上げられた。
 わーーーーーッ! 読んじゃだめえぇぇぇ!!

 ボガーーン!!
 そんな強烈な擬音が当てはまるほどにグレンドルが赤面し、狼狽した。
「そ、そそそうだな、俺ってららら、ラッキーなやややつだよな。つか、スレイがずっとその甲冑のままでも、俺がもらうから! 王様に掛け合うから!」
 グレンドルの言葉に嬉しくなったが、反面、政略結婚などの政治手段としての国のパーツとしての王女の立場を、自分の趣味の淫らな遊びが元で潰してしまったことが父上に申し訳なくて少し暗くなった。

「そ、そうだ、腹減ってねぇか? 朝飯まだだろ。場所が地下牢で申し訳ないけど、奥さんたちの誰かが待機してるって言ってたから、トイレと食事を済ませて来いよ」
 グレンドルが必死で話題を変えようとする。
 手を出して黒板を早く戻せとせがむ。
 渡されたらぼろ布で目茶苦茶に擦って先程の文を消し、『わかった』と上書きした。

「立てるか? 地下室の入り口まで一緒に行くよ。その先の地下牢までは一人で行ってくれ」
 コクリと頷いた。

 地下牢では本物のミレアリアが待っていて、他に檻が2つ置いてあって、リンダとマスーラが詰め込まれていた。
「姫様済みませんでした。お陰さまで昨日の今日ですが体調もいいです。私の偽者は私がのんべぇだと知らなかったようですね」
 何よりだという意味で頷き、食事と排便を世話してもらった。

 地上に上がるとグレンドルが待っていた。
 のどかな明るい中庭の小路を2人で歩いていると、バルベロッテの所での暮らしを思い出してしまった。
 これがこの後ずっと続くんだ。
 しかも風呂なしで。
 どこまで生きられるか、本当に発狂するかもわからないが、生きられる所まで生きてみよう。
 バルベロッテの部屋で薬を浴びせられ拉致された時に、私の短い一生は終わっていたのだと思えば、今は相当に楽しい暮らしを送っていることになるのだから。

 少しフッ切れたら、歩きながら急に毛虫のことを思い出した。
 不快な痒みに3つの突起がじんじんするが、もう動いてはいないようだ。

 ゾゾゾーーーー!っと真っ青になった。

 グレンドルの腕を掴み、グイグイと彼の自室まで急がせる。
 やっと部屋に着いた。

「どうしたんだ、一体」
『間者に、乳首とクリトリスの所に毛虫を入れられた』
 グレンドルが無言でボォーーッ!と真っ赤になった。
 うわあああ!
 またやった!
 妻達やモリス相手じゃないんだから。
 グレンドルに向かって『乳首』とか『クリトリス』とか平然と書いちゃった!
 私死にたいーー!

 ガーッとぼろ布で消して書き直した。
『だいじなトコロで毛虫が死んでる。どうしよう』
「あいつが言ってた毛虫ってそのことか。脱げないんじゃ洗えないしな。甲冑ごと風呂に入れば? 隙間からお湯が入って少しずつ流れるんじゃない?」
『鍵が錆びるかもしれぬ』
「そうだな、少なくともモリスが戻るまでは下手に弄れないな」

 気分と体調が少しずつ戻って来たせいか、むず痒さが戻って来た気がする。
 グレンドルの部屋で、グレンドルの前で、椅子に掛けたまま、内股をもぞもぞと擦り合わせる。

「どうした?」
『快感に気をやれない仕掛けを入れられている。しばらく行動がおかしくなるが、出来れば見ないでくれ』
「それってお前、このあと一生その生殺しのままってことか?!」
『そうだ。 面と向かって口で言うな。恥ずかしさで死ぬ』
「わーーっ! すまん、すまん! わ、わかった、お、俺、今夜、警らなんで、ベッドで仮眠取ってるから! ら、楽にしててくれ!」
 グレンドルはドスンとベッドに横になった。

 開け放たれた窓から、城の外ののどかな景色が見え、草木の香りをたっぷり含んだ午後の風が穏やかに吹き込んでくる。

 グレンドルは仰向けに横たわり、これから寝るというのに腕を組んでしかめ面をしている。
 私はといえば、死んだ毛虫汁の痒みのおぞましさに、嫌でも頭の中を非日常へと引きずり込まれてしまう。
 しかめ面の面白いグレンドルを見ながら、鳥のさえずりを聞きながら、草の香を嗅ぎながら、クリトリスや乳首周りの痒みに泣きそうになる。

 でももう他にすることもなくなってしまったので、蝕む快楽に身を任せる。

「ンフッ……」
「ンッ……」
「ン……」
「ンン……」

 あ、そうだ、先に書いておこう。
 黒板と石墨を取り上げ、『み・る・な』と書き付けた。

「ンッ……」
「ンーーッ」
「ンンンンッ……」
「フヒウ」
「ンッ……」
「ンーーッ」
「ンーーーーッ」
「ンーーーーーーーッ」
「ンンンンンンンーーーーーーーーーーッ」
 ―― カチッ ――
「ンンンンンンーーッ!!!」
 やっぱり逝けないいいい!!
 悔しくて足をバタバタさせる。
 グレンドルがチロリと横目で見た。

『みるな』

 ビクッと目を閉じるグレンドル。

 ああ、鍵を溶かされてしまったあの瞬間は、何もしなくても逝けたのに。
 それまで積もった逝けないストレスがあってこそのあの絶頂で、また再現しようとするなら、同じだけ生殺しのエナジー溜めてから、あれと同等の超刺激を与えないと駄目なのだろうか。

 ぼろ布を取り上げ、『みるな』を消す。
『一緒に居てもいいか? 甲冑が冷たくて済まん』
 と書き付けて、石墨をポイッと投げ捨てた。
 ドカドカとベッドへ行き、グレンドルの横にドカンと寝て、ぐいぐいとグレンドルに体を押し付ける。
「なっ!?」
 鉄仮面の顔をグレンドルの厳つい肩に押し当てながら、腕だけグレンドルの前にかざして黒板を見せた。
「ブッ!! ススススレイがいいならすすすすきなだけ居ろよ」
『済まん』のとこだけもう一回指差す。
「お、おう」
 グレンドルが横を向いて、ぎこちない手つきで私の肩を抱いた。
 今度は『冷たくて』からを指差した。
「そんなことないぞ。肩とか顔とか、隙間の多い所は冷たいけど、腰とか胸とか太ももとか、スレイの肉が甲冑にぴっちり密着してる所は、裸のスレイを抱いてるみたいに温かいぞ」
 私を慰める意図で、グレンドルは『冷たい』を過剰に否定したくて言ったのだろうが、私は自分の肉の温度を露呈している気がして、恥ずかしさで真っ赤になった。
 第一、『肉』って何よ! 失礼な。

 膣内のディルドーが緩く甘く動く。
 でも、今までのような意地の悪い動きではない。
 グレンドルに触れられて落ち着いた気持ちになった私の心を、優しく優しく高めるように動く。
 今、グレンドルのモノを入れられて、体を動かさずにじっと膣で握ったら、きっとこんな感じなのかな。
 そう思うと、逝けなくとも何だか嬉しい。

 吹き込む柔らかな風に包まれ、グレンドルと一緒になってそのまま眠ってしまった。

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